Presentation Information
[R2-13]Oriented growth of metal-organic frameworks on a single crystal of Cu2(OH)3HCO2
*Yuka Koseki1, Kenji Okada1, Arisa Fukatsu1, Masahide Takahashi1 (1. Osaka Met. Univ. Eng.)
Keywords:
Layered hydroxide salts,Oriented growth,Epitaxial growth,Metal-organic framework
本研究では層状構造を有する鉱物単結晶の表面で有機/無機ハイブリッド材料である金属有機構造体(MOF: Metal-organic framework)を単結晶のような精度で配向成長させることに成功した。無機が主成分の鉱物表面で、MOFなどの有機分子を含む結晶を高い精度で配向させることは一般的に困難であるが、層状水酸化物塩の単結晶表面をMOF膜のエピタキシャル成長基板として利用できることを見出した。
金属有機構造体(MOF)は金属イオンと有機配位子から構成される結晶性多孔質材料であり、高い構造的/化学的設計性を有する細孔によるガス分離・吸着、触媒など多岐にわたる分野での応用が期待されている。近年では化学的あるいは物理的特性の設計性の高さから、MOFを用いた先進的な光学・電子デバイスやガス分離膜などの開発も期待されている。このような応用を実現するためには高品質なMOF膜を作製する必要があるが、MOFは一般的に粉末や多面体の結晶として合成されるため、高品質なMOF膜の作製技術開発が課題となっている。特にMOF結晶が膜全体で単結晶のように向きをそろえて緻密に並んだ擬単結晶MOF膜を作製することができれば、MOFの細孔方位に依存する機能性を最大限発揮することができる。
当研究グループではこれまでに、水酸化銅ナノ構造体配向薄膜上でMOFをエピタキシャル成長させることで、MOF結晶が3次元的に配向したMOF配向薄膜の作製を達成してきた[1][2]。エピタキシャル成長とは下地となる結晶の結晶格子に沿って上に別の結晶を成長させる結晶成長手法であり、結晶の向きをそろえることが可能である。MOF膜のエピタキシャル成長の際に結晶成長を制御することで、MOF結晶が緻密に並んだ3次元配向MOF薄膜の作製にも成功してきたが[3]、エピタキシャル成長の基板が単結晶基板ではないために膜全体でのMOF結晶の配向度は80%程度に留まり、擬単結晶MOF膜の作製には至らなかった。
本研究では、MOFのエピタキシャル成長の基板として、層状水酸化物塩であるCu2(OH)3HCO2 [4]の単結晶を用いて、擬単結晶MOF膜の作製を目指す。層状水酸化物塩は、金属水酸化物層が層間にアニオンを含みながら積層した層状鉱物であり、アニオン交換能を持つものが報告されている。Cu2(OH)3HCO2は銅水酸化物層表面にアニオンであるHCO2-が周期的に配列した構造を有しており、MOFを構成する有機配位子と単結晶表面のHCO2-がアニオン交換することでMOFの有機配位子が周期的に配列し、その上にMOFが成長することで単結晶のようにMOF結晶子を配向させることが期待できる。
そこで、カルボン酸系配位子からなる銅系MOFである、Cu2(bdc)2dabco (bdc: 1,4-benzenedicarboxylate, dabco: 1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane)をCu2(OH)3HCO2単結晶上に配向成長させることを試みた。あらかじめ合成したCu2(OH)3HCO2単結晶を、MOFを構成する有機配位子であるH2bdcとdabco、さらに酢酸とイオン交換水を加えたメタノール溶液に浸漬し70℃で1時間反応させることで、Cu2(OH)3HCO2単結晶上にMOFを成長させた。走査型電子顕微鏡(SEM)による表面の観察では、反応前は平坦だったCu2(OH)3HCO2単結晶表面(Fig. (a))が、反応後は整列したMOF結晶によって覆われていた(Fig. (b))。Cu2(OH)3HCO2単結晶およびその上に成長したMOFの結晶方位関係について、X線回折装置による各格子面の面内方位角依存性測定を行うと、Cu2(OH)3HCO2の(020)面に対してMOFの(001)面が平行に、(010/100)面が直交するようにMOFが配向しており、Cu2(OH)3HCO2単結晶の結晶格子に沿ってMOFが結晶学的な方位をそろえて配向成長したことが明らかになった(Fig. (c))。したがって擬単結晶MOF膜を作製するには、エピタキシャル成長に単結晶基板を用いることが必要不可欠であり、層状水酸化物塩Cu2(OH)3HCO2に単結晶基板としての可能性を見出すことができた。このような高品質MOF膜の作製は、MOFを組み込んだ先進的なデバイス開発の道を拓くものである。
