Presentation Information
[R1-P-09]Microstructure of iron and magnetite in serpentine vein in dunite in Ooshika Village, Nagano Prefecture, Japan
*Yuya TAKEDA1, Yoshihiro Kuwahara1, Seiichiro Uehara1 (1. Kyushu University)
Keywords:
iron,serpentinization,magnetite
はじめに
蛇紋岩化作用においてカンラン石と熱水から蛇紋石やブルース石,磁鉄鉱を生成する際に,鉄の価数変化によって水素が発生することで,自然鉄,アワルワ鉱などが形成される場合がある(Frost, 1985).蛇紋岩化作用で形成した自然鉄は世界各地で報告があるものの産出量が少なく,微細構造や蛇紋石やブルース石,磁鉄鉱との関係性などを記載した例は非常に少ない.長野県大鹿村のカンラン岩中の蛇紋石脈からは日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる楕円形の自然鉄が報告された(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda , 1983).自然鉄を含む蛇紋石脈について,カンラン石に近い部分はクリソタイル+多角柱状蛇紋石で構成され,脈の中心はリザーダイト+ブルース石+自然鉄+磁鉄鉱で構成されることを過去の鉱物科学会で報告した.今回は自然鉄や磁鉄鉱について結晶方位と合わせて微細構造観察を行った.
方法
構成鉱物はX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ, Rigaku RINT RAPID Ⅱ)で決定した.化学組成分析,組織観察にはSEM-EDS (JEOL JSM-7001F) 及びEPMA (JEOL JXA-8530F)を用いた.また,九州大学超顕微解析研究センターのEBSD検出器(Oxford Symmetry S3)を搭載したFIB-SEM (Thermo Fisher scientific Helios 5 UX)を用いて自然鉄の結晶方位を分析し,自然鉄のa軸に垂直な向き薄膜試料を作成し,透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2, JEOL JEM-2100F)で組織観察を行った.
結果と考察
楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈は幅10 µm ~ 100 µmで,薄片の肉眼観察では灰緑色に見える.岩石薄片のSEM観察では自然鉄は蛇紋石脈の中心に存在し,長軸が脈に対して垂直になるような楕円形で並び,一部の自然鉄の周囲には磁鉄鉱が形成していた(Fig. 1a).蛇紋石脈の破断面のSEMによる形態観察により,自然鉄は紡錘形で表面には明瞭な結晶面が見られなかった(Fig. 1b).EBSDによる結晶方位分析から自然鉄はFig. 1a.に示す青線の向きに[100]をもつ単結晶であり,[100]に垂直な薄膜切片を作成した.薄膜試料のTEM観察から,a軸入射の自然鉄の回折パターンが得られた.また,蛇紋石脈に平行に切り出した自然鉄の薄膜試料から[111]入射の回折パターンが得られ,紡錘形の長軸方向は自然鉄の結晶の[111]であった(Fig. 1c).従って,本産地の自然鉄は蛇紋石脈に対して垂直に[111]を持つ単結晶である.また,磁鉄鉱は自然鉄が変質したものやブルース石とともに生成されたものがみられた.自然鉄の変質でできた磁鉄鉱は単結晶の粒子で自然鉄のa軸から30°傾いた位置にa軸を持っていた.ブルース石と共生している磁鉄鉱について磁鉄鉱の[111]入射のパターンをブルース石とともに観察したところ磁鉄鉱のc*から30度回転した方向にブルース石のc*がみられた.自然鉄がリザーダイトやブルース石とともに産出することは,自然鉄がシリカ活動度の低い環境で形成されたことを示唆する.従って,自然鉄を含む蛇紋石脈はクリソタイル+多角柱状蛇紋石の生成に伴い,蛇紋石脈中心のSiが減少することで,局所的な自然鉄の安定場を生み出したと考えられる.更に自然鉄の生成によって水とO2を放出し,蛇紋石脈の中心部が酸化的かつ水分活性が高くなることで,磁鉄鉱の安定場に変化し,自然鉄を消費し磁鉄鉱が生成されたと考えられる.また,蛇紋石脈の成長に伴ってカンラン石からSi,Mg,Feが供給されることで自然鉄はカンラン石に向かって伸長した.しかし,カンラン石に近づくとシリカ活動度が高くなり,自然鉄の安定場から離れていくことで,自然鉄の生成は徐々に収束していき紡錘形になったと考えられる.
参考文献
Frost, B.R. (1985) On the Stability of Sulfides, Oxides, and Native Metals in Serpentinite, J. Petrol, 26, 31-63.
岡本 正也,井上 善嗣,黒田 吉益, (1981)長野県大河原付近のかんらん岩より自然鉄の発見, 地質学雑誌, 87, 597-599.
