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[T1-O-19]Data Analysis of Synchrotron X-ray Powder Diffraction Using Unsupervised Machine Learning: A Case Study from the Sanbagawa Belt in Central Shikoku★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*Satoshi Matsuno1, Hironobu Harada1, Keiichi Osaka2, Masaoki Uno1, Atsushi Okamoto1 (1. Tohoku University, 2. Japan Synchrotron Radiation Research Institute)
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Keywords:

Powder X-ray diffraction,Unsupervised machine learning,Synchrotron radiation,Sanbagawa metamorphic belt

粉末X線回折(PXRD)は、岩石中の構成鉱物・鉱物量比の情報を内包することから、広く地質学分野で用いられてきた一方、実験室系の分析装置では、感度・分解能の限界から、鉱物同定のみに用いられることが一般的である。その中で、放射光粉末X線回折(SR-PXRD)では、実験室PXRDでは検出できない微少なピークシフト・形状の変化を検出できるだけでなく、自動試料交換による効率化によって、1試料あたり3分の短時間測定で高分解能の測定を可能とし(Osaka et al. 2010, 2019)、大量の天然岩石試料について鉱物の情報を高密度にデータ化することが可能となっている(Nakai et al. 2014)。しかし、現状では解釈に必要なデータの処理には多くの労力が必要であり、大量の試料から得られるPXRDの情報は、依然として高密度な情報を活かしきれていない(原田ほか, 2024, 地質学会)。
 本研究では、教師なし機械学習によるSR-PXRDの解析を提案し、従来の定性分析では見出すことが困難であった隠れた反応パターンを効率的に抽出し、大量の試料かつ高密度な情報を活かした解析を実現することを目指す。試料として、四国中央部三波川帯の汗見川ルートの緑泥石帯(約300℃)から曹長石-黒雲母帯(約550℃)で採取された計186試料の泥質片岩、苦鉄質片岩を用いた。SR-PXRDは大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2で行い、測定波長は0.69992Åで行った。
 教師なし学習としては、主成分分析(PCA in scikit-learn; Buitinck et al. 2013)とUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP; McInnes et al. 2018)を用いた。主成分分析は、データの分散を最大化する直線軸をとることで次元圧縮を行う手法である。多様体学習の一種であるUMAPは、多次元データを2次元上に圧縮し、データ間の距離として類似度を可視化する手法である。SR-PXRDデータは、回折角2-30度の範囲を使用し、前処理としてバックグラウンドを除去・正規化によるスケール変換を行ったのちに、教師なし機械学習を適用した。
 UMAPによる2次元上への可視化では、泥質片岩、苦鉄質片岩の両岩相で各変成分帯の試料ごとにクラスターを形成した。苦鉄質片岩の試料群は、高変成度の灰曹長石-黒雲母帯の独立したクラスターが特徴的である一方、低変成度の緑泥石帯とざくろ石帯の一部試料は、混合したクラスターを形成し、変成度が異なるにも関わらず一部試料で類似していることを示す。泥質片岩の試料群は、大局的には1つのクラスターを形成しているが、同じ変成分帯に属する試料は近傍に分布した。
  UMAPによる2次元上の分布を考察するため、PCAによる解釈を実施した。苦鉄質片岩の各主成分ベクトルの中でも、4.75度には低温角閃石, 4.85度には高温角閃石のピークが見られる角閃石に注目する。第2主成分が第1主成分と比較して高角側に主成分ベクトルを持ち、また第3主成分は、4.75度で正、4.85度で負の主成分ベクトルを持つ。つまり、第2主成分は高変成度を示す軸、第3主成分は後退変成作用に伴う高温角閃石から低温角閃石の形成を示す軸であると考察される。他の鉱物ピークと比較すると、第3主成分における低温角閃石は、後退変成作用時に形成される、緑泥石と同じ方向の主成分ベクトルを持つ。以上の主成分得点を地図上に投影すると、試料採取地点間で連続的に変化する主成分得点が得られることから、広域変成帯内での後退変成作用を伴う流体流量の変化が示唆される。また、UMAPの2次元分布に主成分得点を投影すると、第3主成分が各変成度の独立したクラスターへと連続的に変化した。つまり、UMAPによる2次元上の分布は、累進変成作用・後退変成作用の進行度による特徴を示していると考えられる。
 泥質片岩の各主成分ベクトルで特徴的なのは、12.0-12.05度に見られる石英のピークの変化である。第1主成分は、12.005度に正、12.02度では負の主成分ベクトルを示し、特にざくろ石帯より低変成度ほど正の主成分得点が得られる。また、より石英の高角・低角に大きく正負の主成分ベクトルを持つ第3・4主成分は、主成分得点からざくろ石帯、曹長石-黒雲母帯を特徴付けることがわかった。石英のピーク位置は、定性的にも高変成度ほど高角側へとシフトしていることから、ピークシフトの要因となる地質学的イベントの影響が考えられ、UMAPによる2次元上の分布は主に変成度を反映していると考えられる。
 このように大量の試料から得られる高解像度のSR-PXRDは、教師なし機械学習を活用することで、鉱物間の反応パターン・空間分布を効率的に抽出することが可能である。


Osaka, K., Takuya Matsumoto, K. Miura, Masugu Sato, I. Hirosawa, and Y. Watanabe. 2010. “The Advanced Automation for Powder Diffraction toward Industrial Application.” AIP Conference Proceedings 1234 (July): 9–12.

Osaka, Keiichi, Yutaka Yokozawa, Yasufumi Torizuka, Yoshito Yamada, Masahiro Manota, Noboru Harada, Yoshinori Chou, Hiroyuki Sasaki, Anna Bergamaschi, and Masugu Sato. 2019. “Versatile High-Throughput Diffractometer for Industrial Use at BL19B2 in SPring-8.” AIP Conference Proceedings 2054 (1). https://doi.org/10.1063/1.5084626.

Nakai, Izumi, Shunsuke Furuya, Willy Bong, Yoshinari Abe, Keiichi Osaka, Takuya Matsumoto, Masayoshi Itou, Atsuyuki Ohta, and Toshio Ninomiya. 2014. “Quantitative Analysis of Heavy Elements and Semi‐quantitative Evaluation of Heavy Mineral Compositions of Sediments in Japan for Construction of a Forensic Soil Database Using Synchrotron Radiation X‐ray Analyses.” X-Ray Spectrometry: XRS 43 (1): 38–48.

原田 浩伸、松野 哲士、宇野 正起、岡本 敦、大坂 恵一、辻森 樹、板谷 徹丸, 放射光粉末X線回折測定の岩石学的研究への導入:四国中央部三波川帯での検証, 2024, 地質学会

McInnes, Leland, John Healy, and James Melville. 2018. “UMAP: Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction.” arXiv [stat.ML]. arXiv. http://arxiv.org/abs/1802.03426.

Buitinck, Lars, Gilles Louppe, Mathieu Blondel, Fabian Pedregosa, Andreas Mueller, Olivier Grisel, Vlad Niculae, et al. 2013. “API Design for Machine Learning Software: Experiences from the Scikit-Learn Project.” arXiv, 1–15.

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