Presentation Information
[R1-P-10]Arsenotučekite from ultramafic rocks in the Median Tectonic Line shear zone, eastern Ehime Prefecture, Japan
*Hikaru Takagaki1, Yohei Shirose1 (1. Ehime Univ. Sci.&Egn.)
Keywords:
arsenotučekite,Median Tectonic Line,listvenite,serpentinite,Ehime Prefecture
【はじめに】 砒トゥチェク鉱(arsenotučekite)はNi18Sb3AsS16(空間群I4mm)の理想化学組成を持つハウチェコルン鉱グループに属する鉱物であり,AsとSbの秩序配列によりトゥチェク鉱Ni9Sb2S8(空間群P4/mmm)の2倍の周期となる超構造を持つ(Zaccarini et al., 2020)。本邦から報告されているハウチェコルン鉱グループ鉱物としては,三原鉱山,都茂鉱山から砒ハウチェコルン鉱Ni18Bi3AsS16(Soeda & Hirowatari, 1978; 添田ら,1985),都茂鉱山から蒼鉛ハウチェコルン鉱Ni9Bi2S8(添田・広渡,1973),広河原鉱山,鷹ノ巣鉱山からトゥチェク鉱(西久保ら,2005;大浜ら,2008)が知られている。砒トゥチェク鉱の産出は模式地であるギリシャのTsangli鉱山の超苦鉄質岩に伴うクロミタイトから重液分離した試料として報告されているのみである(Zaccarini et al., 2020)。本研究では,愛媛県四国中央市に位置する浦山川の炭酸塩岩化した蛇紋岩と片状リスウェナイト(Takagaki and Shirose, 2025)および新居浜市に位置する市場川の片状リスウェナイト(高垣・白勢,2025)の露頭から模式地以外からは初となる砒トゥチェク鉱を見出したのでその産状及び鉱物学的性質を報告する。
【産状】 浦山川では中央構造線付近で炭酸塩岩化した蛇紋岩及びリスウェナイトが産出し(Takagaki and Shirose, 2025),砒トゥチェク鉱は蛇紋岩及び泥質片岩中の片状リスウェナイトに含まれている。市場川においても中央構造線付近で泥質片岩中に片状リスウェナイトが産出し(高垣・白勢,2025),砒トゥチェク鉱が含まれている。蛇紋岩中ではアンチゴライト,マグネサイト,ドロマイト中に針ニッケル鉱と共に含まれ(Fig.),片状リスウェナイト中では石英,ドロマイト中に含まれている。砒トゥチェク鉱の大きさは約10 μmから300 μm,暗黄色で金属光沢を持ち,反射顕微鏡下では薄黄色を呈する。これらの岩石中には他の硫化鉱物として針ニッケル鉱,ゲルスドルフ鉱,輝コバルト鉱などが含まれる。
【実験手法】 観察,分析には愛媛大学設置のJEOL製走査型電子顕微鏡JSM-6510LV及び九州大学設置のRIGAKU製X線回折装置RINT RAPID IIを用いた。
【結果・考察】SEM-EDSを用いて求めた砒トゥチェク鉱の化学組成の平均値はそれぞれ,(Ni16.08Fe1.61Co0.23)(Sb3.47As0.80)S15.82(浦山川産蛇紋岩中),(Ni15.92 Fe1.13Co0.60)(Sb3.41As0.56)S16.38(浦山川産片状リスウェナイト中),(Ni15.81Fe1.72Co0.26)(Sb3.56As0.59)S16.06(市場川産片状リスウェナイト中)となった。Tsangli鉱山産の砒トゥチェク鉱(Ni16.19Fe0.83Co1.01)(Sb3.32As0.67)S15.98と比較すると(Zaccarini et al., 2020),いずれもややFeを多く含み,Coに乏しい特徴を持つ。またAs/(As+Sb)の値は0.168(Tsangli鉱山産),0.187(浦山川産蛇紋岩中),0.141(浦山川産片状リスウェナイト中),0.142(市場川産片状リスウェナイト中)となり,蛇紋岩中のものはよりAsに富む傾向にある。