Presentation Information
[T16-P-4]Distribution and controlling factors of recent deep-sea benthic foraminifera in southern part of Okinawa Trough
*Chika ONAI1, Koji KAMEO1, Daisuke KUWANO2, Makoto OTSUBO3, Masataka KINOSHITA4, KH-23-11 shipboard scientists (1. Chiba Univ., 2. Kyoto Univ. , 3. Geological Survey of Japan, AIST, 4. ERI, The University of Tokyo)
Keywords:
Benthic foraminifera,Okinawa Trough,East China Sea,Deep sea
汽水域から深海にかけて広く生息する底生有孔虫は,主に石灰質の殻が海底堆積物中に化石として保存されるため,古環境復元を目的として,群集解析や地球化学的分析が行われている.一般に,底生有孔虫の分布は,海域や水深.加えて堆積物中の深度方向によって異なることが知られており,これは水温,塩分,海洋表層の生物生産,堆積物中の溶存酸素,堆積物の擾乱など,様々な環境の違いによる.従って,過去の環境を理解するためには,海洋における底生有孔虫の分布と,それを規制する要因を知ることが重要であるが,深海域の研究は困難であるため,現生の底生有孔虫研究のほとんどは,水深の浅い海域における種分布や生態の研究に限られている.
そこで本研究は,深い水深の底生有孔虫の分布と,その分布を支配する要因を明らかにすることを目的とし,南部沖縄トラフ中軸部の底生有孔虫の生体群集の組成と分布を検討する.南部沖縄トラフ海域は,トラフ内の水深1000 m以深において,水温・塩分がほぼ一定であり(片山ほか,2020),海底への有機物供給量,溶存酸素量など,水温や塩分以外の環境因子との関係を考察する上で,最適な場である.また,日本の最南端に位置することから,日本近海でも低緯度域に分布する底生有孔虫が見られることが期待され,特にその分布に表層流である黒潮の影響を検討することができる海域である.
本研究では,KH-23-11次研究航海において南部沖縄トラフ5 地点(1572–2268 m)で採取されたマルチプルコアを1 cmずつ検鏡し,深さ10 cmまでの深度方向の生きた底生有孔虫群集(>63 µ m)を検討した.また,一部の地点については,堆積物の供給源を推定するために,遺骸群集についても検討した.なお,試料は底生有孔虫の生体と遺骸とを区別し,固定するために,ローズベンガルエタノールを用いた処理を施した.
5地点の表層堆積物上部10 cmから,少なくとも74属117種の生体を同定した.一般に,堆積物最表層(0–2 cm)では,Reophax 属,Saccorhiza ramosa,Lagenammina 属(膠着質種),Pullenia bulloides(石灰質種)が,亜表層(>2 cm)では,Globobulimina 属,Chilostomella oolinaが見られた.ただし,トラフ中軸から離れた2地点ではGyroidina 属,Uvigerina 属などが特徴的に産出したほか,これらの産出数や潜り込む深さ,随伴する種は各地点で異なった.特に,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地(Sibuet et al., 1998;木村ほか,2010)の群集と,そのすぐ南側に位置するトラフ中軸上の群集では,サンプリング地点間の距離も近く,水深もほぼ同様であるにもかかわらず,種構成が大きく異なる.
検討した5地点は,それほど距離が離れておらず,水温・塩分などの環境要因もおおむね同様な海域であると推定される.従って,各地点の群集に違いが見られる要因の一つとして,堆積場としての違い,すなわち砕屑物の供給量や質的な違いが考えられる.生体群集の検討に加えて,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地と,そのすぐ南側に位置するトラフ中軸上の2地点の遺骸群集を検討したところ,海底扇状地でのみ,生体群集と同じ分類群に加え,浅海性種が見られた.この結果と海底地形を踏まえると,検討したトラフ中軸上の地点は海底谷中流にあたり,混濁流などによって堆積物とそこに生息する生態系が一掃される頻度が高く,加えて底生有孔虫の餌となり得る有機物が溜まりにくい場であると考えられる.一方,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地は,黄河や長江,黒潮などの影響を受けた有機物に富む東シナ海大陸の砕屑物が,海底谷を通じて供給され得る場であり,種構成や個体数に影響している可能性が考えられる.