Sakai, R. and Kuroda, Y. (1983) Native iron and the associated minerals from the ultramafic masses in the Sanbagawa belt, central Japan, J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 78, 467-478.
蛇紋岩化作用においてカンラン石と熱水から蛇紋石やブルース石,磁鉄鉱を生成する際に,鉄の価数変化によって水素が発生することで,自然鉄,アワルワ鉱などが形成される場合がある(Frost, 1985).蛇紋岩化作用で形成した自然鉄は世界各地で報告があるものの産出量が少なく,微細構造や蛇紋石やブルース石,磁鉄鉱との関係性などを記載した例は非常に少ない.長野県大鹿村のカンラン岩中の蛇紋石脈からは日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる楕円形の自然鉄が報告された(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda , 1983).自然鉄を含む蛇紋石脈について,カンラン石に近い部分はクリソタイル+多角柱状蛇紋石で構成され,脈の中心はリザーダイト+ブルース石+自然鉄+磁鉄鉱で構成されることを過去の鉱物科学会で報告した.今回は自然鉄や磁鉄鉱について結晶方位と合わせて微細構造観察を行った.
方法
構成鉱物はX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ, Rigaku RINT RAPID Ⅱ)で決定した.化学組成分析,組織観察にはSEM-EDS (JEOL JSM-7001F) 及びEPMA (JEOL JXA-8530F)を用いた.また,九州大学超顕微解析研究センターのEBSD検出器(Oxford Symmetry S3)を搭載したFIB-SEM (Thermo Fisher scientific Helios 5 UX)を用いて自然鉄の結晶方位を分析し,自然鉄のa軸に垂直な向き薄膜試料を作成し,透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2, JEOL JEM-2100F)で組織観察を行った.
結果と考察
楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈は幅10 µm ~ 100 µmで,薄片の肉眼観察では灰緑色に見える.岩石薄片のSEM観察では自然鉄は蛇紋石脈の中心に存在し,長軸が脈に対して垂直になるような楕円形で並び,一部の自然鉄の周囲には磁鉄鉱が形成していた(Fig. 1a).蛇紋石脈の破断面のSEMによる形態観察により,自然鉄は紡錘形で表面には明瞭な結晶面が見られなかった(Fig. 1b).EBSDによる結晶方位分析から自然鉄はFig. 1a.に示す青線の向きに[100]をもつ単結晶であり,[100]に垂直な薄膜切片を作成した.薄膜試料のTEM観察から,a軸入射の自然鉄の回折パターンが得られた.また,蛇紋石脈に平行に切り出した自然鉄の薄膜試料から[111]入射の回折パターンが得られ,紡錘形の長軸方向は自然鉄の結晶の[111]であった(Fig. 1c).従って,本産地の自然鉄は蛇紋石脈に対して垂直に[111]を持つ単結晶である.また,磁鉄鉱は自然鉄が変質したものやブルース石とともに生成されたものがみられた.自然鉄の変質でできた磁鉄鉱は単結晶の粒子で自然鉄のa軸から30°傾いた位置にa軸を持っていた.ブルース石と共生している磁鉄鉱について磁鉄鉱の[111]入射のパターンをブルース石とともに観察したところ磁鉄鉱のc*から30度回転した方向にブルース石のc*がみられた.自然鉄がリザーダイトやブルース石とともに産出することは,自然鉄がシリカ活動度の低い環境で形成されたことを示唆する.従って,自然鉄を含む蛇紋石脈はクリソタイル+多角柱状蛇紋石の生成に伴い,蛇紋石脈中心のSiが減少することで,局所的な自然鉄の安定場を生み出したと考えられる.更に自然鉄の生成によって水とO2を放出し,蛇紋石脈の中心部が酸化的かつ水分活性が高くなることで,磁鉄鉱の安定場に変化し,自然鉄を消費し磁鉄鉱が生成されたと考えられる.また,蛇紋石脈の成長に伴ってカンラン石からSi,Mg,Feが供給されることで自然鉄はカンラン石に向かって伸長した.しかし,カンラン石に近づくとシリカ活動度が高くなり,自然鉄の安定場から離れていくことで,自然鉄の生成は徐々に収束していき紡錘形になったと考えられる.
参考文献
Frost, B.R. (1985) On the Stability of Sulfides, Oxides, and Native Metals in Serpentinite, J. Petrol, 26, 31-63.
岡本 正也,井上 善嗣,黒田 吉益, (1981)長野県大河原付近のかんらん岩より自然鉄の発見, 地質学雑誌, 87, 597-599.
Sakai, R. and Kuroda, Y. (1983) Native iron and the associated minerals from the ultramafic masses in the Sanbagawa belt, central Japan, J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 78, 467-478.