Presentation Information
[T2-O-1][Invited]Major retreat during Pliocene warmth alerts to West Antarctic Ice Sheet vulnerability
*Keiji Horikawa1, Masao IWAI2, Claus-Dieter HILLENBRAND3, Christine SIDDOWAY4, Anna Ruthie HALBERSTADT5, Ellen COWAN6, Yoshihiro ASAHARA7, Ki-Cheol SHIN8 (1. Faculty of Science, Academic Assembly, University of Toyama, 2. Marine Core Research Institute, Kochi University, 3. British Antarctic Survey, 4. Geology Department, Colorado College, 5. Berkeley Geochronology Center, University of California Berkeley, 6. Department of Geological and Environmental Sciences, Appalachian State University, 7. Nagoya University, 8. Research Institute for Humanity and Nature)
【ハイライト講演】堀川氏は,海底堆積物等の化学的分析を駆使した古気候・海洋分野の研究で世界的に注目される研究者である.とくに,最近は西南極沖で採取されたIODPコアのネオジム・鉛同位体比を解析から,南極大陸起源物資の供給源変動を復元し,鮮新世における南極氷床の融解条件の解明に取り組んでいる.今大会ではこれらの最新研究成果について講演いただく.(ハイライト講演とは...)
Keywords:
Pliocene,West Antarctic Ice Sheet,detritus,Nd isotope,IODP
西南極氷床のアムンゼン海セクター,特にスウェイツ氷河とパインアイランド氷河は,他の南極地域と比べて速い速度で氷の質量損失が起こっている (Rignot et al., 2019)。これは,0.5–1.2℃の水温をもつ南極周極深層水(CDW; Dutrieux et al., 2014)が氷床下部から棚氷を溶かし,棚氷が持つ堰止効果を弱めていることに起因する (Wåhlin et al., 2021)。さらに,このセクターは他の氷河域と異なり,接地線付近に顕著な地形的高まりがなく,基盤岩が内陸に向かって傾斜している。そのため,CDWによる氷床の底面融解によって,スウェイツ氷河の接地線が内陸へ傾斜する基盤岩を越えると,暖水が約2000mの氷河下盆地まで流入することになり,自己持続的な氷床後退によって広範囲かつ急速な氷床融解が起こると示唆されている (Holt et al., 2006, Feldmann and Levermann, 2015, Seroussi et al., 2017,)。このような氷床融解シナリオは、将来の温暖化における海面上昇の長期的な大規模化および急速化に対する懸念を提起しているが,現時点では,鮮新世や更新世などの過去の温暖期において西南極氷床の崩壊を裏付ける明白な地質学的証拠は得られていない。
本講演では,国際深海科学掘削計画(IODP)379次航海によって,西南極アムンゼン海で初めて掘削された鮮新世(533万年前–258万年前)の海底堆積物(U1532コア)の地球化学的データを中心に,氷床モデルによる解析と合わせて,鮮新世における西南極氷床の崩壊を明らかにしたので,それを紹介する。
本研究では,U1532コアの砕屑物のSr-Nd-Pb同位体比分析に加え,西南極基盤岩岩石(n=100)と西南極縁辺域表層堆積物(n=42)の同位体比分析も網羅的に行い,砕屑物の起源解析を詳細に行った。その結果,4.65 Maから3.33 Maの期間に,14回の西南極氷床の融解イベントを明らかにした。そのうち,砕屑物の同位体比分析を行った3.33, 3.46, 3.6, 3.88, 4.65Maでは,内陸部のエルスワース・ウィットモア山脈に由来する砕屑物の同位体比シグナルが見られることから,これらの時期では西南極氷床の末端部が内陸まで大きく後退するほど大規模に融解していたことを明らかにした。また,14回確認される西南極氷床の融解は,この期間の氷期―間氷期サイクルよりも顕著に少ないことから,西南極氷床の融解が全ての間氷期で誘発されていたわけではないことが示唆された。さらに,3.6Maイベントなど,西南極氷床が大規模に融解していた時期では,その直前に全球規模の大きな寒冷化が起こっているという対応関係が見られる。寒冷期には海水準が低下することで,西南極氷床の氷床末端部も陸棚縁辺まで前進し,陸棚上に侵食に伴う氷河谷を形成したであろう。このような状況を考慮すると,鮮新世のいくつかの間氷期で生じた西南極氷床の大規模な融解は,高水温によるものではなく,CDWの流入を規定する大規模なトラフの存在に起因していたのではないかと考えられる。これは,CDWがその後の融氷期にスウェイツ氷河下部まで流入し,自己持続的な氷床後退をもたらすのに必須の地形条件になる。
