Presentation Information
[R2-08]Thermal decomposition and reversible transition of ulexite NaCaB5O6(OH)6·5H2O
*Atsushi KYONO1, Kosuke YAMAGUCHI2, Satoru OKADA2, Hiroki HASEGAWA2 (1. University of Tsukuba, Faculty of Life and Environmental Sciences, 2. University of Tsukuba, Degree Programs in Life and Earth Sciences)
Keywords:
ulexite,thermal decomposition,dehydration-dehydroxylation reaction,rehydration-rehydroxylation reaction,Fundamental Building Blocks
【はじめに】
ホウ酸鉱物,特に水和ホウ酸鉱物は,熱分解時に脱水や脱水酸基反応を伴って相変化を起こすことが知られている.したがって,その熱力学的安定性や相変化特性を理解することは,ホウ酸塩鉱物の生成プロセスや工業的利用において極めて重要である.本研究では,「テレビ石」として知られるulexite(NaCaB5O6(OH)6·5H2O)の熱分解に伴う相変化および脱水・脱水酸基相の高湿度(RH=100%)環境下での可逆的変化を調べた.
【実験方法】
試料には,米国カリフォルニア州Boron鉱山産のulexiteを用いた.試料を粉末化し,約100 mgを白金パンに入れて熱重量示差熱分析(TG/DTA-7300;セイコーインスツル)を行った.さらに,試料を約50 mgずつ取り分けて白金るつぼに移し,電気炉内で大気下で所定温度で1時間加熱した.加熱は1000℃まで行い,電気炉から取り出した試料はデシケーター内で保管した.その後,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設PFのBL8Bにおいて放射光X線回折(XRD)測定を実施した.また,100℃で1時間加熱した試料は,単結晶XRD測定(SMART APEX II ULTRA;Bruker AXS)を行った.
【結果と考察】
TG/DTA分析および高温ex-situ放射光XRDの結果,ulexiteは50℃から169℃の脱水反応によりNaCaB5O6(OH)6·3H2Oの脱水ulexiteへと変化した.その後,非晶質相に移行し,断続的な脱水および脱水酸基反応を経て647℃でNaCaB5O9の無水ulexiteが形成された.さらに875℃でCaB2O4と非晶質NaB3O5に分解した.本研究では,単結晶XRDによって脱水ulexiteの結晶構造を初めて決定した.脱水ulexiteは,空間群 P-1,格子定数 a = 8.686(4) Å,b = 10.973(5) Å,c = 6.709(3) Å,α = 105.463(5) o,β = 107.518(5) o,γ = 79.833(5) o,V = 584.5(5) ųであり,Ca原子は8配位を維持していたが,Na原子は6配位から7配位へ変化した.また,脱水ulexiteにおけるホウ酸の基本構成単位(Fundamental Building Blocks;FBBs)は,ulexiteのFBBの結合様式を維持していた.さらに,脱水ulexiteが自然界において安定的に存在している可能性が示唆された.また,最近,我々はホウ酸塩鉱物の熱分解過程において,現在の(親)相のFBBの結合様式またはその一部が,熱分解後に出現する次の(子)相のFBBに継承される「FBB継承モデル」を提案している(Nishiyasu and Kyono, 2023;Kyono and Yamaguchi, 2025).Ulexiteの熱分解過程におけるFBBの結合様式の変化は,ulexiteから脱水ulexite,無水ulexite,さらに分解相CaB2O4に至るまで,この「FBB継承モデル」に従うことを確認した.各脱水相および脱水酸基相の高湿度環境下での可逆反応は,脱水ulexiteは高湿度環境下では直ちにulexiteへと戻り,高い再水和能力を示した.180℃から500℃で生成された非晶質相は,高湿度環境下では水が直接関与し溶解−再沈殿反応により,ulexiteだけでなくborax(Na2B4O5(OH)4·8H2O)も形成された.600℃で生成された無水ulexiteも,高湿度環境下で再水和反応を起こし,ulexiteへと戻った.一方,分解相CaB2O4は,高湿度環境下でもulexiteに戻ることはなかった.Ulexiteの脱水相および脱水酸基相の可逆的挙動は,熱分解時に継承されたFBBが再水和反応によって熱力学的に最も安定なulexiteへと再構成されることを示している.この結果は,水が豊富な地球表層環境において,ホウ酸塩鉱物中のFBBの再構成が容易に起こり得ることを示唆している.
【インプリケーション】
水が豊富な地球表層では,ホウ酸塩鉱物のFBBの再構成が容易に生じる.図1は,Grew(2017)が提案したホウ素のFBBの結合様式を考慮に入れたホウ素サイクルの模式図である.FBBは,「分解(decomposition)」から,島弧環境における「単量化(depolymerization)」を経て,水が関与する「重合化(polymerization)」を経由し,さらに地球表層において分解と再水和を繰り返す「再結晶化(recrystallization)」に至ると考えられる.本研究は,ホウ酸塩鉱物の時空間分布の理解を深め,ホウ素サイクルの解明をさらに進展させるものである.
