Presentation Information
[T14-O-1]Influence of Geological and Topographic Conditions on Route Selection of the Kumano Pilgrimage Routes: Insights from Traversed Geology, Slope, and Least-Cost Corridor Analyses
*Seiya FUKUMURA1 (1. Nanki Kumano Geopark Center)
Keywords:
Kumano Pilgrimage Routes,Kumano Kodo,GIS,Least-Cost Path (LCP),Least-Cost Corridor
熊野古道として知られる世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の参詣道は、信仰・歴史・文化の観点から多く論じられてきた。地質構造や斜面傾斜などの地質・地形条件が関与していた可能性がある。本研究では、複数の熊野参詣道を対象に、通過する地質、斜面傾斜、累積上昇・下降量および低コストコリドーとの対応関係を解析し、参詣道の成立における地質・地形条件の影響を検討した。
解析対象は、中辺路、大辺路、伊勢路、小辺路、大峯奥駈道である。各ルートを世界遺産登録資産とそれ以外とに区分してQGIS上で整理し、一定間隔の点データに変換したうえで、数値標高モデルから標高・傾斜を取得し、20万分の1日本シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター, 2025)と重ね合わせて通過地質を集計した。また、斜面傾斜等を移動コストとした最小コスト経路を作成するとともに、単一の最小コスト経路だけでなく、複数の潜在的経路を含む低コストコリドー(Kondo et al., 2008)を設定し、実際の参詣道との対応関係を比較した。
その結果、中央構造線以南の紀伊半島南部では、秩父帯および四万十帯の付加体、浅海成白亜系および新第三系前弧海盆堆積体等からなる海成層、火成岩類、三波川変成岩類、河川・海岸平野堆積物等の地質区分に応じて標高および斜面傾斜に違いが認められた。付加体および火成岩類の分布域では高標高で急傾斜の山地が広く発達する一方、河川・海岸平野堆積物の分布域では低標高・低傾斜の地形が卓越した。また、前弧海盆堆積体は、付加体や火成岩類に比べて低標高に分布する傾向を示した。参詣道の通過地質をみると、海岸・低地を通る区間では河川・海岸平野堆積物や海成層の割合が高く、山地を越える区間では付加体や火成岩類の割合が高かった。また、全ての解析対象ルートを対象に、通過地質ごとの単位距離あたり累積上昇・下降量を集計したところ、火成岩類および付加体で大きく、前弧海盆堆積体等の海成層で中間的、河川・海岸平野堆積物で小さい傾向を示した。
参詣道ごとにみると、地質区分だけでは説明しきれない違いも認められた。小辺路の本宮―高野山間は、全ルートの中で単位距離あたりの累積上昇・下降量が最も大きく、中辺路の本宮―田辺間の約1.5倍に達した。両区間はいずれも付加体を主体とする山地を通過するが、本宮―田辺間が付加体中にみられる東西方向の地質構造に沿った谷や鞍部を利用するのに対し、本宮―高野山間は、そうした構造を横切りながら南北方向に山地を越えるためと考えられる。また、本宮―田辺間は低コストコリドーともよく対応し、地形条件の面でも相対的に移動しやすい経路であったことが示唆される。
伊勢路では、海岸低地や河川沿いを通る区間で低コストコリドーとの対応が良い。しかし、三重県尾鷲市から熊野市にかけて熊野酸性岩類の分布域を越える区間では、最小コスト経路が山側に算出されるのに対し、実際の参詣道は海岸沿いの集落を結ぶ傾向がある。このことは、地形的な最小コストだけでなく、集落分布など生活圏との接続が経路選択に影響したことを示す。
一方、修験の道である大峯奥駈道は、火成岩類やチャート、接触変成を受けた砂岩などの硬質岩からなる高標高・急峻な山地を通過する。特に、大峯奥駈道の最高所にあたる弥山・八経ヶ岳周辺では、天川亜層群の砂岩が大峯花崗岩類の貫入によりホルンフェルス化している(志井田ほか,1989)。このような地形的に厳しい山地をたどる大峯奥駈道では、低コストコリドーとの一致が相対的に低く、地形的効率のみでは経路選択を説明しにくい。
以上のように、熊野参詣道の経路は、地質構造や斜面条件と一定の関係をもちながらも、それだけで単純に説明できるものではない。地質・地形条件を基盤としつつ、信仰や生活圏との関係の中で選択されてきた道として捉えることで、熊野参詣道の成り立ちをより多面的に理解できる。
産総研地質調査総合センター(2025)20万分の1日本シームレス地質図V2,オリジナル版.https://gbank.gsj.jp/seamless/(閲覧日:2026年4月19日)
志井田功・諏訪兼位・梅田甲子郎・星野光雄(1989)山上ヶ岳地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所.
Kondo, Y., Ako, T., Heshiki, I., Matsumoto, G., Seino, Y., Takeda, Y., & Yamaguchi, H. (2008). FIELDWALK@KOZU: A Preliminary Report of the GPS/GIS-aided Walking Experiments for Remodelling Prehistoric Pathways at Kozushima Island (East Japan). Proceedings of the 36th CAA Conference, Budapest, 332–338.
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