Presentation Information
[R2-17]Formation of amorphous calcium carbonate (ACC) in the cuticle of Armadillidium vulgare and the influence of mineral feeding
*Shumpei Tatsunami1, Atushi Kyono2, Satoru Okada1, Hiroki Hasegawa1, Kosuke Yamaguchi1 (1. University of Tsukuba, Degree Programs in Life and Earth Sciences, 2. University of Tsukuba, Faculty of Life and Environmental Sciences)
Keywords:
Amorphous calcium carbonate (ACC),Calcite,Aragonite,polymorphism,biomineralization
バイオミネラリゼーションは多くの生物に共通する現象であり,オカダンゴムシの背殻を構成するクチクラ(cuticle)は,カルサイトと非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate, ACC)を組み合わせた構造を持つことが知られている.本研究では,鉱物飼料がクチクラの炭酸カルシウムの結晶構造に与える影響について検討した.
実験では,採集したオカダンゴムシ(Armadillidium vulgare)を,超純水(Milli-Q水)で湿らせた円形定性ろ紙(アドバンテック東洋製)上に,カルサイト(中国福建省泉州市産),アラゴナイト(モロッコTazouta鉱床産),石英(福島県石川町産)のいずれかを飼料として与え,30日から60日間飼育した.比較のために,自然環境に近い条件でも飼育を行った.クチクラの炭酸カルシウムの観察および構造解析は,ラマン分光分析,走査型電子顕微鏡(SEM),放射光X線回折(XRD)を用いた.
SEM観察の結果を図1に示す.カルサイトまたはアラゴナイトを飼料として与えた個体では,クチクラの厚みが著しく増加した.一方,石英を与えた個体ではクチクラは極端に薄くなることが確認され,飼料中の炭酸カルシウムがクチクラの形成に直接影響を及ぼすことが明らかになった.XRDおよびラマン分光分析の結果,飼料の炭酸カルシウムの多形(カルサイトまたはアラゴナイト)は,ACC自体の構造には影響を及ぼさないことが分かった.しかし,カルサイトまたはアラゴナイトを与えた個体では,XRDにおけるアモルファスハローの強度が低下し,カルサイトの最強線の回折強度が増加したことから,クチクラのカルサイトの割合が増加していることが示唆された.さらに,ラマン分光分析により,クチクラのACCはオカダンゴムシの切断後30分以内に脱水が進行し,結晶化が進んで遷移ACCへと変化することが確認された.
これらの結果から,オカダンゴムシは摂取した炭酸カルシウム鉱物をそのままクチクラ形成に利用するのではなく,一度分解したのち再構築していることが示された.クチクラの厚さは,飼料中のカルシウム量に依存しており,カルシウム量の増加はクチクラを厚くするだけでなく,ACCを遷移ACC,さらにカルサイトへと変化させる要因になると考えられる.また,オカダンゴムシの体節を切断し,大気に暴露したACCは,短時間で自発的にカルサイト化することが分かった.この脱水による迅速なカルサイト化は,オカダンゴムシが脱皮後に新たなクチクラを硬化させる際に,非常に効率的な仕組みであり,進化の過程で獲得した生存戦略の一つであると考えられる.
本研究により,オカダンゴムシはバイオミネラリゼーションを通じて炭酸カルシウム鉱物を巧みに利用し外部環境に適応していることが分かった.特に,飼料中のカルシウム量がクチクラの厚さやACCの結晶化を制御していること,さらに脱皮後のACCの迅速なカルサイト化が大気暴露による脱水によって促進され,オカダンゴムシのエネルギーコストを最小限に抑える効率的な生存戦略として機能していることが示された.
実験では,採集したオカダンゴムシ(Armadillidium vulgare)を,超純水(Milli-Q水)で湿らせた円形定性ろ紙(アドバンテック東洋製)上に,カルサイト(中国福建省泉州市産),アラゴナイト(モロッコTazouta鉱床産),石英(福島県石川町産)のいずれかを飼料として与え,30日から60日間飼育した.比較のために,自然環境に近い条件でも飼育を行った.クチクラの炭酸カルシウムの観察および構造解析は,ラマン分光分析,走査型電子顕微鏡(SEM),放射光X線回折(XRD)を用いた.
SEM観察の結果を図1に示す.カルサイトまたはアラゴナイトを飼料として与えた個体では,クチクラの厚みが著しく増加した.一方,石英を与えた個体ではクチクラは極端に薄くなることが確認され,飼料中の炭酸カルシウムがクチクラの形成に直接影響を及ぼすことが明らかになった.XRDおよびラマン分光分析の結果,飼料の炭酸カルシウムの多形(カルサイトまたはアラゴナイト)は,ACC自体の構造には影響を及ぼさないことが分かった.しかし,カルサイトまたはアラゴナイトを与えた個体では,XRDにおけるアモルファスハローの強度が低下し,カルサイトの最強線の回折強度が増加したことから,クチクラのカルサイトの割合が増加していることが示唆された.さらに,ラマン分光分析により,クチクラのACCはオカダンゴムシの切断後30分以内に脱水が進行し,結晶化が進んで遷移ACCへと変化することが確認された.
これらの結果から,オカダンゴムシは摂取した炭酸カルシウム鉱物をそのままクチクラ形成に利用するのではなく,一度分解したのち再構築していることが示された.クチクラの厚さは,飼料中のカルシウム量に依存しており,カルシウム量の増加はクチクラを厚くするだけでなく,ACCを遷移ACC,さらにカルサイトへと変化させる要因になると考えられる.また,オカダンゴムシの体節を切断し,大気に暴露したACCは,短時間で自発的にカルサイト化することが分かった.この脱水による迅速なカルサイト化は,オカダンゴムシが脱皮後に新たなクチクラを硬化させる際に,非常に効率的な仕組みであり,進化の過程で獲得した生存戦略の一つであると考えられる.
本研究により,オカダンゴムシはバイオミネラリゼーションを通じて炭酸カルシウム鉱物を巧みに利用し外部環境に適応していることが分かった.特に,飼料中のカルシウム量がクチクラの厚さやACCの結晶化を制御していること,さらに脱皮後のACCの迅速なカルサイト化が大気暴露による脱水によって促進され,オカダンゴムシのエネルギーコストを最小限に抑える効率的な生存戦略として機能していることが示された.