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[T16-O-14]Terrestrial and marine biomarkers in the Nemuro Group (eastern Hokkaido, Japan): implications for early Paleogene paleoenvironment

*Tatsuya YOSHIDA1, Keiichi HAYASHI2, Hideto NAKAMURA1 (1. Hokkaido University, 2. Hokkaido Research Organization)
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Keywords:

Paleogene,Paleoenvironmental reconstruction,Biomarker,Paleocene,Eocene

古第三紀前期は K-Pg 境界における大量絶滅イベントと、白亜紀から続く温暖な気候で特徴づけられる。特に暁新世から始新世前期の気候は、新生代の最温暖期にかけての長期的な温暖化や、暁新世-始新世境界期の急激な温暖化イベント(PETM)などで特徴づけられる。こうした気候変動が、生態系の分布や生物の進化にどのように影響を与え、新生代型の生態系を形作ってきたかを知る上で、この時代は非常に重要である。その一方で、北西太平洋地域の暁新世から始新世前期の古環境復元例は少ない。そのため本研究では、北海道東部に分布する、上部白亜系-古第三系根室層群のバイオマーカー分析により、北西太平洋地域の暁新世から始新世前期の陸上古植生及び古海洋生態系の復元を試みた。
本研究では、白糠丘陵地域のピラウンナイ川及び左の沢沿いの露頭から採取された富川層・活平層試料と、釧路-根室地域の厚岸湾及び浜中湾沿岸の露頭から採取された仙鳳趾層・厚岸層試料を用いた。白糠丘陵地域では、林ら(2023)により渦鞭毛藻シスト化石-炭素同位体比統合層序が検討され、暁新世から始新世初期の各時代境界などが明らかにされている。また、釧路-根室地域試料の年代は、成瀬ら(2000)およびその引用文献に基づき、白亜紀マーストリヒチアン階と推定される。バイオマーカー分析は、これらの試料から有機溶媒を用いた有機物抽出を行い、シリカゲルクロマトグラフィーによる分画の後、GC-MS を用いて測定した。バイオマーカー組成に基づき、有機物の起源や熟成度、堆積場の酸化還元環境に関する有機地球化学指標を計算し、議論に用いた。
ホパン、ステラン、メチルフェナントレン類の組成に基づく熟成度指標は、白糠丘陵地域試料で釧路-根室地域試料よりも高い値を示し、両地域における有機物の熟成度はそれぞれオイル生成帯、未熟成帯に相当することが明らかになった。陸上植物由来の芳香族テルペノイド組成に基づく被子裸子比 ar-AGI(Nakamura et al., 2010)や、熱熟成の進行に伴い五環性トリテルペノイドが完全に芳香族化することで生成する特定のアルキルPAH成分を組み込んだ改変指標は、暁新世から始新世前期にかけて漸減し、やや温暖なダニアン期からさらに温暖な始新世前期にかけて、根室層群の後背地で被子植生の減少が起きた可能性が示唆された。渦鞭毛藻に由来する三芳香環ジノステロイドと、渦鞭毛藻や珪藻、ハプト藻などの多様な海洋基礎生産種に由来する三芳香環ステロイドの比を用いた、渦鞭毛藻の寄与を示す指標 TADS(Ando et al., 2015)から、暁新世ダニアン後期からサネチアン中期にかけて、海洋基礎生産に占める渦鞭毛藻の寄与が比較的高く、暁新世-始新世境界期にはその寄与が減少したことが示唆された。これは、林ら (2023) の渦鞭毛藻シスト化石データが示す、暁新世ダニアン後期からセランディアン期の高一次生産期における渦鞭毛藻の繁栄や、サネチアン後期の低生産期にかけての渦鞭毛藻の減少と大局的には調和的であった。一方、サネチアン前期の渦鞭毛藻シストの減少傾向に対して、TADSの値は高い値を維持しており、全球的に温暖化傾向にあったサネチアン前期の一次生産の低下は、渦鞭毛藻以外の藻類において顕著であった可能性がある。
[文献]
Ando T. et al., 2017. Marine primary producer community during the mid-Cretaceous oceanic anoxic events (OAEs) 1a, 1b and 1d in the Vocontian Basin (SE France) evaluated from triaromatic steroids in sediments. Organic Geochemistry 106, 13–24.
Nakamura H. et al., 2010. Aliphatic and aromatic terpenoid biomarkers in Cretaceous and Paleogene angiosperm fossils from Japan. Organic Geochemistry 41, 975–980.
成瀬 元ら, 2000. 北海道東部根室層群から新たに産出した後期白亜紀軟体動物化石とK/T境界の層準について, 地質学雑誌. 106, 161-164.
林 圭一ら, 2023. 北海道東部に分布する根室層群における暁新世~始新世前期の渦鞭毛藻シスト化石-炭素同位体比統合層序, 日本地球惑星科学連合2023年大会, SGL22-06.

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