Presentation Information
[T6-P-10]Estimated Formation Temperature and Pressure Conditions of Granitoids in Eastern Shimane Prefecture and Eastern Matsuyama City, Ehime Prefecture, Japan
*Kai Nakahashi1, Satoshi SAITO1 (1. Ehime University Graduate School of Science and Engineering, Earth Science Division)
Keywords:
granitoids,Amphibole only geothermobarometer,San-in granitoids,Ryoke granitoids
1.はじめに 西南日本内帯は後期白亜紀から古第三紀の花崗岩類が広く分布しており, マグマの活動年代や岩石の構成鉱物などによって北側から山陰帯, 山陽帯, 領家帯に区分される (例えば石原, 1973; Ishihara, 1977など). 花崗岩類の形成深度の見積もりは, 鉱物組み合わせの決定や, サブソリダスでの変質の有無の議論が必要となることを理由に検討が難しく, 一級の課題として認識されている. この課題に取り組むため, 角閃石Al地質圧力計 (例えばHammarstrom and Zen, 1986など)がよく使用される. しかし, これらは共存相を議論, 仮定した上での適用となる. そのため一貫した手法による広域的な検討はなされていない. 一方で近年, 経験的な角閃石単相地質圧力計が提案されている (Ridolfi et al., 2010など). 経験的な角閃石単相地質圧力計(以下, 角閃石圧力計と略称)は, 適用の際に共存相の平衡状態を仮定する必要がなく, さらに一つの分析点から独立した結果が得られる (石橋ほか, 2021). 本発表は, 島根県東部山陰帯花崗岩類と愛媛県松山花崗閃緑岩の圧力測定の結果を報告する.
2.研究手法 本研究は山陰帯花崗岩類から大東岩体, 小木石英閃緑岩, 阿毘縁岩体を, さらに領家花崗岩類から松山花崗閃緑岩を対象に行った. 本研究では野外調査, 岩石記載, 薄片観察を行った. その後, SEM-EDSによる鉱物化学組成分析を行った. 温度圧力見積もりはRidolfi and Renzulli (2012)で提案された角閃石圧力計(式1)とPutirka (2016)で提案された(式2)を使用した. (式1)で用いられる元素組成はLeake et al. (1997)による13eCNKで標準化したもので, (式2)で用いられる元素組成はO = 23として標準化したものである.
(式1)lnP (MPa) = 38.723 -2.6957Si -2.3565Ti -1.3006Al -2.7780Fe -2.4838Mg -0.6614Ca -0.2705Na +0.1117K
(式2)T (℃) = 1781−132.74Si +116.6Ti −69.41Fe +101.62Na阿毘縁岩体, 大東岩体は苦鉄質包有岩を含む. 苦鉄質包有岩は, 主岩相と調和的な産状を示している. そのため本研究は主岩相だけでなく, 一部苦鉄質包有岩中の角閃石を使用した.
3.結果 山陰帯花崗岩類は黒雲母の緑泥石化が確認できるほか, 角閃石のゾーニングが確認でき, 褐色部と緑色部に分けられる. さらに不透明鉱物が多く含有されている. 一方, 松山花崗閃緑岩は変質鉱物が少なく, 角閃石は均一で褐色なものが確認できる. Hawthorne et al. (2012)による角閃石の分類では, 今回分析した角閃石はすべてカルッシックサブグループに分類され, 山陰帯花崗岩類に含まれる角閃石は褐色でpargasite~magnesio-hornblende, 緑色部でmagnesio-hornblendeに分類された. 松山花崗閃緑岩は, ferro-hornblendeに分類された. 松山花崗閃緑岩は角閃石粒子の中で顕著な組成差はない. 形成温度圧力見積もりには, 山陰帯花崗岩類は褐色部を, 松山花崗閃緑岩は全分析点を用いた. 温度圧力見積もりの結果は, 大東岩体で78~169 MPa, 761~804 ℃ (n = 4), 小木石英閃緑岩で98~147 MPa, 747~794℃ (n = 6), 阿毘縁岩体で158~235 MPa, 763~830 ℃ (n = 8), 松山花崗閃緑岩で60~238 MPa, 696~729 ℃ (n = 23)となっている.