参考文献:
片山ほか(2020)地質調査総合センター速報, 80,87–93.
木村ほか(2010)JAMSTEC深海研究, 18, 103–120.
Sibuet et al. (1998)Jour. Geophys. Res. ,103, 30245–30267.
そこで本研究は,深い水深の底生有孔虫の分布と,その分布を支配する要因を明らかにすることを目的とし,南部沖縄トラフ中軸部の底生有孔虫の生体群集の組成と分布を検討する.南部沖縄トラフ海域は,トラフ内の水深1000 m以深において,水温・塩分がほぼ一定であり(片山ほか,2020),海底への有機物供給量,溶存酸素量など,水温や塩分以外の環境因子との関係を考察する上で,最適な場である.また,日本の最南端に位置することから,日本近海でも低緯度域に分布する底生有孔虫が見られることが期待され,特にその分布に表層流である黒潮の影響を検討することができる海域である.
本研究では,KH-23-11次研究航海において南部沖縄トラフ5 地点(1572–2268 m)で採取されたマルチプルコアを1 cmずつ検鏡し,深さ10 cmまでの深度方向の生きた底生有孔虫群集(>63 µ m)を検討した.また,一部の地点については,堆積物の供給源を推定するために,遺骸群集についても検討した.なお,試料は底生有孔虫の生体と遺骸とを区別し,固定するために,ローズベンガルエタノールを用いた処理を施した.
5地点の表層堆積物上部10 cmから,少なくとも74属117種の生体を同定した.一般に,堆積物最表層(0–2 cm)では,Reophax 属,Saccorhiza ramosa,Lagenammina 属(膠着質種),Pullenia bulloides(石灰質種)が,亜表層(>2 cm)では,Globobulimina 属,Chilostomella oolinaが見られた.ただし,トラフ中軸から離れた2地点ではGyroidina 属,Uvigerina 属などが特徴的に産出したほか,これらの産出数や潜り込む深さ,随伴する種は各地点で異なった.特に,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地(Sibuet et al., 1998;木村ほか,2010)の群集と,そのすぐ南側に位置するトラフ中軸上の群集では,サンプリング地点間の距離も近く,水深もほぼ同様であるにもかかわらず,種構成が大きく異なる.
検討した5地点は,それほど距離が離れておらず,水温・塩分などの環境要因もおおむね同様な海域であると推定される.従って,各地点の群集に違いが見られる要因の一つとして,堆積場としての違い,すなわち砕屑物の供給量や質的な違いが考えられる.生体群集の検討に加えて,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地と,そのすぐ南側に位置するトラフ中軸上の2地点の遺骸群集を検討したところ,海底扇状地でのみ,生体群集と同じ分類群に加え,浅海性種が見られた.この結果と海底地形を踏まえると,検討したトラフ中軸上の地点は海底谷中流にあたり,混濁流などによって堆積物とそこに生息する生態系が一掃される頻度が高く,加えて底生有孔虫の餌となり得る有機物が溜まりにくい場であると考えられる.一方,東シナ海大陸棚から延びる海底谷の下流にある海底扇状地は,黄河や長江,黒潮などの影響を受けた有機物に富む東シナ海大陸の砕屑物が,海底谷を通じて供給され得る場であり,種構成や個体数に影響している可能性が考えられる.
参考文献:
片山ほか(2020)地質調査総合センター速報, 80,87–93.
木村ほか(2010)JAMSTEC深海研究, 18, 103–120.
Sibuet et al. (1998)Jour. Geophys. Res. ,103, 30245–30267.
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