浦山川産蛇紋岩中の砒トゥチェク鉱のX線回折パターンについて砒トゥチェク鉱(ICDD PDF# 00-072-0178)及び,トゥチェク鉱(ICDD PDF# 01-082-8025)と比較したところ,トゥチェク鉱のパターンには近いものの,砒トゥチェク鉱とは一致しなかった。そこで,砒トゥチェク鉱の結晶構造情報(Zaccarini et al., 2020)をもとに格子定数を変え回折パターンを計算し直したところよく一致し,それをもとに指数付けし格子定数を求めた。浦山川産砒トゥチェク鉱の格子定数はa = 10.181(5),c = 10.757(7) Å,V = 1114.9(9) Å3となった。Tsangli鉱山産の砒トゥチェク鉱と比較するとaの値が大きいものの,他のハウチェコルン鉱グループの鉱物と比較するとトゥチェク鉱同様にやや小さいaの値となる。中央構造線付近から産する砒トゥチェク鉱は蛇紋岩がCO2に富む流体と反応した際に形成され,反応後の流体がさらに泥質片岩をリスウェナイト化する際にも形成されたと考えられる。トゥチェク鉱と比較すると模式地の試料を含めBiをまったく含んでいないことも本鉱物の特徴である。
【産状】 浦山川では中央構造線付近で炭酸塩岩化した蛇紋岩及びリスウェナイトが産出し(Takagaki and Shirose, 2025),砒トゥチェク鉱は蛇紋岩及び泥質片岩中の片状リスウェナイトに含まれている。市場川においても中央構造線付近で泥質片岩中に片状リスウェナイトが産出し(高垣・白勢,2025),砒トゥチェク鉱が含まれている。蛇紋岩中ではアンチゴライト,マグネサイト,ドロマイト中に針ニッケル鉱と共に含まれ(Fig.),片状リスウェナイト中では石英,ドロマイト中に含まれている。砒トゥチェク鉱の大きさは約10 μmから300 μm,暗黄色で金属光沢を持ち,反射顕微鏡下では薄黄色を呈する。これらの岩石中には他の硫化鉱物として針ニッケル鉱,ゲルスドルフ鉱,輝コバルト鉱などが含まれる。
【実験手法】 観察,分析には愛媛大学設置のJEOL製走査型電子顕微鏡JSM-6510LV及び九州大学設置のRIGAKU製X線回折装置RINT RAPID IIを用いた。
【結果・考察】SEM-EDSを用いて求めた砒トゥチェク鉱の化学組成の平均値はそれぞれ,(Ni16.08Fe1.61Co0.23)(Sb3.47As0.80)S15.82(浦山川産蛇紋岩中),(Ni15.92 Fe1.13Co0.60)(Sb3.41As0.56)S16.38(浦山川産片状リスウェナイト中),(Ni15.81Fe1.72Co0.26)(Sb3.56As0.59)S16.06(市場川産片状リスウェナイト中)となった。Tsangli鉱山産の砒トゥチェク鉱(Ni16.19Fe0.83Co1.01)(Sb3.32As0.67)S15.98と比較すると(Zaccarini et al., 2020),いずれもややFeを多く含み,Coに乏しい特徴を持つ。またAs/(As+Sb)の値は0.168(Tsangli鉱山産),0.187(浦山川産蛇紋岩中),0.141(浦山川産片状リスウェナイト中),0.142(市場川産片状リスウェナイト中)となり,蛇紋岩中のものはよりAsに富む傾向にある。浦山川産蛇紋岩中の砒トゥチェク鉱のX線回折パターンについて砒トゥチェク鉱(ICDD PDF# 00-072-0178)及び,トゥチェク鉱(ICDD PDF# 01-082-8025)と比較したところ,トゥチェク鉱のパターンには近いものの,砒トゥチェク鉱とは一致しなかった。そこで,砒トゥチェク鉱の結晶構造情報(Zaccarini et al., 2020)をもとに格子定数を変え回折パターンを計算し直したところよく一致し,それをもとに指数付けし格子定数を求めた。浦山川産砒トゥチェク鉱の格子定数はa = 10.181(5),c = 10.757(7) Å,V = 1114.9(9) Å3となった。Tsangli鉱山産の砒トゥチェク鉱と比較するとaの値が大きいものの,他のハウチェコルン鉱グループの鉱物と比較するとトゥチェク鉱同様にやや小さいaの値となる。中央構造線付近から産する砒トゥチェク鉱は蛇紋岩がCO2に富む流体と反応した際に形成され,反応後の流体がさらに泥質片岩をリスウェナイト化する際にも形成されたと考えられる。トゥチェク鉱と比較すると模式地の試料を含めBiをまったく含んでいないことも本鉱物の特徴である。