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[R1-P-14]The space group of itoigawaite from Itoigawa, Niigata Prefecture, Japan

*Jo Tsuzuki1, Yohei Igami1, Norimasa Shimobayashi1, Akira Miyake1 (1. Kyoto Univ. Sci.)
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Keywords:

Itoigawaite,Space group,Symmetry

【はじめに】糸魚川石は化学式SrAl2Si2O7(OH)2・H2Oで表される、ローソン石グループに分類される鉱物で、ローソン石のCaをSrに置換したものである。また、糸魚川石は世界でも新潟県糸魚川市青海地域、鳥取県若桜町からしか産出例のない稀産鉱物である(Miyajima et al., 1999、下林・山田, 2003)。
 糸魚川石の空間群について、原記載であるMiyajima et al. (1999)はガンドルフィカメラを用いたX線回折実験の結果から、ローソン石やヘノマルチナイトと同型構造として、空間群をCmcmと報告している。一方、Liebscher et al. (2010)はピストンシリンダー中で4 GPa/600 ℃および800 ℃の条件下で水熱合成実験を行い、生成した糸魚川石に対し粉末X線回折法を実施して単斜相の存在を見出し、ローソン石の高圧相と同様のP21/m構造と解釈した。また、清原ほか(2024)では、新潟県糸魚川産の糸魚川石の透過型電子顕微鏡での制限視野回折図形から単斜晶系以下に対称性が低下していると判断し、空間群はLiebscher et al. (2010)と同様のP21/mであろうと報告している。このように糸魚川石の空間群についてはいくつかの研究が行われているが、回折学的な空間群決定がなされたわけではなく、糸魚川石の正確な空間群は未解明と言える。
【目的・手法】そこで、本研究では放射光粉末X線回折法(Photon Factory, BL-4B2)、走査型電子顕微鏡(JEOL社FE-SEM JSM-7001F)、および透過型電子顕微鏡(JEOL社FE-TEM JEM-2100F)を用いて、糸魚川産糸魚川石について詳細に分析を行い、空間群を明らかにすることを目的とした。なお、サンプルについては高田クリスタルミュージアム館長の高田雅介氏からご提供頂いたものを使用した。
【結果・考察】放射光粉末XRDの結果、例えば、110と1-10などの回折線が分かれて出現していた。これは、これらの反射が非等価であることを示す。また、X線回折パターンに対して解析ソフトウェアPDIndexer (https://github.com/seto77/PDIndexer)を用いてピークフィッティングを行い、格子定数を精密化すると、直方格子ではなく、γ≠90°の単斜格子を持つことが分かった。そのため、糸魚川石の空間群を、Cmcm (C 2/m 2/c 21/m)の部分群(全54個)の中から検討した。改めて放射光粉末XRDの結果を参照すると、00l (l :奇数)を満たすピークが観察されなかったため、c軸に平行な21らせん軸は存在していると分かった。また、h+k :奇数となるような回折線は見られないため、C格子は保っている。一方、TEM観察で得られた制限視野回折図形を見ると、例えば201反射といった、h0l反射(h≠0, l :奇数)が出現しており、b軸に垂直なc映進面は消失していると分かった。以上の結果から、Cmcmの部分群のうち結果と矛盾するものを除外していくと、残りの候補はC1121/m (P21/m)またはそこから中心対称を失ったC1121 (P21)に絞られる。なお、C1121/m (P21/m)は、Daniel et al. (2000)によるローソン石高圧相やLiebscher et al. (2010)による糸魚川実験生成物で予想されてきた空間群と同一である。したがって、P21/mが天然の糸魚川石の空間群としても有力であると推測される。しかし中心対称の有無に関して積極的な証拠は得られておらず、中心対称の有無の判断のため、収束電子回折(CBED)法などの実施も検討している。
【引用文献】
Miyajima et al. (1999) Mineralogical Magazine, 63(6), 909-916
下林・山田 (2003) 日本鉱物学会2003年度年会 K8-09 要旨
Liebscher et al. (2010) American Mineralogist, 95(5-6), 724-735
清原ほか (2024) 日本鉱物科学会2024年度年会 R1-09 要旨
Daniel et al. (2000) European Journal of Mineralogy, 12(4), 721-733