ホウ酸鉱物,特に水和ホウ酸鉱物は,熱分解時に脱水や脱水酸基反応を伴って相変化を起こすことが知られている.したがって,その熱力学的安定性や相変化特性を理解することは,ホウ酸塩鉱物の生成プロセスや工業的利用において極めて重要である.本研究では,「テレビ石」として知られるulexite(NaCaB5O6(OH)6·5H2O)の熱分解に伴う相変化および脱水・脱水酸基相の高湿度(RH=100%)環境下での可逆的変化を調べた.
【実験方法】
試料には,米国カリフォルニア州Boron鉱山産のulexiteを用いた.試料を粉末化し,約100 mgを白金パンに入れて熱重量示差熱分析(TG/DTA-7300;セイコーインスツル)を行った.さらに,試料を約50 mgずつ取り分けて白金るつぼに移し,電気炉内で大気下で所定温度で1時間加熱した.加熱は1000℃まで行い,電気炉から取り出した試料はデシケーター内で保管した.その後,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設PFのBL8Bにおいて放射光X線回折(XRD)測定を実施した.また,100℃で1時間加熱した試料は,単結晶XRD測定(SMART APEX II ULTRA;Bruker AXS)を行った.
【結果と考察】
TG/DTA分析および高温ex-situ放射光XRDの結果,ulexiteは50℃から169℃の脱水反応によりNaCaB5O6(OH)6·3H2Oの脱水ulexiteへと変化した.その後,非晶質相に移行し,断続的な脱水および脱水酸基反応を経て647℃でNaCaB5O9の無水ulexiteが形成された.さらに875℃でCaB2O4と非晶質NaB3O5に分解した.本研究では,単結晶XRDによって脱水ulexiteの結晶構造を初めて決定した.脱水ulexiteは,空間群 P-1,格子定数 a = 8.686(4) Å,b = 10.973(5) Å,c = 6.709(3) Å,α = 105.463(5) o,β = 107.518(5) o,γ = 79.833(5) o,V = 584.5(5) ųであり,Ca原子は8配位を維持していたが,Na原子は6配位から7配位へ変化した.また,脱水ulexiteにおけるホウ酸の基本構成単位(Fundamental Building Blocks;FBBs)は,ulexiteのFBBの結合様式を維持していた.さらに,脱水ulexiteが自然界において安定的に存在している可能性が示唆された.また,最近,我々はホウ酸塩鉱物の熱分解過程において,現在の(親)相のFBBの結合様式またはその一部が,熱分解後に出現する次の(子)相のFBBに継承される「FBB継承モデル」を提案している(Nishiyasu and Kyono, 2023;Kyono and Yamaguchi, 2025).Ulexiteの熱分解過程におけるFBBの結合様式の変化は,ulexiteから脱水ulexite,無水ulexite,さらに分解相CaB2O4に至るまで,この「FBB継承モデル」に従うことを確認した.各脱水相および脱水酸基相の高湿度環境下での可逆反応は,脱水ulexiteは高湿度環境下では直ちにulexiteへと戻り,高い再水和能力を示した.180℃から500℃で生成された非晶質相は,高湿度環境下では水が直接関与し溶解−再沈殿反応により,ulexiteだけでなくborax(Na2B4O5(OH)4·8H2O)も形成された.600℃で生成された無水ulexiteも,高湿度環境下で再水和反応を起こし,ulexiteへと戻った.一方,分解相CaB2O4は,高湿度環境下でもulexiteに戻ることはなかった.Ulexiteの脱水相および脱水酸基相の可逆的挙動は,熱分解時に継承されたFBBが再水和反応によって熱力学的に最も安定なulexiteへと再構成されることを示している.この結果は,水が豊富な地球表層環境において,ホウ酸塩鉱物中のFBBの再構成が容易に起こり得ることを示唆している.
【インプリケーション】
水が豊富な地球表層では,ホウ酸塩鉱物のFBBの再構成が容易に生じる.図1は,Grew(2017)が提案したホウ素のFBBの結合様式を考慮に入れたホウ素サイクルの模式図である.FBBは,「分解(decomposition)」から,島弧環境における「単量化(depolymerization)」を経て,水が関与する「重合化(polymerization)」を経由し,さらに地球表層において分解と再水和を繰り返す「再結晶化(recrystallization)」に至ると考えられる.本研究は,ホウ酸塩鉱物の時空間分布の理解を深め,ホウ素サイクルの解明をさらに進展させるものである.