Presentation Information
[R1-P-18]Electron microscope observation of coexisting structures of protoanthophyllite and anthophyllite from Takase Mine, Okayama Prefecture, Japan
*Shintaro Tokuda1, Akira Miyake1, Yohei Igami1, Norimasa Shimobayashi1 (1. Kyoto Univ. Sci)
Keywords:
Protoanthophyllite,Amphibole,Takase Mine,Electron Microscope
【はじめに】角閃石の組成はA0-1B2C5T8O22(OH)2で表され、Mg端成分は直閃石(□Mg2Mg5Si8O22(OH)2)、Fe端成分は鉄直閃石(□Fe2Fe5Si8O22(OH)2)と呼ばれる。一般に、角閃石は単斜晶系に属するものが大半で、上述の両端成分の間でもカミングトン閃石−グリュネル閃石といった単斜角閃石(空間群C 2/mもしくはP 21/m)が存在するが、一方で直閃石−鉄直閃石の直方角閃石(空間群Pnma)の存在も知られている。さらに、これらの直方角閃石に対して、その対称性の違いによりプロト角閃石(空間群Pnmn)といった別の直方相の存在も提唱されている[1]。プロト角閃石構造は、F及びLiを含んだ直方晶系角閃石として合成され、直方角閃石構造のa軸(aortho=~18.5 Å)が約半分となる構造(aproto=~9.3 Å)が提案された[1]。この報告後、長らく天然のプロト角閃石の産出例は無かったが、日本の花崗岩ペグマタイトとマンガン鉱床から、それぞれプロト鉄直閃石(Fe含有)とプロト鉄末野閃石(Fe, Mn含有)が報告された[2]。その後、岡山県高瀬鉱山の超苦鉄質複合岩体からもMg-richなプロト直閃石を報告があった[3, 4]。このプロト直閃石についてSEM観察を行い、プロト直閃石の内部に後方散乱電子像でコントラストの異なる部分を発見し、これは直閃石ラメラと報告した。このラメラ部はCa含有量がわずかに高い可能性を示唆した[3]。ほぼ同組成のプロト直閃石と直閃石の格子定数から計算された体積はプロト直閃石の方がわずかに大きいことから、プロト直閃石は直閃石の高温または低圧型と考えられてはいる[4]が、組成に対する安定性の変化はほとんど分かっていない。しかし、プロト直閃石はその産出例の少なさから相関係についての研究がほとんどなされておらず、プロト直閃石の直閃石に対する熱力学的安定性についても全く分かっていない。
【目的】そこで本研究では、Mg-Fe系の角閃石中のMg端成分付近においてプロト直閃石と直閃石の相関係について調べることを目的として、天然に産出したプロト直閃石―直閃石の共存組織を探し、電子顕微鏡による詳細な分析を行った。
【試料・手法】試料は岡山県新見市高瀬鉱山の超苦鉄質複合岩体より産出したプロト直閃石を用いた。この試料は、蛇紋石、かんらん石、エンスタタイト、緑泥石などと共生している。SEMを用いて薄片試料中の角閃石を観察し、後方散乱電子像で角閃石内部のコントラストの異なるラメラ組織を探した。その領域をFIBを用いてTEM観察用薄膜試料を作成した。TEMを用いて、ホストとラメラ部の制限視野回折図形を取得し、それぞれの対称性を判別し、STEM法を用いてEDSマッピングを取得することで組成差について調べた。さらに高分解能TEM観察によりラメラ部の積層の様子を観察した。
【結果・考察】高瀬鉱山より産出したプロト直閃石は薄片試料中で柱状結晶をなしている。また、後方散乱電子像でコントラストがわずかに異なるラメラ組織を有しているものがあった。角閃石全体の組成分析の結果、
Na0.09(Mg6.36Fe0.59Mn0.02Ni0.02)Σ6.99(Si7.86Al0.15)Σ8.01O22(OH)2 , XMg=0.915