4.考察 ジルコンは花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であり, マグマの固結末期に晶出すると考えられている. 本研究の調査地域は先行研究が複数存在し, 全岩化学組成分析がなされている. これらのデータを用いたジルコン飽和温度計(Watson and Harrison, 1983)による温度見積もりは, 大東岩体で736~786 ℃, 小木石英閃緑岩で640~753 ℃, 阿毘縁岩体で759~791 ℃, 松山花崗閃緑岩で730~760 ℃となっており本研究の温度見積もりと調和的である. Piwinskii and Wyllie (1970)は花崗岩類の溶融実験を基にH2Oに飽和した花崗岩類のソリダス曲線を提案している. 大東岩体の圧力見積もり (76~169 MPa)は比較的低圧な結果が得られたが, 大東岩体は主岩相である花崗閃緑岩が溶結凝灰岩に貫入している様子が確認されており (野口ほか, 2021), 圧力見積もりと調和的である. 小木石英閃緑岩の圧力見積もり (98~147 MPa)はH2Oに飽和したトーナル岩のソリダス曲線とほぼ一致している. 小木石英閃緑岩は隣接するトーナル岩とミングリングしている産状が報告されており(薬師寺ほか, 2012), 今回の結果と調和的である. 一方で阿毘縁岩体の圧力見積もり (158~235 MPa)は, 野外産状や岩石記載的特徴からは圧力を制約できず検討が難しい. 対して松山花崗閃緑岩の圧力見積もり (60~238 MPa)は低圧の結果が得られた. 松山花崗閃緑岩は, その岩体南部で泥質岩に接触変成作用を与えている (例えば野戸, 1975; 越智, 1982). 変成岩は緑色片岩相から角閃岩相紅柱石亜相と推定されている (宮崎ほか, 2016). また, 本地域に似た変成岩相を持つ朝倉地域は, 北野・池田 (2012)によってその最高変成時の圧力を2.3±0.9 kbarと推定されている. これらのことは, 本研究で見積もった松山花崗閃緑岩の圧力見積もりと調和的である.
【引用文献】Hammarstrom and Zen (1986), Am Mineral,71, 1297-1313; Hawthorne et al. (2012), Am Mineral, 97, 2031-2048; 石橋ほか (2021), 火山, 66, 2, 119-129; 石原 (1973), 鉱山地質, 23, 13-32; Ishihara (1977), Min Geol , 27, 293-305; 北野・池田 (2012), 地質雑, 118, 12, 801-809; Leake et al. (1997), Can Mineral, 35, 219-246; 宮崎ほか (2016), 産総研, 20万分の1, 松山図幅; 野口ほか (2021), 地質雑 127, 8, 461-478; 野戸 (1975), 地質雑, 81, 2, 59-66; 越智(1982), 地質雑, 88, 6, 511-522; Piwinskii and Wyllie (1970), J Geol, 78, 52-76; Putirka (2016), Am Mineral, 101, 841-858; Ridolfi et al. (2010), CMP, 160, 45-66; Ridolfi and Renzulli (2012), CMP, 163, 877-895; Watson and Harrison (1983), EPSL, 64, 295-304; 薬師寺ほか (2012), 地質雑, 118, 1, 20-38
2.研究手法 本研究は山陰帯花崗岩類から大東岩体, 小木石英閃緑岩, 阿毘縁岩体を, さらに領家花崗岩類から松山花崗閃緑岩を対象に行った. 本研究では野外調査, 岩石記載, 薄片観察を行った. その後, SEM-EDSによる鉱物化学組成分析を行った. 温度圧力見積もりはRidolfi and Renzulli (2012)で提案された角閃石圧力計(式1)とPutirka (2016)で提案された(式2)を使用した. (式1)で用いられる元素組成はLeake et al. (1997)による13eCNKで標準化したもので, (式2)で用いられる元素組成はO = 23として標準化したものである.
(式1)lnP (MPa) = 38.723 -2.6957Si -2.3565Ti -1.3006Al -2.7780Fe -2.4838Mg -0.6614Ca -0.2705Na +0.1117K
(式2)T (℃) = 1781−132.74Si +116.6Ti −69.41Fe +101.62Na阿毘縁岩体, 大東岩体は苦鉄質包有岩を含む. 苦鉄質包有岩は, 主岩相と調和的な産状を示している. そのため本研究は主岩相だけでなく, 一部苦鉄質包有岩中の角閃石を使用した.
