Presentation Information
[T17-O-6]Estimation of driving fluid pressure ratios based on quartz veins developed along subduction plate interfaces: Example from the Tamba Belt, Southwest Japan
*Kotaro ISHIDA1, Katsushi Sato1 (1. Division of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Kyoto University)
Keywords:
subduction zone,plate boundary,pore fluid pressure,Tamba Belt
間隙流体圧は岩石の摩擦強度を大きく変化させるため, 断層の挙動を理解するうえで重要なパラメータである. 一般的に, 沈み込み帯のプレート境界断層近傍における間隙流体圧は上載岩圧に近いと考えられている (例えば, Seno, 2009). 西南日本四万十帯の底付け付加体では, 剪断性や伸長性の鉱物脈を用いて過去のプレート境界断層近傍の流体圧比 Pf /σzz (Pf, σzzはそれぞれ流体圧と上載岩圧) が推定されており, それらはいずれも1に近い, または上回る値を示している (Hashimoto & Eida, 2015; Hosokawa & Hashimoto 2022). しかし, 過去のプレート境界断層周辺から高間隙流体圧の証拠を発見した例は四万十帯以外の地質帯ではほとんどない.
丹波帯のI型地層群には, 砥石型珪質粘土岩と呼ばれる遠洋性の堆積岩が広く分布している. I型地層群が付加した際には, 黒色頁岩の層準に発達していた初期のプレート境界断層が砥石型珪質粘土岩の層準にステップダウンすることでデュープレックス構造が形成されたと考えられている (木村, 2000). そのため, I型地層群に分布する砥石型珪質粘土岩の基底断層は, かつてのプレート境界断層であると考えられる. I型地層群に対比される岐阜県の上麻生コンプレックスでは, 砥石型珪質粘土岩の上位に堆積していたチャートが不透水層として機能していたことで, 高間隙流体圧が発生してプレート境界断層の活動が促進されたのではないかという仮説が立てられている (Yamaguchi et al., 2016). しかし, その直接的な証拠は得られていない.
本研究では, 砥石型珪質粘土岩の基底断層近傍における石英脈の産状の調査と, それらの方位分布を用いた古応力解析と駆動流体圧比 (Pf-σ3)/(σ1-σ3) (σ1>σ2>σ3は圧縮を正とした主応力) の推定を京都市の芦見谷で行った. 芦見谷には基底部に砥石型珪質粘土岩が分布するスラストシートが繰り返し現れることが木村 (2000) によって報告されている. 調査の結果, それらのスラストの周辺には多くの場合石英脈が集中的に発達していることが判明した. 続いて, それらの断層露頭のうち4か所の石英脈群の方位分布に混合ビンガム分布をフィッティング (Yamaji & Sato, 2011) することで古応力解析を行った. その結果, いずれの場合も層理面や基底断層面に概ね平行なσ1軸が得られた. 更に, 石英脈群形成後の後生的な変形を補正したところ, 東西~西北西-東南東方向の水平なσ1軸と, 鉛直に近いσ2またはσ3軸を持つ古応力が得られた. これらの古応力のσ1軸の方向は, Liu et al. (2017) による後期ジュラ紀のプレート収斂方向と概ね一致する. このことは, 石英脈群が付底付け付加の際に形成されたものであることを支持している.
続いて, 古応力解析の結果を基に駆動流体圧比の代表値であるDPI (driving pressure index)を算出した. DPIは最適化されたビンガム分布の95パーセンタイル点に対応する法線応力を流体圧として算出した駆動流体圧比である (Faye et al., 2018). 算出されたDPIは, 0.60~0.95という値を示した. 後生的な変形を補正した後の古応力はいずれもσ2またはσ3軸が鉛直に近かったことと, 応力比 (σ2-σ3)/(σ1-σ3) が0.20~0.40と低かったことから, 石英脈群形成時の間隙流体圧は上載岩圧を上回っていた (水平な最大圧縮主応力よりは下回る) と推定される. このことは, 少なくとも石英脈群が形成された瞬間には, プレート境界断層近傍は流体圧比が1を上回るような高間隙流体圧状態にあったことを示している.