本研究は,鮮新世における西南極氷床の脆弱性を明らかにし,現在進行している地球温暖化においても,スウェイツ氷河の接地線の後退を契機に,鮮新世と同規模の氷床の質量損失が起こる可能性を示唆している。
[引用文献]
Rignot, E. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 116, 1095–1103 (2019).Dutrieux, P. et al. Science 343, 174–178 (2014). Wåhlin, A. K. et al. Sci. Adv. 7, eabd7254 (2021). Holt, J. W. et al. Geophysical Research Letters 33, 2005GL025561 (2006). Seroussi, H. et al. Geophysical Research Letters 44, 6191–6199 (2017). Feldmann, J. & Levermann, A. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 14191–14196 (2015).
本講演では,国際深海科学掘削計画(IODP)379次航海によって,西南極アムンゼン海で初めて掘削された鮮新世(533万年前–258万年前)の海底堆積物(U1532コア)の地球化学的データを中心に,氷床モデルによる解析と合わせて,鮮新世における西南極氷床の崩壊を明らかにしたので,それを紹介する。
本研究では,U1532コアの砕屑物のSr-Nd-Pb同位体比分析に加え,西南極基盤岩岩石(n=100)と西南極縁辺域表層堆積物(n=42)の同位体比分析も網羅的に行い,砕屑物の起源解析を詳細に行った。その結果,4.65 Maから3.33 Maの期間に,14回の西南極氷床の融解イベントを明らかにした。そのうち,砕屑物の同位体比分析を行った3.33, 3.46, 3.6, 3.88, 4.65Maでは,内陸部のエルスワース・ウィットモア山脈に由来する砕屑物の同位体比シグナルが見られることから,これらの時期では西南極氷床の末端部が内陸まで大きく後退するほど大規模に融解していたことを明らかにした。また,14回確認される西南極氷床の融解は,この期間の氷期―間氷期サイクルよりも顕著に少ないことから,西南極氷床の融解が全ての間氷期で誘発されていたわけではないことが示唆された。さらに,3.6Maイベントなど,西南極氷床が大規模に融解していた時期では,その直前に全球規模の大きな寒冷化が起こっているという対応関係が見られる。寒冷期には海水準が低下することで,西南極氷床の氷床末端部も陸棚縁辺まで前進し,陸棚上に侵食に伴う氷河谷を形成したであろう。このような状況を考慮すると,鮮新世のいくつかの間氷期で生じた西南極氷床の大規模な融解は,高水温によるものではなく,CDWの流入を規定する大規模なトラフの存在に起因していたのではないかと考えられる。これは,CDWがその後の融氷期にスウェイツ氷河下部まで流入し,自己持続的な氷床後退をもたらすのに必須の地形条件になる。
本研究は,鮮新世における西南極氷床の脆弱性を明らかにし,現在進行している地球温暖化においても,スウェイツ氷河の接地線の後退を契機に,鮮新世と同規模の氷床の質量損失が起こる可能性を示唆している。
[引用文献]
Rignot, E. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 116, 1095–1103 (2019).Dutrieux, P. et al. Science 343, 174–178 (2014). Wåhlin, A. K. et al. Sci. Adv. 7, eabd7254 (2021). Holt, J. W. et al. Geophysical Research Letters 33, 2005GL025561 (2006). Seroussi, H. et al. Geophysical Research Letters 44, 6191–6199 (2017). Feldmann, J. & Levermann, A. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 14191–14196 (2015).
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