を得た。プロト直閃石中のラメラ組織は劈開やアイソジャイヤーから(100)面に平行と考えられる。ホスト領域およびラメラ領域の制限視野回折図形と高分解能TEM観察の結果より、ホストはプロト直閃石、ラメラ部は高密度で積層不整が入った直閃石に対応していることが分かった。さらにSTEM-EDSマッピングにより、ラメラ部はホストと比較してFeとAlに富んでいることが分かった。Caも含めたそのほかの元素については有意な差は得られなかったものの、Fe原子はBサイトに集中して入ることが言及されている[4]ため、増加したFeの代わりにMgが減少していると推察できる。これらのことから、Mg-Fe系でプロト直閃石は直閃石よりもMg端成分側でより安定であると分かった。当地域は、圧力約2kbar、温度600~700℃を経験していると考えられており[5]、この温度圧力条件で二相が共存していることが分かった。
【引用文献】
[1] Gibbs et al. (1960) Am. Min., 45, 974–989
[2] Sueno et al. (1998) P. C. M., 25, 366–377
[3] Konishi et al. (2002) Am. Min., 87, 1096–1103
[4] Konishi et al. (2003) Am. Min., 88, 1718–1723
[5] Nozaka, T. (2011) J. Metamorph. Geol., 29, 385–398
【目的】そこで本研究では、Mg-Fe系の角閃石中のMg端成分付近においてプロト直閃石と直閃石の相関係について調べることを目的として、天然に産出したプロト直閃石―直閃石の共存組織を探し、電子顕微鏡による詳細な分析を行った。
【試料・手法】試料は岡山県新見市高瀬鉱山の超苦鉄質複合岩体より産出したプロト直閃石を用いた。この試料は、蛇紋石、かんらん石、エンスタタイト、緑泥石などと共生している。SEMを用いて薄片試料中の角閃石を観察し、後方散乱電子像で角閃石内部のコントラストの異なるラメラ組織を探した。その領域をFIBを用いてTEM観察用薄膜試料を作成した。TEMを用いて、ホストとラメラ部の制限視野回折図形を取得し、それぞれの対称性を判別し、STEM法を用いてEDSマッピングを取得することで組成差について調べた。さらに高分解能TEM観察によりラメラ部の積層の様子を観察した。
【結果・考察】高瀬鉱山より産出したプロト直閃石は薄片試料中で柱状結晶をなしている。また、後方散乱電子像でコントラストがわずかに異なるラメラ組織を有しているものがあった。角閃石全体の組成分析の結果、
Na0.09(Mg6.36Fe0.59Mn0.02Ni0.02)Σ6.99(Si7.86Al0.15)Σ8.01O22(OH)2 , XMg=0.915
を得た。プロト直閃石中のラメラ組織は劈開やアイソジャイヤーから(100)面に平行と考えられる。ホスト領域およびラメラ領域の制限視野回折図形と高分解能TEM観察の結果より、ホストはプロト直閃石、ラメラ部は高密度で積層不整が入った直閃石に対応していることが分かった。さらにSTEM-EDSマッピングにより、ラメラ部はホストと比較してFeとAlに富んでいることが分かった。Caも含めたそのほかの元素については有意な差は得られなかったものの、Fe原子はBサイトに集中して入ることが言及されている[4]ため、増加したFeの代わりにMgが減少していると推察できる。これらのことから、Mg-Fe系でプロト直閃石は直閃石よりもMg端成分側でより安定であると分かった。当地域は、圧力約2kbar、温度600~700℃を経験していると考えられており[5]、この温度圧力条件で二相が共存していることが分かった。
【引用文献】
[1] Gibbs et al. (1960) Am. Min., 45, 974–989
[2] Sueno et al. (1998) P. C. M., 25, 366–377
[3] Konishi et al. (2002) Am. Min., 87, 1096–1103
[4] Konishi et al. (2003) Am. Min., 88, 1718–1723
[5] Nozaka, T. (2011) J. Metamorph. Geol., 29, 385–398