Presentation Information
[T13-O-21][Invited] Reconstruction of atmospheric and oceanic variability using carbonate materials: From seasonal scale to glacial/interglacial scale
*Ryuji ASAMI1 (1. Graduate School of Science, Tohoku University)
【ハイライト講演】第四紀の陸海における古環境変動の情報は,今後の環境変動を予測する上で重要である.本講演では,造礁性サンゴと硬骨海綿から海洋の古環境変動を,鍾乳石から陸上の環境変動を詳細に復元した研究結果が紹介され,また今後の研究についても展望が示される.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
carbonate,paleoceanography,paleoclimatology,stable isotope composition,Quaternary
第四紀の気候は,地球軌道要素変動に伴う緯度別の日射量変化,温室効果気体の濃度変化,氷床量変化などの内的・外的営力や相互フィードバックにより変化してきた.これまで,堆積物や氷床コアなどの地質試料の解析によって陸海の古環境記録が蓄積され,数値シミュレーション研究の進展とともに第四紀の気候変動の詳細が明らかにされつつある.なかでも炭酸塩試料は,それが形成された当時の環境(温度,母液水の組成など)を定量的な化学的情報として記録するため,古海洋・古気候のプロキシとして重要である.本講演では,海洋のプロキシとなる海棲生物(サンゴと硬骨海綿),大気のプロキシとなる石筍を用いた解析から,第四紀における季節,数年〜数十年,数千〜数万年スケールの気候変動を探る研究例を紹介する.
造礁サンゴは,明瞭な骨格年輪の形成と放射性同位体測定によって正確な時間決定が可能である.骨格の酸素同位体組成(δ18O)の解析によって,水温や塩分の時間変化を月単位の分解能で,そして数百年というデータ長で捉えることができる.そのため,過去の海洋変化の季節性だけでなく,モンスーンやエルニーニョ,PDO(Pacific Decadal Oscillation)といった数年〜数十年スケールの大気海洋変動を議論することが可能である.発表者らの研究グループでは,南〜北琉球に生息する複数のサンゴから300年長のδ18Oデータを抽出し,北西太平洋亜熱帯域の海洋場の時空間変動を解析している.その結果,琉球列島の表層水温には近年の温暖化トレンドの影響のほか,東アジアモンスーンやPDOによる変動が明瞭に認められる.沖縄島や喜界島の化石サンゴからは,後期完新世において約40年,約20年,9–6年,4–3年の有意な周期性が検出され,各成分の変動と関係性が60–90年で変化することが示された(Asami et al., 2020a; Chuan et al., 2023).これは,PDOとモンスーンの琉球列島に及ぼす影響が大西洋数十年規模変動によって変調する可能性を示唆する.
硬骨海綿は,共生藻類を有しないため骨格が海水と同位体平衡で形成され,同位体組成の個体差が小さい(Asami et al., 2020b).骨格構造が複雑で成長速度が小さい(1 mm/yr以下)ために,高時間分解能の解析には不向きであるものの,数年〜百年スケールの海洋変動を高確度で捉えることができる.南〜北琉球の硬骨海綿を解析した結果,δ18Oは琉球列島全域において20世紀半ばから水温上昇と塩分低下が顕著であることを示した(Asami et al., 2021a).また,炭素同位体組成は人為起源CO2の海洋への吸収が長期的に増加していることを示し,20世紀半ば以降の増加速度はそれ以前の速度と比べて約5倍大きい.
鍾乳石(石筍)は,そのδ18O変化に大気の情報(気温,降水量など)を記録する.沖縄島の石筍解析では,過去5万年間のd18Oの時系列データが構築され,退氷期ターミネーションが明瞭に復元された.氷期にはDansgaard–Oeschgerイベントに対応する変化がみられ,北西太平洋亜熱域においても千年スケールの気温変化が支配的であった可能性を示唆する.また,洞穴遺跡から出土した貝化石と石筍を組み合わせた地質考古学的手法によって,最終氷期の気温が季節レベルで復元された(Asami et al., 2021b).これは,生息場の温度と水のδ18Oで決まる貝化石のδ18Oと,石筍中の流体包有物(形成時の洞内水=降水)のδ18Oを分析することによって,当時の気温を算出する手法である.その結果,沖縄の気温は現在と比べて23kaで6〜7℃低く,16〜13kaで4〜5℃低かったことが示された.最終氷期における気温低下は海水温低下より約2倍大きく,ターミネーションにおける海と大気の温度変化が異なることを意味する.
