Presentation Information
[T1-P-6]Factors contributing to the initial growth stage of fine-grained garnet in pelitic Sanbagawa metamorphic rocks, Nagatoro area, Kanto Mountains
*Mutsuko INUI1, Kosei SEKINO1, Ryosuke SEKINE1 (1. Kokushikan University)
Keywords:
Sanbagawa metamorphic belt,garnet,chemical zoning,low-grade metamorphism,Kanto Mountains
三波川変成帯の長瀞地域では、低変成度の緑泥石帯とされる地域の中に局所的にザクロ石が出現する露頭がいくつかあることが知られている。そのような露頭のひとつが秩父鉄道樋口駅付近であり、同露頭における炭質物のラマン分光分析により最高到達温度は400℃を少し上回る程度と見積もられている(Inui et al., 2017)。ザクロ石の再結晶は沈み込み帯の変成作用の中でも主要な脱水反応のひとつである。脱水反応がどのようにして始まるかを知ることは、沈み込み帯の地下における水の挙動を解明することにつながる可能性がある。本稿では、この低変成度地域の露頭に見られる細粒ザクロ石の分布と化学組成累帯構造から、ザクロ石の再結晶を局所的に促した要因に迫ろうと試みたので報告する。
同露頭は主に泥質片岩からなり、主に白雲母からなる厚さ1mm以下~3mm程度の層が、主に石英からなる層をはさんで重なり片理を形成していた。白雲母からなる層は緑泥石、斜長石と時に細粒ザクロ石を含んでいた。ザクロ石は自形または丸みを帯びた自形で、出現する場合には白雲母層内にだけ分布し、大半は直径50μmより小さく、大きな粒子でも直径100μm程度までと非常に細粒であった。1枚の薄片内でも特定の層にだけザクロ石が多く見られることがあった。
ザクロ石はこの露頭に全体的にあるのではなく片理と同じ水平方向に連続する分布を示すことが指摘されている(Inui et al., 2018)。そこで、ザクロ石が出現した部分と出現しなかった部分との全岩化学組成を比較したが有意な差は検出されなかった。片理の白雲母層毎にザクロ石の密度が異なることも考え合わせると、ザクロ石の成長開始条件はサンプルのレベルではなく白雲母の薄層のレベルで異なっていた可能性がある。
次にザクロ石の化学組成累帯構造をSEM-EDS(JEOL JSM-6010LA、国士舘大学)にて観察したところ、多くがMn端成分に富む均質なコアとCa端成分に富むリムとの2段階に見える累帯構造を持ち、コア部とリム部の境界は比較的明瞭であった(Inui et al., 2020)。Mg, Fe端成分もコアからリム向かって増加していた。一部の試料ではコア部の後方散乱電子像に約5μm幅の縞が見られ、振動累帯構造を持っていると考えられた。さらに、多くの粒子がコアの中心付近に不定形の芯のような部分(以下、初期核と呼ぶ)を持ち、異なる化学組成を持っていた。なお、初期核もザクロ石であることはラマン分光分析によって確認した。1枚の薄片(薄片番号20220417s1-01)中に観察できたザクロ石のうち、リムの断面だけが見えた粒子が62個に対して、コアとリムの累帯構造が観察できて初期核が見えなかった粒子が53個、初期核が観察できた粒子は40個であった。非常に多くの粒子に初期核が見られたと言える。コア・リム部の化学組成は薄片内の粒子についてほとんど同じ値であったことから同じ条件で成長したと推測される。一方の初期核は、直径10μm未満が多く正確な測定は難しいが、化学組成が多様であることは確実であることから、細粒ザクロ石のコアが成長開始した時に既にばらばらな化学組成を持つザクロ石の微粒子があったと考えられる。ザクロ石の局所的な成長は、初期核となったザクロ石の微粒子の存在に依存して起きたことが考えられる。振動累帯構造を形成させた規則的な現象も初期の成長に関与した可能性がある。これほど多くの微粒子が局所的に存在した理由は不明であるが、薄片内の多数の粒子の初期核の化学組成だけをプロットすると三波川変成岩類における正累帯構造のザクロ石の組成範囲に重なる領域にばらつく結果が得られた。
〈参考文献〉
Inui et al.(2017)国士館大学理工学部紀要, 11, 55-60.
Inui et al.(2018)Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 113, 181-189.
Inui et al. (2020) Minerals, 10(3), 292-305.
同露頭は主に泥質片岩からなり、主に白雲母からなる厚さ1mm以下~3mm程度の層が、主に石英からなる層をはさんで重なり片理を形成していた。白雲母からなる層は緑泥石、斜長石と時に細粒ザクロ石を含んでいた。ザクロ石は自形または丸みを帯びた自形で、出現する場合には白雲母層内にだけ分布し、大半は直径50μmより小さく、大きな粒子でも直径100μm程度までと非常に細粒であった。1枚の薄片内でも特定の層にだけザクロ石が多く見られることがあった。
ザクロ石はこの露頭に全体的にあるのではなく片理と同じ水平方向に連続する分布を示すことが指摘されている(Inui et al., 2018)。そこで、ザクロ石が出現した部分と出現しなかった部分との全岩化学組成を比較したが有意な差は検出されなかった。片理の白雲母層毎にザクロ石の密度が異なることも考え合わせると、ザクロ石の成長開始条件はサンプルのレベルではなく白雲母の薄層のレベルで異なっていた可能性がある。
次にザクロ石の化学組成累帯構造をSEM-EDS(JEOL JSM-6010LA、国士舘大学)にて観察したところ、多くがMn端成分に富む均質なコアとCa端成分に富むリムとの2段階に見える累帯構造を持ち、コア部とリム部の境界は比較的明瞭であった(Inui et al., 2020)。Mg, Fe端成分もコアからリム向かって増加していた。一部の試料ではコア部の後方散乱電子像に約5μm幅の縞が見られ、振動累帯構造を持っていると考えられた。さらに、多くの粒子がコアの中心付近に不定形の芯のような部分(以下、初期核と呼ぶ)を持ち、異なる化学組成を持っていた。なお、初期核もザクロ石であることはラマン分光分析によって確認した。1枚の薄片(薄片番号20220417s1-01)中に観察できたザクロ石のうち、リムの断面だけが見えた粒子が62個に対して、コアとリムの累帯構造が観察できて初期核が見えなかった粒子が53個、初期核が観察できた粒子は40個であった。非常に多くの粒子に初期核が見られたと言える。コア・リム部の化学組成は薄片内の粒子についてほとんど同じ値であったことから同じ条件で成長したと推測される。一方の初期核は、直径10μm未満が多く正確な測定は難しいが、化学組成が多様であることは確実であることから、細粒ザクロ石のコアが成長開始した時に既にばらばらな化学組成を持つザクロ石の微粒子があったと考えられる。ザクロ石の局所的な成長は、初期核となったザクロ石の微粒子の存在に依存して起きたことが考えられる。振動累帯構造を形成させた規則的な現象も初期の成長に関与した可能性がある。これほど多くの微粒子が局所的に存在した理由は不明であるが、薄片内の多数の粒子の初期核の化学組成だけをプロットすると三波川変成岩類における正累帯構造のザクロ石の組成範囲に重なる領域にばらつく結果が得られた。
〈参考文献〉
Inui et al.(2017)国士館大学理工学部紀要, 11, 55-60.
Inui et al.(2018)Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 113, 181-189.
Inui et al. (2020) Minerals, 10(3), 292-305.
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