Presentation Information
[T15-P-24]Field occurrence, chemical composition, and age of the felsic rock and mafic enclaves in the Hashigui-iwa dike, Wakayama Prefecture, Japan
*Yutaka WADA1, Hironao SHINJOE2, Reishi TAKASHIMA3, Sota NIKI4, Yuji ORIHASHI5, Minoru SASAKI5, Takafumi HIRATA6 (1. Nara University of Education, 2. Tokyo Keizai University, 3. Tohoku University, 4. Nagoya University, 5. Hirosaki University, 6. The University of Tokyo)
Keywords:
Hashiguiiwa dike,mafic enclaves,chemistry,U-Pb age,Miocene,Kii peninsula
1.はじめに
和歌山県串本町に露出する国指定天然記念物「橋杭岩」は珪長質火山岩からなる岩脈であり,泥岩を母岩とする.本講演では,2021年に許可を得て採取した岩脈本体を構成する珪長質火山岩と苦鉄質包有物について,野外・鏡下での岩相と全岩化学組成を,珪長質火山岩についてアパタイト化学組成とジルコンU-Pb年代測定値を報告する.
2.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の岩相と岩石組織
岩脈の走向・傾斜はN10˚W,80˚Eで,15 m程度の最大幅をもつ(和田・南川, 2021).鏡下において珪長質火山岩は斑晶として石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母を含み,脱ガラス化して微珪長質組織の石基からなる流紋岩である.苦鉄質包有物や他形ザクロ石を含む花崗岩片も見られる.
流紋岩に含まれる灰黒色の苦鉄質包有物についてはこれまで全く記載が無いが,岩脈縁部の露頭面で径数cm~十数cmの楕円形ないし不定形状のものを多数観察できる(図1).また,岩脈急冷縁のすぐ内側には岩脈壁面に平行に分布・濃集するように白色・球状の包有物が見られ,その断面から流紋岩皮殻(厚さ数cm以下)に覆われた苦鉄質包有物とわかる.流紋岩皮殻と包有物本体の間には暗色部がしばしば挟在し,鏡下(図2)において流紋岩と苦鉄質包有物の両者に由来する斑晶・石基が混合した暗色の組織を示す.混合の程度により暗色の組織はさらに2タイプに区別される.流紋岩皮殻にはスフェルライトが認められる.ただし岩脈縁部と異なり,岩脈内部に見られる不定形状苦鉄質包有物(最大径30 cm程度)に流紋岩皮殻はない.鏡下で苦鉄質包有物はいずれも填間状組織の石基に斜長石斑晶を含む玄武岩質安山岩である.斜長石斑晶には自形・柱状のものと融食形で外形に沿った汚濁帯をもつものがある.融食形で反応縁をもつ石英捕獲結晶もよく含まれる.以上の特徴は,橋杭岩岩脈をつくった珪長質マグマが貫入前に苦鉄質マグマと接触し一部混合したことを示す.なお,いずれの岩相にも方解石が二次鉱物として晶出する.
3.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の全岩化学組成,アパタイト化学組成
珪長質火山岩と岩脈内部で採取した苦鉄質包有物について,弘前大学での蛍光X線法およびActLabs社に委託したICPMS法で全岩化学組成分析を行った.珪長質火山岩については東北大学においてEPMAによるアパタイト化学組成分析も行った.その結果,岩脈を構成する珪長質火山岩,苦鉄質包有物はIUGS分類(Le Maitre, 2002)における流紋岩,玄武岩質安山岩にそれぞれ分類され,記載岩石学的特徴と一致した.珪長質火山岩は著しく高いK2O量(7.66%;酸化物の総計100%換算)をもちアルカリ長石の集積の影響を見ている可能性がある.周辺岩体との比較では,主に低K2O量の珪長質火成岩を主とする潮岬火成複合岩類(三宅, 1981; 新正ほか, 2007)とは明らかに異なる.また,熊野酸性岩類の組成と比較して低いAl2O3量など,アルカリ長石の集積で説明がつかない元素がある.加えて,アパタイト組成も熊野酸性岩類とは異なる領域にプロットされる.一方,苦鉄質包有物は中カリウムソレアイトの領域にプロットされ,N-MORBで規格化した液相濃集元素のプロットでは,Nb,Ta枯渇やPbスパイクなど「島弧的」な特徴を持ち,近接した潮岬火成複合岩類との関連性を考える場合,同岩体の苦鉄質岩がMORBに類似する(Miyake, 1985)との主張とは相容れない.ただし,苦鉄質包有物が液相濃集元素のプロットでNb,Ta枯渇やPbスパイクを持つ流紋岩マグマに取り込まれたものであることには注意を要する.
4.珪長質火山岩のジルコンU-Pb年代
珪長質火山岩について,東京大学地殻化学研究施設敷設の機器によるレーザーアブレーションICP質量分析法によってジルコンU-Pb年代測定を行い,コンコーダントな年代を持つ20粒子の238U-206Pb年代の加重平均として15.21±0.11 Ma(1σ)の値を得た.この年代値は西南日本外帯の珪長質火成岩のU-Pb年代値(14.5±1.0Ma; Shinjoe et al., 2021)の範囲にあり,とりわけ,15 Maより古い初期の活動が外帯の中でも海溝に近い地域に分布することが多い傾向(Shinjoe et al., 2021)と整合的である.
