Presentation Information
[T1-O-21]EBSD-based verification of the coesite-quartz phase transition: Example from the Gongen area, Sanbagawa belt, Japan
*Momoko MINOWA1, Takayoshi NAGAYA1, Taisuke ITO2, Simon WALLIS2 (1. Tokyo Gakugei University, 2. The University of Tokyo)
【ハイライト講演】コーサイト及びその仮像(石英多結晶体)は,超高圧変成作用の指標と認識されている.コーサイトの探索は岩石の変成履歴を復元する上で重要であるが,その痕跡を天然試料から見出すことは容易でない.講演者らは三波川エクロジャイトが超高圧下まで達したか否かを検証するため,EBSDに基づき石英の結晶方位関係を精査した.既存のコーサイト―石英相転移曲線の妥当性や三波川帯の変成史再考を促す成果が得られており,今後の進展が期待される. (ハイライト講演とは...)
Keywords:
Sanbagawa metamorphic belt,Gongen area,coesite–quartz phase transition,EBSD (Electron Back Scatter Diffraction),eclogite
地殻の主要な構成鉱物の一種である石英は, 高圧下でコーサイトに相転移する. 沈み込み帯において, 石英の高圧相鉱物であるコーサイト自身やコーサイトへの高圧相転移を経験した痕跡(特徴的な形状を伴った石英多結晶体の微細組織等)の存在は, 深さ約80 km以上で (超)高圧変成作用を被った指標となる(Chopin, 2003) ため, 天然試料の沈み込みと上昇の履歴を調べる上で重要な手掛かりになる(Stern, 2005).
一方, 地表の採取岩石はたとえコーサイトの形成条件までの沈み込みを経験したとしても, 多くの場合で上昇・減圧過程で低圧相の石英に戻るため, 包有物として残存する場合など特定の条件を除き, 保存された状態のコーサイトの観察されることは稀であり, その発見は容易ではない. そのため, コーサイトへの相転移を経験した痕跡を見つけられるかが変成条件を制約する上で特に重要な鍵となるが, 石英多結晶体がコーサイトからの相転移を経験したかの判断は, 主に微細組織観察に基づいて行われることが一般的であり, 観察者の経験に依存した定性的な判断要素を含む(Bidgood et al., 2020). これらの理由から, 試料中からコーサイト自体やその痕跡を見つけるには熟練の目を必要とする「宝探し」のような側面があると言える.
現在までに国内から痕跡を含めコーサイトの報告例はない. しかし近年, 石英多結晶体への後方散乱電子回折 (Electron Back Scatter Diffraction, EBSD)によるマッピング結果から, コーサイトの痕跡の有無判別に有効な解析手法が発表された(Bidgood et al., 2020). これによって, これまでの定性的な判別手法から, コーサイトへの相転移を経験した石英について結晶学的特徴に基づく定量的な定義が与えられ, 定量的判別も可能となった. これは, これまでコーサイトやその痕跡の未報告地域にもEBSDを用いた再検証が可能になったことを意味する. 本研究では, 明確なコーサイトやその痕跡が発見されていないものの, これまでの研究から高圧条件下を経験したことが期待される四国三波川変成帯権現地域(e.g., Aoya et al., 2017) の石英エクロジャイト中の石英多結晶体にこの手法を適用し, 権現地域の岩体がコーサイト形成領域にまで沈み込んだ可能性を検証した.
薄片10枚の顕微鏡観察に基づき, 分析箇所はザクロ石の包有物となっている石英多結晶体4箇所と, 石基中の石英多結晶体1箇所の計5箇所に絞り込んだ. 次に, 東京大学のSEM-EBSDを使用し, これら5箇所の鉱物相と結晶方位のマップデータを取得した. これを基に石英多結晶体の結晶方位関係について, 粒子内と粒子間の結晶方位差解析を行った.
Bidgood et al. (2020) による手法に基づきコーサイトの痕跡を判別した結果, 全5点の分析箇所のうちザクロ石の包有物中の石英多結晶体領域1箇所において, コーサイトへの相転移を経験したことを示す石英粒子間の結晶方位関係を得た.
