Presentation Information
[R1-10]Striations on Apophyllite Surface
*Hisao Kanda
Keywords:
apophyllite,striation
鉱物の多くは多面体結晶であり、その形態や色に美しさを感じるとともにその生成の仕組みを考えることには興味をそそられる。結晶の表面にも様々な模様が見られ、その模様の観察・解析は結晶の構造や生成条件の解明に役立つ。 結晶表面の形態の一つに条線があるが、それについては結晶を構成する原子の結合の異方性が関係していて、条線の方向は原子間結合の強い方向に一致していると考えられていた。PBC( Periodic Bond Chain )モデルではPBCベクトル(結晶表面の原子間結合の強い方向)を一本含む面がS面と呼ばれていて、条線面との関連が述べられている(砂川 2003)。その条線面は成因としては、傾いた面の繰り返しになっている面や成長層のエッジが重なって形成された面、成長層が異方的に進展した面が考えられている(砂川 2003)。 筆者は、ダイヤモンドの研究の中で条線面を観察したこともあり、その場合、原子結合の強い<110>方向に条線が伸びているというものであった。したがって、条線は結晶の原子結合に強い方向を向いているというもの、という理解であった。 ところが、ミネラルショーで販売されていたアポフィライトには条線があったが、その条線は劈開面に直角であった。劈開は結晶内の原子間結合の弱い面で割れるというものなので、条線の方向が劈開面と直角になるというのは、筆者にとっては意外であった。それで、サンプルを6個購入して形態を観察してみた。 2回のミネラルショーで購入したサンプルはサイズ1cm前後の6個の結晶でその一つを図に示した。産地は不明。色は淡いピンク3個、局所的に緑に着色したものが1個、無色が2個。形態は柱状のもの3個、ピラミッド型3個。いずれも単結晶であるが、柱状のサンプルには、小さなアポフィライトが方位を異にして付着しているものもあった。これらのいずれにも柱面、錐面、劈開した底面の3種類の面がみられ、文献によれば、それぞれ{110},{101},{001}である(秋月 1989)。劈開特性は顕著で、サンプル内に{001}方向にクラックが見られるものもあり、その一つに剃刀を当ててたたくと簡単に割れて(001)平板が得られた。サンプルの表面を目視とともに実体顕微鏡で観察すると以下のとおりであった。柱面: 全体的に平面{110}面であるが、わずか彎曲している面もあった。鮮明さに強弱のある無数の条線が見られ、条線の方向は[001]方向であり、多少の揺らぎもあった。光の反射の様子では、この面は、無数の[001]方向にはフラットで帯状に伸びた細長い面{hk0}からなり、h≠kの複数の方位の面が繰り返し並んでいるといえよう。なかにはある程度の幅をもつ平滑面も見られた。この柱面が「二種類の(hk0)面の繰り返しからなる」(秋月、1989)という記述があるので、詳しく測定すれば、特定のh, k の値を決めることができるかもしれない。錐面:全体的に平滑な面で光の反射の具合でなだらかな成長丘のような凹凸が見られたが、平滑な面といってよい。劈開面:平坦ですりガラス状。 以上の観察からいえることは、この条線面は、全体では{110}であるが、実際は、{110}から傾いた複数種の細い帯状の面{hk0}がジグザグに並んだものであり、個々の{hk0}面は沿面成長した成長面である。条線は隣り合った異方位の{hk0}面のエッジが伸びたものである。 この観察結果で、{110}条線面の形成について二つ疑問がある。 {110}条線面を構成する{hk0}面が[001]方向には平滑なのはなぜか。この平滑さから見ると、{hk0}面では成長層は[001]方向には沿面成長している。しかし、アポフィライトは、(001)劈開することからもわかるように、SiO4四面体ユニットが(001)面に平行に網目状に拡がったケイ酸塩鉱物である(原田 1957)。これは(001)面内では強い結合があるが、<001>方向の結合は弱い。この結晶構造だけから見ると、成長層は<001>方向には進展しにくいはずである。 {110}条線面は、平滑な{110}面にならず、<110>方向にジグザグな面になるのはなぜか。平滑な(110)面よりも、傾いた(hk0)と(h’k’0)との細かな組み合わせのほうが安定ということになるのだろうが、なぜ安定なのだろうか。 参考文献秋月瑞彦 岩鉱 84, 403-426 (1989)砂川一郎 「結晶―成長・形・完全性」(共立出版株式会社、2003)原田準平 「鉱物概論」(岩波書店、1957)