引用文献 Faye et al., 2018, J. Struct. Geol., 110, 131–141. Hashimoto & Eida, 2015, Tectonophysics, 665, 17–22. Hosokawa & Hashimoto, 2022, Sci. Rep., 12, 14789. 木村, 2000, 地質論集, 55, 181–202. Liu et al., 2017, Earth Sci. Rev., 175, 114–142. Seno, 2009, J. Geophys. Res., 114, B05405. Yamaguchi et al., 2016, Tectonophysics, 686, 146–157. Yamaji & Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148–1157.
丹波帯のI型地層群には, 砥石型珪質粘土岩と呼ばれる遠洋性の堆積岩が広く分布している. I型地層群が付加した際には, 黒色頁岩の層準に発達していた初期のプレート境界断層が砥石型珪質粘土岩の層準にステップダウンすることでデュープレックス構造が形成されたと考えられている (木村, 2000). そのため, I型地層群に分布する砥石型珪質粘土岩の基底断層は, かつてのプレート境界断層であると考えられる. I型地層群に対比される岐阜県の上麻生コンプレックスでは, 砥石型珪質粘土岩の上位に堆積していたチャートが不透水層として機能していたことで, 高間隙流体圧が発生してプレート境界断層の活動が促進されたのではないかという仮説が立てられている (Yamaguchi et al., 2016). しかし, その直接的な証拠は得られていない.
本研究では, 砥石型珪質粘土岩の基底断層近傍における石英脈の産状の調査と, それらの方位分布を用いた古応力解析と駆動流体圧比 (Pf-σ3)/(σ1-σ3) (σ1>σ2>σ3は圧縮を正とした主応力) の推定を京都市の芦見谷で行った. 芦見谷には基底部に砥石型珪質粘土岩が分布するスラストシートが繰り返し現れることが木村 (2000) によって報告されている. 調査の結果, それらのスラストの周辺には多くの場合石英脈が集中的に発達していることが判明した. 続いて, それらの断層露頭のうち4か所の石英脈群の方位分布に混合ビンガム分布をフィッティング (Yamaji & Sato, 2011) することで古応力解析を行った. その結果, いずれの場合も層理面や基底断層面に概ね平行なσ1軸が得られた. 更に, 石英脈群形成後の後生的な変形を補正したところ, 東西~西北西-東南東方向の水平なσ1軸と, 鉛直に近いσ2またはσ3軸を持つ古応力が得られた. これらの古応力のσ1軸の方向は, Liu et al. (2017) による後期ジュラ紀のプレート収斂方向と概ね一致する. このことは, 石英脈群が付底付け付加の際に形成されたものであることを支持している.
続いて, 古応力解析の結果を基に駆動流体圧比の代表値であるDPI (driving pressure index)を算出した. DPIは最適化されたビンガム分布の95パーセンタイル点に対応する法線応力を流体圧として算出した駆動流体圧比である (Faye et al., 2018). 算出されたDPIは, 0.60~0.95という値を示した. 後生的な変形を補正した後の古応力はいずれもσ2またはσ3軸が鉛直に近かったことと, 応力比 (σ2-σ3)/(σ1-σ3) が0.20~0.40と低かったことから, 石英脈群形成時の間隙流体圧は上載岩圧を上回っていた (水平な最大圧縮主応力よりは下回る) と推定される. このことは, 少なくとも石英脈群が形成された瞬間には, プレート境界断層近傍は流体圧比が1を上回るような高間隙流体圧状態にあったことを示している.
引用文献 Faye et al., 2018, J. Struct. Geol., 110, 131–141. Hashimoto & Eida, 2015, Tectonophysics, 665, 17–22. Hosokawa & Hashimoto, 2022, Sci. Rep., 12, 14789. 木村, 2000, 地質論集, 55, 181–202. Liu et al., 2017, Earth Sci. Rev., 175, 114–142. Seno, 2009, J. Geophys. Res., 114, B05405. Yamaguchi et al., 2016, Tectonophysics, 686, 146–157. Yamaji & Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148–1157.
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