Presentation Information
[T1-O-15]Retrograde kyanite and zoisite identified from mylonitized pelitic granulites in the Hidaka metamorphic belt, Hokkaido
*Ippei Kitano1 (1. The Hokkaido University Museum, Hokkaido University)
Keywords:
retrograde kyanite,retrograde zoisite,near-isobaric cooling,pelitic granulites,Hidaka metamorphic belt
日高変成帯は,北海道中央南部日高山脈に沿って新第三紀に衝上した島弧地殻断片として,深成岩類を伴って非変成堆積岩類からグラニュライトまで連続的に産出する地質体である(小山内ほか,2006など).最下部は日高主衝上断層を介してポロシリオフィオライトや白亜紀付加体と接し,著しくマイロナイト化している(小山内ほか,2006, 2007など).日高変成帯のグラニュライトはほぼ等温減圧を伴う時計回りの温度圧力経路をしめすことが明らかにされてきたが(小山内ほか,2006など),近年,複変成作用およびほぼ等圧冷却を示すグラニュライトが報告されている(Zhang et al., 2022).このことは,日高変成帯のグラニュライトに記録されている変成過程が一様でない可能性を示唆する.本研究は日高山脈中央部を流れるソガベツ川からマイロナイト化した泥質グラニュライトの転石2試料(T01C, T01D)を採取し,岩石学的解析により温度圧力経路を推定した.
分析試料はザクロ石―直方輝石―黒雲母片麻岩(T01C)およびザクロ石―菫青石―珪線石―黒雲母片麻岩(T01D)で,両試料とも優白質部を伴い,マイロナイト化している.T01Cではザクロ石,直方輝石,斜長石が斑状変晶を成し,ザクロ石は自形性がよく包有物に乏しいコアと包有物に富むリムからなる.直方輝石は大部分を直閃石または黒雲母に置換され,斜長石は部分的にグラファイトを伴ってゾイサイトとNaに富む斜長石に置換されている.一方,T01Dでは,ザクロ石と菫青石は斑状変晶を成し,珪線石を包有する.一部のザクロ石は中心部にセクター構造を保持する.珪線石は針状の集合体としてザクロ石,菫青石,斜長石の縁に沿って産する.優白質部の菫青石のみ,十字石+藍晶石+石英の細粒集合体に一部置換されていることがある.
T01Cのザクロ石はコアからリムに向かってMgとMnが減少してFeとCaが増加する組成累帯構造をしめすが,T01Dのザクロ石は縁部に向かってCaとMnが減少してMgとFeが増加し,最縁部でMnが増加しMgが減少する組成累帯構造をしめす.T01Cの黒雲母のXMg値は0.56–0.66で,T01Dのセクター構造部のザクロ石中の包有物(XMg = 0.66–0.67)を除いて,T01Dのそれら(XMg = 0.42–0.57)より高い.T01Cの斜長石は主に0.33–0.39のアノーサイト含有量をしめすが,ゾイサイトに伴うものは0.02–0.19の低い含有量をしめす.一方,T01Dでは,基質部の斜長石は0.14–0.24のアノーサイト含有量をしめすのに対し,セクター構造のザクロ石中の斜長石は0.48–0.53の高い含有量をもつ.そのほか,T01Cの直方輝石はXMg = 0.50–0.52およびXAl = 0.05–0.08の組成幅をしめし,斜長石を置換するゾイサイトはほぼ均一で低いFe含有量をしめす.T01Dの菫青石は0.59–0.61 のXMg値をもち,二次的な十字石はXMg = 0.17, ZnO = 2.18 wt%の化学組成をしめす.
地質温度圧力計を適用した結果,T01Cの最高温度圧力条件は約5.0–6.5 kbar, 730–810 ℃,後退変成作用時の再平衡条件は約4.3–5.4 kbar, 570–600 ℃と見積もられた.T01Dの昇温期(セクター構造のザクロ石形成時),最高温度期,冷却期の温度圧力条件はそれぞれ,約2.8–4.1 kbar, 450–530 ℃,4.9–7.6 kbar, 750–850 ℃,2.5–5.8 kbar, 530–610 ℃と見積られた.また,T01Cの二次的なゾイサイト+Naに富む斜長石の集合体,T01Dの十字石+藍晶石+石英集合体の安定領域をシュードセクション法で計算すると,それぞれの冷却期の温度圧力条件と調和的となった.岩石成因論的グリッドを用いると,T01Dの鉱物の産状と関係性から時計回りの温度圧力経路が推定され,かつ上記の計算された最高温度圧力条件と調和的な結果が得られた.したがって,本研究の分析試料は,日高変成帯南部のIV帯と同様の最高温度圧力条件(5–6 kbar, 750–800 ℃:小山内ほか,2006)を経験しているが,ほぼ等温減圧の後退変成過程をしめす他のグラニュライトとは異なり,マイロナイト化を伴いほぼ等圧冷却する特異な上昇・冷却過程を有することが推定された.
