Presentation Information

[T4-O-8](Invited) Geological constraint on the slab–mantle coupling depth via micro-XAFS analysis of high-pressure metamorphic rocks

*Taisuke Ito1, Simon Wallis1, Yoshio Takahashi1, Shunsuke Endo2 (1. Department of Earth and Planetary Science, School of Science, The University of Tokyo, 2. Department of Earth Science, Interdisciplinary Faculty of Science and Engineering, Shimane University)
PDF DownloadDownload PDF
【ハイライト講演】沈み込み帯の温度構造の支配要因の一つがスラブ―マントル結合である.その結合深度の正確な地質学的推定には,輝石中のFe2+/Fe3+比が障壁となっている.著者らは,X線吸収微細構造 (XAFS) 分光法を用いた単斜輝石中のFe2+/Fe3+測定法を開発し,三波川帯のエクロジャイトに適用することで約65–75 km以深でのスラブ―マントル結合を結論付けた.画期的かつ先進的な手法であり,今後の沈み込み帯温度構造の精緻な解読が期待される.  ※ハイライト講演とは...

Keywords:

subduction zone,thermal structure,depth of slab–mantle coupling,high-pressure metamorphic rock,X-ray absorption spectroscopy


 沈み込み帯の温度構造は、プレート境界における鉱物間の変成反応や相転移、岩石の変形挙動を一次的にコントロールする重要な因子であり、地震発生領域や島弧火成活動の維持に必要なマグマ形成領域の時空間的実体の理解に不可欠である。その具体的な支配要因には、(1) 沈み込むスラブの年代・収束速度、(2) 上盤プレート内の熱構造・放射壊変発熱、(3) 剪断発熱、および(4) スラブと上盤マントルの間の分離–結合状態が挙げられる。このうちスラブ–マントル間の粘性結合は、結合深度 (以下、Dc) 以深における高温のマントル対流の誘発を介してマントル相当深さにおける温度構造を決定づけ、前弧域における低熱流量や火山フロントの位置など、様々な観測事実を統合的に説明する鍵となる。
しかし、従来の地球物理学的・地質学的なDcの制約には大きな不確実性が伴われている。第一に、現在の沈み込み帯の地球物理学的観測に基づいた数値モデリングによって、Dcは沈み込み帯に依らず70–80 kmの一定の深さであることが提案されているものの、基礎となる熱流量観測データは東北日本とカスケーディアの2つを除くほとんどの沈み込み帯では不足しており、実際には十分に制約されていない[1]。第二に、過去の沈み込み境界の岩石記録である高圧変成岩を用いた地質学的なアプローチにおいても、従来のざくろ石–単斜輝石地質温度計は輝石中のFe2+/Fe3+をEPMA分析値の電荷バランスから間接的に推定するため、分析誤差や非化学量論的性質の影響により±100℃以上の大きな誤差を伴うという致命的な問題があった。
そこで本研究では、X線吸収微細構造 (XAFS) 分光法を用いた単斜輝石中の微小領域のFe2+/Fe3+測定法を開発し、これを白亜紀の沈み込み境界の地質記録である西南日本三波川帯に産するエクロジャイトに適用することで、高精度な沈み込み帯の温度構造を復元し、Dcを地質学的に制約した。まず、従来のXAFS分光法において課題となっていた、光学的異方性鉱物の吸収スペクトルの結晶方位依存性を考慮するため、多変量回帰モデルを新たに構築し、事前の方位情報なしに±7–8%の誤差 (RMSE) で正確なFe3+/ΣFeを決定する手法を開発した。また本手法を三波川帯エクロジャイト10試料の岩石研磨薄片に適用した結果、(1) オンファス輝石中の局所Fe3+/ΣFe (約5×5 μm2) は0.15–0.65と試料間で広範な値を示すこと、(2) 従来の電荷バランスと化学量論に基づいた推定法はCa-Eskola成分を一因としてFe3+/ΣFeを過小評価する傾向があり、その結果として温度の過大評価を招くことがわかった。
そして、輝石中のFe2+/Fe3+測定値を用いて各種地質温度圧力計 (ざくろ石–単斜輝石温度計、ざくろ石–単斜輝石–藍晶石–石英温度計、ざくろ石–単斜輝石–フェンジャイト圧力計、石英–ざくろ石弾性圧力計) を組み合わせて適用することで、約18–25 kbar/500–750℃の範囲をカバーするピーク変成条件を定量的に制約し、後期白亜紀三波川沈み込み帯の温度構造を精度よく復元した。その結果、先行研究[2]で指摘されていた、圧力20–23 kbar (深さ約65–75 km) における明瞭な等圧加熱トレンドが改めて見出され、当該深度以深でのスラブと上盤マントルの完全な粘性結合が強く支持された。この岩石学的に導かれた深度は、地球物理学的数値モデルが予測する普遍的な結合深度 (Dc = 70–80 km) と整合的であり、それら数値モデルの妥当性を地質記録から直接裏付ける重要な結果である。

引用文献
[1] Wada & Wang (2009) Geochem. Geophys. Geosyst., 10, Q10009.
[2] Aoya et al. (2009) Terra Nova, 21, 67–73.

Comment

To browse or post comments, you must log in.Log in