3.結果 山陰帯花崗岩類は黒雲母の緑泥石化が確認できるほか, 角閃石のゾーニングが確認でき, 褐色部と緑色部に分けられる. さらに不透明鉱物が多く含有されている. 一方, 松山花崗閃緑岩は変質鉱物が少なく, 角閃石は均一で褐色なものが確認できる. Hawthorne et al. (2012)による角閃石の分類では, 今回分析した角閃石はすべてカルッシックサブグループに分類され, 山陰帯花崗岩類に含まれる角閃石は褐色でpargasite~magnesio-hornblende, 緑色部でmagnesio-hornblendeに分類された. 松山花崗閃緑岩は, ferro-hornblendeに分類された. 松山花崗閃緑岩は角閃石粒子の中で顕著な組成差はない. 形成温度圧力見積もりには, 山陰帯花崗岩類は褐色部を, 松山花崗閃緑岩は全分析点を用いた. 温度圧力見積もりの結果は, 大東岩体で78~169 MPa, 761~804 ℃ (n = 4), 小木石英閃緑岩で98~147 MPa, 747~794℃ (n = 6), 阿毘縁岩体で158~235 MPa, 763~830 ℃ (n = 8), 松山花崗閃緑岩で60~238 MPa, 696~729 ℃ (n = 23)となっている.
4.考察 ジルコンは花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であり, マグマの固結末期に晶出すると考えられている. 本研究の調査地域は先行研究が複数存在し, 全岩化学組成分析がなされている. これらのデータを用いたジルコン飽和温度計(Watson and Harrison, 1983)による温度見積もりは, 大東岩体で736~786 ℃, 小木石英閃緑岩で640~753 ℃, 阿毘縁岩体で759~791 ℃, 松山花崗閃緑岩で730~760 ℃となっており本研究の温度見積もりと調和的である. Piwinskii and Wyllie (1970)は花崗岩類の溶融実験を基にH2Oに飽和した花崗岩類のソリダス曲線を提案している. 大東岩体の圧力見積もり (76~169 MPa)は比較的低圧な結果が得られたが, 大東岩体は主岩相である花崗閃緑岩が溶結凝灰岩に貫入している様子が確認されており (野口ほか, 2021), 圧力見積もりと調和的である. 小木石英閃緑岩の圧力見積もり (98~147 MPa)はH2Oに飽和したトーナル岩のソリダス曲線とほぼ一致している. 小木石英閃緑岩は隣接するトーナル岩とミングリングしている産状が報告されており(薬師寺ほか, 2012), 今回の結果と調和的である. 一方で阿毘縁岩体の圧力見積もり (158~235 MPa)は, 野外産状や岩石記載的特徴からは圧力を制約できず検討が難しい. 対して松山花崗閃緑岩の圧力見積もり (60~238 MPa)は低圧の結果が得られた. 松山花崗閃緑岩は, その岩体南部で泥質岩に接触変成作用を与えている (例えば野戸, 1975; 越智, 1982). 変成岩は緑色片岩相から角閃岩相紅柱石亜相と推定されている (宮崎ほか, 2016). また, 本地域に似た変成岩相を持つ朝倉地域は, 北野・池田 (2012)によってその最高変成時の圧力を2.3±0.9 kbarと推定されている. これらのことは, 本研究で見積もった松山花崗閃緑岩の圧力見積もりと調和的である.
【引用文献】Hammarstrom and Zen (1986), Am Mineral,71, 1297-1313; Hawthorne et al. (2012), Am Mineral, 97, 2031-2048; 石橋ほか (2021), 火山, 66, 2, 119-129; 石原 (1973), 鉱山地質, 23, 13-32; Ishihara (1977), Min Geol , 27, 293-305; 北野・池田 (2012), 地質雑, 118, 12, 801-809; Leake et al. (1997), Can Mineral, 35, 219-246; 宮崎ほか (2016), 産総研, 20万分の1, 松山図幅; 野口ほか (2021), 地質雑 127, 8, 461-478; 野戸 (1975), 地質雑, 81, 2, 59-66; 越智(1982), 地質雑, 88, 6, 511-522; Piwinskii and Wyllie (1970), J Geol, 78, 52-76; Putirka (2016), Am Mineral, 101, 841-858; Ridolfi et al. (2010), CMP, 160, 45-66; Ridolfi and Renzulli (2012), CMP, 163, 877-895; Watson and Harrison (1983), EPSL, 64, 295-304; 薬師寺ほか (2012), 地質雑, 118, 1, 20-38
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