引用文献:小山内ほか(2006)地質学雑誌,小山内ほか(2007)地質学雑誌,Zhang et al. (2022) Journal of Metamorphic Geology
分析試料はザクロ石―直方輝石―黒雲母片麻岩(T01C)およびザクロ石―菫青石―珪線石―黒雲母片麻岩(T01D)で,両試料とも優白質部を伴い,マイロナイト化している.T01Cではザクロ石,直方輝石,斜長石が斑状変晶を成し,ザクロ石は自形性がよく包有物に乏しいコアと包有物に富むリムからなる.直方輝石は大部分を直閃石または黒雲母に置換され,斜長石は部分的にグラファイトを伴ってゾイサイトとNaに富む斜長石に置換されている.一方,T01Dでは,ザクロ石と菫青石は斑状変晶を成し,珪線石を包有する.一部のザクロ石は中心部にセクター構造を保持する.珪線石は針状の集合体としてザクロ石,菫青石,斜長石の縁に沿って産する.優白質部の菫青石のみ,十字石+藍晶石+石英の細粒集合体に一部置換されていることがある.
T01Cのザクロ石はコアからリムに向かってMgとMnが減少してFeとCaが増加する組成累帯構造をしめすが,T01Dのザクロ石は縁部に向かってCaとMnが減少してMgとFeが増加し,最縁部でMnが増加しMgが減少する組成累帯構造をしめす.T01Cの黒雲母のXMg値は0.56–0.66で,T01Dのセクター構造部のザクロ石中の包有物(XMg = 0.66–0.67)を除いて,T01Dのそれら(XMg = 0.42–0.57)より高い.T01Cの斜長石は主に0.33–0.39のアノーサイト含有量をしめすが,ゾイサイトに伴うものは0.02–0.19の低い含有量をしめす.一方,T01Dでは,基質部の斜長石は0.14–0.24のアノーサイト含有量をしめすのに対し,セクター構造のザクロ石中の斜長石は0.48–0.53の高い含有量をもつ.そのほか,T01Cの直方輝石はXMg = 0.50–0.52およびXAl = 0.05–0.08の組成幅をしめし,斜長石を置換するゾイサイトはほぼ均一で低いFe含有量をしめす.T01Dの菫青石は0.59–0.61 のXMg値をもち,二次的な十字石はXMg = 0.17, ZnO = 2.18 wt%の化学組成をしめす.
地質温度圧力計を適用した結果,T01Cの最高温度圧力条件は約5.0–6.5 kbar, 730–810 ℃,後退変成作用時の再平衡条件は約4.3–5.4 kbar, 570–600 ℃と見積もられた.T01Dの昇温期(セクター構造のザクロ石形成時),最高温度期,冷却期の温度圧力条件はそれぞれ,約2.8–4.1 kbar, 450–530 ℃,4.9–7.6 kbar, 750–850 ℃,2.5–5.8 kbar, 530–610 ℃と見積られた.また,T01Cの二次的なゾイサイト+Naに富む斜長石の集合体,T01Dの十字石+藍晶石+石英集合体の安定領域をシュードセクション法で計算すると,それぞれの冷却期の温度圧力条件と調和的となった.岩石成因論的グリッドを用いると,T01Dの鉱物の産状と関係性から時計回りの温度圧力経路が推定され,かつ上記の計算された最高温度圧力条件と調和的な結果が得られた.したがって,本研究の分析試料は,日高変成帯南部のIV帯と同様の最高温度圧力条件(5–6 kbar, 750–800 ℃:小山内ほか,2006)を経験しているが,ほぼ等温減圧の後退変成過程をしめす他のグラニュライトとは異なり,マイロナイト化を伴いほぼ等圧冷却する特異な上昇・冷却過程を有することが推定された.
引用文献:小山内ほか(2006)地質学雑誌,小山内ほか(2007)地質学雑誌,Zhang et al. (2022) Journal of Metamorphic Geology
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in