本研究による権現地域からのコーサイト相転移の痕跡の発見は, 権現地域の岩体がコーサイト形成条件まで沈み込んだ可能性を示唆する. これは, (1)これまでのコーサイト石英相転移平衡曲線の推定と, (2)権現地域の温度圧力履歴の推定について, 一方あるいは双方の見直しの必要性を意味する. 前者はこれまでに全世界的に研究されてきた (超)高圧変成帯の沈み込み履歴に関連し, 沈み込み帯における岩石の上昇限界の見直しに繋がり, 後者は, 権現地域が日本における最初の超高圧変成帯の発見の可能性に繋がることから, 今後のより慎重な研究が期待される.
[引用文献] Chopin. (2003), Earth Planet. Sci., Lett., 212, 1-14; Stern. (2005), Bull. Geol. Soc. Amer., 33, 557-560; Bidgood et al. (2020), Jour. Metamorphic Geol., 00, 1-6; Aoya et al. (2017), Jour. Geol. Soc. Japan., 123, 491-514.
一方, 地表の採取岩石はたとえコーサイトの形成条件までの沈み込みを経験したとしても, 多くの場合で上昇・減圧過程で低圧相の石英に戻るため, 包有物として残存する場合など特定の条件を除き, 保存された状態のコーサイトの観察されることは稀であり, その発見は容易ではない. そのため, コーサイトへの相転移を経験した痕跡を見つけられるかが変成条件を制約する上で特に重要な鍵となるが, 石英多結晶体がコーサイトからの相転移を経験したかの判断は, 主に微細組織観察に基づいて行われることが一般的であり, 観察者の経験に依存した定性的な判断要素を含む(Bidgood et al., 2020). これらの理由から, 試料中からコーサイト自体やその痕跡を見つけるには熟練の目を必要とする「宝探し」のような側面があると言える.
現在までに国内から痕跡を含めコーサイトの報告例はない. しかし近年, 石英多結晶体への後方散乱電子回折 (Electron Back Scatter Diffraction, EBSD)によるマッピング結果から, コーサイトの痕跡の有無判別に有効な解析手法が発表された(Bidgood et al., 2020). これによって, これまでの定性的な判別手法から, コーサイトへの相転移を経験した石英について結晶学的特徴に基づく定量的な定義が与えられ, 定量的判別も可能となった. これは, これまでコーサイトやその痕跡の未報告地域にもEBSDを用いた再検証が可能になったことを意味する. 本研究では, 明確なコーサイトやその痕跡が発見されていないものの, これまでの研究から高圧条件下を経験したことが期待される四国三波川変成帯権現地域(e.g., Aoya et al., 2017) の石英エクロジャイト中の石英多結晶体にこの手法を適用し, 権現地域の岩体がコーサイト形成領域にまで沈み込んだ可能性を検証した.
薄片10枚の顕微鏡観察に基づき, 分析箇所はザクロ石の包有物となっている石英多結晶体4箇所と, 石基中の石英多結晶体1箇所の計5箇所に絞り込んだ. 次に, 東京大学のSEM-EBSDを使用し, これら5箇所の鉱物相と結晶方位のマップデータを取得した. これを基に石英多結晶体の結晶方位関係について, 粒子内と粒子間の結晶方位差解析を行った.
Bidgood et al. (2020) による手法に基づきコーサイトの痕跡を判別した結果, 全5点の分析箇所のうちザクロ石の包有物中の石英多結晶体領域1箇所において, コーサイトへの相転移を経験したことを示す石英粒子間の結晶方位関係を得た.
本研究による権現地域からのコーサイト相転移の痕跡の発見は, 権現地域の岩体がコーサイト形成条件まで沈み込んだ可能性を示唆する. これは, (1)これまでのコーサイト石英相転移平衡曲線の推定と, (2)権現地域の温度圧力履歴の推定について, 一方あるいは双方の見直しの必要性を意味する. 前者はこれまでに全世界的に研究されてきた (超)高圧変成帯の沈み込み履歴に関連し, 沈み込み帯における岩石の上昇限界の見直しに繋がり, 後者は, 権現地域が日本における最初の超高圧変成帯の発見の可能性に繋がることから, 今後のより慎重な研究が期待される.
[引用文献] Chopin. (2003), Earth Planet. Sci., Lett., 212, 1-14; Stern. (2005), Bull. Geol. Soc. Amer., 33, 557-560; Bidgood et al. (2020), Jour. Metamorphic Geol., 00, 1-6; Aoya et al. (2017), Jour. Geol. Soc. Japan., 123, 491-514.
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