Ref: [1] P. Falcaro et.al., Nature Mater., 16, 342(2017) [2] K. Okada et al., Chem. Sci., 11, 8005 (2020) [3] Y. Koseki et al., Nanoscale, 16, 14101 (2024) [4] W. Fujita et al., Chem. Asian J., 7, 2830 (2012)
金属有機構造体(MOF)は金属イオンと有機配位子から構成される結晶性多孔質材料であり、高い構造的/化学的設計性を有する細孔によるガス分離・吸着、触媒など多岐にわたる分野での応用が期待されている。近年では化学的あるいは物理的特性の設計性の高さから、MOFを用いた先進的な光学・電子デバイスやガス分離膜などの開発も期待されている。このような応用を実現するためには高品質なMOF膜を作製する必要があるが、MOFは一般的に粉末や多面体の結晶として合成されるため、高品質なMOF膜の作製技術開発が課題となっている。特にMOF結晶が膜全体で単結晶のように向きをそろえて緻密に並んだ擬単結晶MOF膜を作製することができれば、MOFの細孔方位に依存する機能性を最大限発揮することができる。
当研究グループではこれまでに、水酸化銅ナノ構造体配向薄膜上でMOFをエピタキシャル成長させることで、MOF結晶が3次元的に配向したMOF配向薄膜の作製を達成してきた[1][2]。エピタキシャル成長とは下地となる結晶の結晶格子に沿って上に別の結晶を成長させる結晶成長手法であり、結晶の向きをそろえることが可能である。MOF膜のエピタキシャル成長の際に結晶成長を制御することで、MOF結晶が緻密に並んだ3次元配向MOF薄膜の作製にも成功してきたが[3]、エピタキシャル成長の基板が単結晶基板ではないために膜全体でのMOF結晶の配向度は80%程度に留まり、擬単結晶MOF膜の作製には至らなかった。
本研究では、MOFのエピタキシャル成長の基板として、層状水酸化物塩であるCu2(OH)3HCO2 [4]の単結晶を用いて、擬単結晶MOF膜の作製を目指す。層状水酸化物塩は、金属水酸化物層が層間にアニオンを含みながら積層した層状鉱物であり、アニオン交換能を持つものが報告されている。Cu2(OH)3HCO2は銅水酸化物層表面にアニオンであるHCO2-が周期的に配列した構造を有しており、MOFを構成する有機配位子と単結晶表面のHCO2-がアニオン交換することでMOFの有機配位子が周期的に配列し、その上にMOFが成長することで単結晶のようにMOF結晶子を配向させることが期待できる。
そこで、カルボン酸系配位子からなる銅系MOFである、Cu2(bdc)2dabco (bdc: 1,4-benzenedicarboxylate, dabco: 1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane)をCu2(OH)3HCO2単結晶上に配向成長させることを試みた。あらかじめ合成したCu2(OH)3HCO2単結晶を、MOFを構成する有機配位子であるH2bdcとdabco、さらに酢酸とイオン交換水を加えたメタノール溶液に浸漬し70℃で1時間反応させることで、Cu2(OH)3HCO2単結晶上にMOFを成長させた。走査型電子顕微鏡(SEM)による表面の観察では、反応前は平坦だったCu2(OH)3HCO2単結晶表面(Fig. (a))が、反応後は整列したMOF結晶によって覆われていた(Fig. (b))。Cu2(OH)3HCO2単結晶およびその上に成長したMOFの結晶方位関係について、X線回折装置による各格子面の面内方位角依存性測定を行うと、Cu2(OH)3HCO2の(020)面に対してMOFの(001)面が平行に、(010/100)面が直交するようにMOFが配向しており、Cu2(OH)3HCO2単結晶の結晶格子に沿ってMOFが結晶学的な方位をそろえて配向成長したことが明らかになった(Fig. (c))。したがって擬単結晶MOF膜を作製するには、エピタキシャル成長に単結晶基板を用いることが必要不可欠であり、層状水酸化物塩Cu2(OH)3HCO2に単結晶基板としての可能性を見出すことができた。このような高品質MOF膜の作製は、MOFを組み込んだ先進的なデバイス開発の道を拓くものである。
Ref: [1] P. Falcaro et.al., Nature Mater., 16, 342(2017) [2] K. Okada et al., Chem. Sci., 11, 8005 (2020) [3] Y. Koseki et al., Nanoscale, 16, 14101 (2024) [4] W. Fujita et al., Chem. Asian J., 7, 2830 (2012)