Presentation Information
[T15-O-21]Depositional age of the Pleistocene Karato Formation on Himeshima Island, Oita Prefecture and its stratigraphic relationship with the Himeshima volcanic group
*Tomonori NAYA1, Kiyohide MIZUNO1, Misao HONGO2, Yuki HANEDA1, Yu HORIUCHI3 (1. AIST, GSJ, 2. Alps Technical Research Laboratory Co., Ltd., 3. Oita Himeshima Geopark Promotion Office)
Keywords:
Late Pleistocene,Middle Pleistocene,Early Pleistocene,diatom fossil,tephra
瀬戸内海西部の周防灘南部に位置する姫島は,更新統の堆積岩である丸石鼻層,川尻礫層,唐戸層と姫島火山群の火山活動に伴う溶岩・貫入岩や火山砕屑物・火口堆積物からなる(伊藤ほか,1997).これらのうち唐戸層には複数の浅海成層が挟まることが知られている(水野,2018).これらの海成層の年代は,瀬戸内西部に海域が拡大した時期を示すことから瀬戸内海の堆積盆発達史を知る上で極めて重要である.唐戸層の年代は,挟在されるテフラの対比に基づき中期更新世チバニアン期の70-50万年頃と考えられていた(水野,2018)が,唐戸層に挟まれる海成層の枚数や年代については明確になっていなかった.そこで本研究では,唐戸層の層序,堆積環境,年代を調査するとともに,姫島火山群との層序関係を検討した.
唐戸層は姫島の縁辺部に断片的に分布する.地層の傾斜は多くの場合数十度であり,中には直立や逆転した地層も観察される.露頭規模で観察できる褶曲構造が多数認められ,断層も多く見られるなど,複雑な地質構造を有する.そのため,地層を岩相のみで側方に追跡することが困難である.唐戸層からは珪藻化石が多産するため,全ての露頭でスライドを作成し検鏡した結果,珪藻化石群集の特徴が唐戸層の層序対比に大変有効であることがわかった.本研究では,岩相,テフラ,珪藻化石に基づき.暫定的に唐戸層を下部,中部,上部に細分した.
唐戸層下部は礫層とその間に挟まれる浅海成砂層と泥層からなる.従来の川尻礫層の一部を含み,前期更新世の地層と考えられる.
唐戸層中部は川尻礫層よりも上位で,みつけ海岸北東側の海岸や大海地区では連続的に露出する.泥層を主体とする3層の浅海成層と泥層と淘汰の良い砂層からなる湖沼成淡水成層の繰り返しからなる.唐戸2〜5テフラ(水野,2018)が挟まり,前期−中期更新世の境界(MIS19)付近から,中期更新世MIS15までの地層と考えられる.最下部の海成層からのみ化石珪藻Sarcophagodes duodecima (Naya & Mizuno, 2021)が産出する.淡水成の地層からは浮遊性淡水生珪藻のAulacoseira属やStephanodiscus属などが多産する.
唐戸層上部は泥層および砂層を主体とし礫層を挟む.浅海成層と淡水成層が認められる.一つの露頭の中でも地層が断層によって分断されていることが多く,連続的に層序を把握できていないが,少なくとも2層以上の海成層が存在する.海成層からは海生浮遊性珪藻が多産し,一部の露頭では貝化石が産出する.また,浮遊性淡水生珪藻であるAulacoseira nipponicaが淡水成層と海成層から産出することが,唐戸層下部と中部にはない特徴である.姫島火山群の火砕岩とは断層で接していることが多く,両者の層位関係を露頭で判断することは困難である.
唐戸層上部の2箇所の露頭からは,最大径10cm程度の発泡した軽石からなる軽石層が見つかった.軽石の重鉱物組成,火山ガラスの屈折率,火山ガラスの化学組成は,約8.7万年前(MIS5b)に噴出したAso-4テフラ(Aoki, 2008)に類似する.軽石層はその下位と上位を浅海成層に挟まれた淡水成層に挟在される.軽石層を挟む淡水成層がMIS5bの海水準が下がった時期に堆積したとすれば,その下位の海成層はMIS5cまたはMIS5e,上位の海成層はMIS5aの海水準が上昇した時期に形成された可能性がある.つまり,唐戸層上部はMIS5の異なる時期の堆積物からなる上部更新統と考えられる.
ところで,軽石層の近傍には,姫島火山群の城山火山の流紋岩質溶岩と火山ガラスの化学組成が類似する流紋岩片が挟在する.このことは,城山火山の活動がAso-4テフラ噴出とほぼ同時期であった可能性を示唆する.姫島火山群のすべての火山砕屑物や火口堆積物から,唐戸層上部にしか産出しないAulacoseira nipponicaが産出することも,唐戸層上部と姫島火山群が同時異相である可能性を支持する.なお,水野(2018)の唐戸1テフラを挟有する海成層からもA. nipponicaが産出し海生珪藻群集の特徴も類似するため,唐戸1テフラの層位は唐戸層上部と考えられる.
