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[T15-O-5]Statistical-mechanics prediction of geological phenomena and regional geology

*Kazuhiro MIYAZAKI1, Kazuki NAITO1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)
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Keywords:

geological map,landslide,deposit,regional geology,neural network

地質調査総合センターでは,地質情報DXを進めており,その一環として,北部九州地域を対象に,構造化地質図を用いた地滑り発生,金銀鉱床分布,炭田分布など地質関連事象の統計力学的予測を行った.その結果,地域地質研究に関係する興味深い予測が得られたので報告する. 

地質関連事象の統計力学的予測を行うためには,事象発生に影響し,かつ空間的に変動する確率変数が必要となる.何か予測するべき事象があって,その事象が発生する場合に1の値をとり,そうでない場合は0の値をとる2値の確率変数をdと指定し,これを目的変数と呼ぶことにする.目的変数以外の確率変数xを説明変数とする.説明変数は,その地点の地質,地形,あるいはこれら以外の事象発生に関係する確率変数θiからなり,x = {θ1,,,,θn-1}と表すことが出来る.目的変数の予測発生確率を統計力学的に求めるため,これらの確率変数からなる確率分布(d, x)を考える.ある事象が起こる確率は,確率分布の条件付き確率(d = 1|x)で与えられる.問題は,確率分布(d, x)の関数形をあらかじめ知ることができない点にある.従来の解析的に予測できる事象発生との大きな違いがここにある.しかし,全く方法がないわけではない,近似的な確率分布(d, x)(確率分布モデル)を観測データ{d, x}から推定する方法が用いられる.いわゆる機械学習である.機械学習のアルゴリズムには様々あるが,どのような関数形でも近似できる万能近似定理が証明され,確率変数の増大やデータ数の増大にも柔軟に対応できるニューラルネットワークを用いる. 

今回の計算では,目的変数として,地質に関連した確率変数(地質変数)と地形に関連した確率変数(地形変数)を用いた.地質変数は,構造化地質図から取得した.構造化地質図とは,地層・岩体を形成年代(年代),構成岩石種(岩石),形成環境(岩相)の3つの要素の組合せで表現した地質図で,これらの組合せで多様な地層岩体を表現出来る.これに対し,構造化を行ってない地質図を非構造化地質図と呼ぶ.使用した地質図は,20万分の1シームレス地質図V2(地質調査総合センター,2022閲覧)である.地形変数は,国土地理院のDEM(国土地理院,2022)から生成した.地すべり発生の目的変数は,防災科学技術研究所の地すべり地形分布図(防災科学技術研究所,2022閲覧)を,鉱床分布は地質図NAVI(地質調査総合センター,2024年閲覧)の鉱床・鉱徴地分布図を用いた.予測パフォーマンスの評価には,Receiver Operating Characteristic (ROC)解析及びPrecision-Recall (PR)解析を用いた.これらの解析を用いて,予測パフォーマンスの比較を行った.後述の事例では,構造化地質図を用いた方が,非構造化地質図よりも高い予測パフォーマンスを示した.以下では,どの説明変数が予測にどの程度貢献しているか表すためSHAP値も求めた. 

計算は北部九州を対象に行った.地すべり発生予測では,傾斜,年代,岩相,岩石の各説明変数が高い貢献度を示した.計算領域を堆積盆ごとに限定して行った結果,予測パフォーマンスの向上認められた.同一堆積盆内の地質構造発達史を共有するドメインを認識することの重要性が示された.さらに,広域での計算結果を実際の地すべり発生頻度と比較することにより,マグマの貫入に伴う高温型変成作用の重複が地すべり発生予測確率に対して観測される地すべり発生頻度を減少させる傾向があること,金銀熱水鉱床形成に伴う熱水変質が予測確率に比べ頻度を増大させる傾向があることが認められた.いずれの結果も,予測パフォーマンス向上のためには,広域あるいは局所的な火成活動に関する地域地質研究が重要であることを示している. 鉱床分布予測では,地形変数として地形起伏指数を用いた.金銀鉱床分布予測では,年代,岩相,起伏指数の貢献度が高いが,炭田分布では,年代,岩相の貢献度が高く,起伏指数はほとんど関係しない.炭田分布の予測パフォーマンスの向上には,堆積盆形成環境のさらに詳しい情報を付加する必要があることが示唆された. 

今回の結果は,地質構造発達史を共有するドメインの認識,広域及び局所的な火成作用に伴う変成作用及び変質作用の解明,堆積環境の詳細など,地域地質研究成果の構造化地質図への付加が予測パフォーマンスの向上に重要であることを示している. 

引用文献: 地質調査総合センター(2022)20万分の1日本シームレス地質図V2; 国土地理院(2022)基盤地図情報;防災科学技術研究所(2022)地すべり地形GISデータ;地質調査総合センター(2024)地質図NAVI.

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