Refereces
Le Maitre(2002) ISBN:9780511535581.
三宅(1981) 地質雑, 87, 383.
Miyake(1985) Lithos, 18, 23.
新正ほか(2007) 地質雑, 113, 310.
Shinjoe et al.(2021) Geol.Mag., 158, 47.
和田・南川(2021) 火山, 66, 281.
和歌山県串本町に露出する国指定天然記念物「橋杭岩」は珪長質火山岩からなる岩脈であり,泥岩を母岩とする.本講演では,2021年に許可を得て採取した岩脈本体を構成する珪長質火山岩と苦鉄質包有物について,野外・鏡下での岩相と全岩化学組成を,珪長質火山岩についてアパタイト化学組成とジルコンU-Pb年代測定値を報告する.
2.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の岩相と岩石組織
岩脈の走向・傾斜はN10˚W,80˚Eで,15 m程度の最大幅をもつ(和田・南川, 2021).鏡下において珪長質火山岩は斑晶として石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母を含み,脱ガラス化して微珪長質組織の石基からなる流紋岩である.苦鉄質包有物や他形ザクロ石を含む花崗岩片も見られる.
流紋岩に含まれる灰黒色の苦鉄質包有物についてはこれまで全く記載が無いが,岩脈縁部の露頭面で径数cm~十数cmの楕円形ないし不定形状のものを多数観察できる(図1).また,岩脈急冷縁のすぐ内側には岩脈壁面に平行に分布・濃集するように白色・球状の包有物が見られ,その断面から流紋岩皮殻(厚さ数cm以下)に覆われた苦鉄質包有物とわかる.流紋岩皮殻と包有物本体の間には暗色部がしばしば挟在し,鏡下(図2)において流紋岩と苦鉄質包有物の両者に由来する斑晶・石基が混合した暗色の組織を示す.混合の程度により暗色の組織はさらに2タイプに区別される.流紋岩皮殻にはスフェルライトが認められる.ただし岩脈縁部と異なり,岩脈内部に見られる不定形状苦鉄質包有物(最大径30 cm程度)に流紋岩皮殻はない.鏡下で苦鉄質包有物はいずれも填間状組織の石基に斜長石斑晶を含む玄武岩質安山岩である.斜長石斑晶には自形・柱状のものと融食形で外形に沿った汚濁帯をもつものがある.融食形で反応縁をもつ石英捕獲結晶もよく含まれる.以上の特徴は,橋杭岩岩脈をつくった珪長質マグマが貫入前に苦鉄質マグマと接触し一部混合したことを示す.なお,いずれの岩相にも方解石が二次鉱物として晶出する.
3.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の全岩化学組成,アパタイト化学組成
珪長質火山岩と岩脈内部で採取した苦鉄質包有物について,弘前大学での蛍光X線法およびActLabs社に委託したICPMS法で全岩化学組成分析を行った.珪長質火山岩については東北大学においてEPMAによるアパタイト化学組成分析も行った.その結果,岩脈を構成する珪長質火山岩,苦鉄質包有物はIUGS分類(Le Maitre, 2002)における流紋岩,玄武岩質安山岩にそれぞれ分類され,記載岩石学的特徴と一致した.珪長質火山岩は著しく高いK2O量(7.66%;酸化物の総計100%換算)をもちアルカリ長石の集積の影響を見ている可能性がある.周辺岩体との比較では,主に低K2O量の珪長質火成岩を主とする潮岬火成複合岩類(三宅, 1981; 新正ほか, 2007)とは明らかに異なる.また,熊野酸性岩類の組成と比較して低いAl2O3量など,アルカリ長石の集積で説明がつかない元素がある.加えて,アパタイト組成も熊野酸性岩類とは異なる領域にプロットされる.一方,苦鉄質包有物は中カリウムソレアイトの領域にプロットされ,N-MORBで規格化した液相濃集元素のプロットでは,Nb,Ta枯渇やPbスパイクなど「島弧的」な特徴を持ち,近接した潮岬火成複合岩類との関連性を考える場合,同岩体の苦鉄質岩がMORBに類似する(Miyake, 1985)との主張とは相容れない.ただし,苦鉄質包有物が液相濃集元素のプロットでNb,Ta枯渇やPbスパイクを持つ流紋岩マグマに取り込まれたものであることには注意を要する.
4.珪長質火山岩のジルコンU-Pb年代
珪長質火山岩について,東京大学地殻化学研究施設敷設の機器によるレーザーアブレーションICP質量分析法によってジルコンU-Pb年代測定を行い,コンコーダントな年代を持つ20粒子の238U-206Pb年代の加重平均として15.21±0.11 Ma(1σ)の値を得た.この年代値は西南日本外帯の珪長質火成岩のU-Pb年代値(14.5±1.0Ma; Shinjoe et al., 2021)の範囲にあり,とりわけ,15 Maより古い初期の活動が外帯の中でも海溝に近い地域に分布することが多い傾向(Shinjoe et al., 2021)と整合的である.
Refereces
Le Maitre(2002) ISBN:9780511535581.
三宅(1981) 地質雑, 87, 383.
Miyake(1985) Lithos, 18, 23.
新正ほか(2007) 地質雑, 113, 310.
Shinjoe et al.(2021) Geol.Mag., 158, 47.
和田・南川(2021) 火山, 66, 281.
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