唐戸層の年代範囲は前期〜後期更新世にまたがり,一部は姫島火山群の活動と同時期に堆積した可能性が示された.この結果は,姫島の形成史を大幅に見直す必要があることを示している.発表では,花粉化石層序や古地磁気層序の検討結果を合わせて,唐戸層の堆積年代について議論する予定である.
文献:Aoki (2008) Quaternaly International, 178, 100–118. 伊藤・星住・巌谷(1997)姫島地域の地質,1/5万地質図幅.水野(2018)月刊地球号外No.69,49–54. Naya and Mizuno (2021) Phytotaxa, 505, 85–96.
唐戸層は姫島の縁辺部に断片的に分布する.地層の傾斜は多くの場合数十度であり,中には直立や逆転した地層も観察される.露頭規模で観察できる褶曲構造が多数認められ,断層も多く見られるなど,複雑な地質構造を有する.そのため,地層を岩相のみで側方に追跡することが困難である.唐戸層からは珪藻化石が多産するため,全ての露頭でスライドを作成し検鏡した結果,珪藻化石群集の特徴が唐戸層の層序対比に大変有効であることがわかった.本研究では,岩相,テフラ,珪藻化石に基づき.暫定的に唐戸層を下部,中部,上部に細分した.
唐戸層下部は礫層とその間に挟まれる浅海成砂層と泥層からなる.従来の川尻礫層の一部を含み,前期更新世の地層と考えられる.
唐戸層中部は川尻礫層よりも上位で,みつけ海岸北東側の海岸や大海地区では連続的に露出する.泥層を主体とする3層の浅海成層と泥層と淘汰の良い砂層からなる湖沼成淡水成層の繰り返しからなる.唐戸2〜5テフラ(水野,2018)が挟まり,前期−中期更新世の境界(MIS19)付近から,中期更新世MIS15までの地層と考えられる.最下部の海成層からのみ化石珪藻Sarcophagodes duodecima (Naya & Mizuno, 2021)が産出する.淡水成の地層からは浮遊性淡水生珪藻のAulacoseira属やStephanodiscus属などが多産する.
唐戸層上部は泥層および砂層を主体とし礫層を挟む.浅海成層と淡水成層が認められる.一つの露頭の中でも地層が断層によって分断されていることが多く,連続的に層序を把握できていないが,少なくとも2層以上の海成層が存在する.海成層からは海生浮遊性珪藻が多産し,一部の露頭では貝化石が産出する.また,浮遊性淡水生珪藻であるAulacoseira nipponicaが淡水成層と海成層から産出することが,唐戸層下部と中部にはない特徴である.姫島火山群の火砕岩とは断層で接していることが多く,両者の層位関係を露頭で判断することは困難である.
唐戸層上部の2箇所の露頭からは,最大径10cm程度の発泡した軽石からなる軽石層が見つかった.軽石の重鉱物組成,火山ガラスの屈折率,火山ガラスの化学組成は,約8.7万年前(MIS5b)に噴出したAso-4テフラ(Aoki, 2008)に類似する.軽石層はその下位と上位を浅海成層に挟まれた淡水成層に挟在される.軽石層を挟む淡水成層がMIS5bの海水準が下がった時期に堆積したとすれば,その下位の海成層はMIS5cまたはMIS5e,上位の海成層はMIS5aの海水準が上昇した時期に形成された可能性がある.つまり,唐戸層上部はMIS5の異なる時期の堆積物からなる上部更新統と考えられる.
ところで,軽石層の近傍には,姫島火山群の城山火山の流紋岩質溶岩と火山ガラスの化学組成が類似する流紋岩片が挟在する.このことは,城山火山の活動がAso-4テフラ噴出とほぼ同時期であった可能性を示唆する.姫島火山群のすべての火山砕屑物や火口堆積物から,唐戸層上部にしか産出しないAulacoseira nipponicaが産出することも,唐戸層上部と姫島火山群が同時異相である可能性を支持する.なお,水野(2018)の唐戸1テフラを挟有する海成層からもA. nipponicaが産出し海生珪藻群集の特徴も類似するため,唐戸1テフラの層位は唐戸層上部と考えられる.
唐戸層の年代範囲は前期〜後期更新世にまたがり,一部は姫島火山群の活動と同時期に堆積した可能性が示された.この結果は,姫島の形成史を大幅に見直す必要があることを示している.発表では,花粉化石層序や古地磁気層序の検討結果を合わせて,唐戸層の堆積年代について議論する予定である.
文献:Aoki (2008) Quaternaly International, 178, 100–118. 伊藤・星住・巌谷(1997)姫島地域の地質,1/5万地質図幅.水野(2018)月刊地球号外No.69,49–54. Naya and Mizuno (2021) Phytotaxa, 505, 85–96.
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in