過去の気候変動様式を理解するためには,様々な時間スケールの大気・海洋の変動現象を捉えることが重要である.本講演では,発表者が参加したIODP Expedition 389 -Hawaiian Drowned Reefs-の科学的探求(過去50万年間に起きた複数回のターミネーション,氷期の数年〜数十年スケール気候変動の新たな知見)とその成果への期待についても紹介したい.
Asami et al. (2020a) GRL, 47, e2020GL088509.
Asami et al. (2020b) PEPS, 7, 15.
Asami et al. (2021a) PEPS, 8, 38.
Asami et al. (2021b) Sci. Rep., 11, 21922.
Chuang et al. (2023) QSR, 322, 108392.
造礁サンゴは,明瞭な骨格年輪の形成と放射性同位体測定によって正確な時間決定が可能である.骨格の酸素同位体組成(δ18O)の解析によって,水温や塩分の時間変化を月単位の分解能で,そして数百年というデータ長で捉えることができる.そのため,過去の海洋変化の季節性だけでなく,モンスーンやエルニーニョ,PDO(Pacific Decadal Oscillation)といった数年〜数十年スケールの大気海洋変動を議論することが可能である.発表者らの研究グループでは,南〜北琉球に生息する複数のサンゴから300年長のδ18Oデータを抽出し,北西太平洋亜熱帯域の海洋場の時空間変動を解析している.その結果,琉球列島の表層水温には近年の温暖化トレンドの影響のほか,東アジアモンスーンやPDOによる変動が明瞭に認められる.沖縄島や喜界島の化石サンゴからは,後期完新世において約40年,約20年,9–6年,4–3年の有意な周期性が検出され,各成分の変動と関係性が60–90年で変化することが示された(Asami et al., 2020a; Chuan et al., 2023).これは,PDOとモンスーンの琉球列島に及ぼす影響が大西洋数十年規模変動によって変調する可能性を示唆する.
硬骨海綿は,共生藻類を有しないため骨格が海水と同位体平衡で形成され,同位体組成の個体差が小さい(Asami et al., 2020b).骨格構造が複雑で成長速度が小さい(1 mm/yr以下)ために,高時間分解能の解析には不向きであるものの,数年〜百年スケールの海洋変動を高確度で捉えることができる.南〜北琉球の硬骨海綿を解析した結果,δ18Oは琉球列島全域において20世紀半ばから水温上昇と塩分低下が顕著であることを示した(Asami et al., 2021a).また,炭素同位体組成は人為起源CO2の海洋への吸収が長期的に増加していることを示し,20世紀半ば以降の増加速度はそれ以前の速度と比べて約5倍大きい.
鍾乳石(石筍)は,そのδ18O変化に大気の情報(気温,降水量など)を記録する.沖縄島の石筍解析では,過去5万年間のd18Oの時系列データが構築され,退氷期ターミネーションが明瞭に復元された.氷期にはDansgaard–Oeschgerイベントに対応する変化がみられ,北西太平洋亜熱域においても千年スケールの気温変化が支配的であった可能性を示唆する.また,洞穴遺跡から出土した貝化石と石筍を組み合わせた地質考古学的手法によって,最終氷期の気温が季節レベルで復元された(Asami et al., 2021b).これは,生息場の温度と水のδ18Oで決まる貝化石のδ18Oと,石筍中の流体包有物(形成時の洞内水=降水)のδ18Oを分析することによって,当時の気温を算出する手法である.その結果,沖縄の気温は現在と比べて23kaで6〜7℃低く,16〜13kaで4〜5℃低かったことが示された.最終氷期における気温低下は海水温低下より約2倍大きく,ターミネーションにおける海と大気の温度変化が異なることを意味する.
過去の気候変動様式を理解するためには,様々な時間スケールの大気・海洋の変動現象を捉えることが重要である.本講演では,発表者が参加したIODP Expedition 389 -Hawaiian Drowned Reefs-の科学的探求(過去50万年間に起きた複数回のターミネーション,氷期の数年〜数十年スケール気候変動の新たな知見)とその成果への期待についても紹介したい.
Asami et al. (2020a) GRL, 47, e2020GL088509.
Asami et al. (2020b) PEPS, 7, 15.
Asami et al. (2021a) PEPS, 8, 38.
Asami et al. (2021b) Sci. Rep., 11, 21922.
Chuang et al. (2023) QSR, 322, 108392.
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