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[R2-18]Numerical modeling of the formation of oscillatory compositional zoning based on impurity-induced crystal growth inhibition

Hiroki Torii, *Hitoshi MIURA1 (1. Nagoya City Univ.)
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Keywords:

oscillatory compositional zoning,crystal growth,impurity effect,numerical simulation

鉱物の化学組成は一般に不均一である。組成の異なる部分が鉱物断面にほぼ平行に帯状分布している構造を累帯構造(zonal structure)という。中でも,ある成分に富む部分と乏しい部分が交互に累積している構造を波動累帯構造(oscillatory compositional zoning,以後OCZ)という。OCZが生じる要因のひとつに,鉱物形成時における結晶成長速度の周期的な変化が挙げられる。成長速度の周期変動を引き起こすメカニズムを解明することは,OCZを示す鉱物の形成環境を推測する上で重要である。

我々は,成長速度の周期変動を引き起こすメカニズムとして,不純物による結晶成長抑制作用を考慮したモデルを提案した[1]。結晶表面には分子ひとつ分の高さを持つ段差(ステップ)が存在し,ステップが環境相中の溶質分子を取り込んで前進することにより,結晶表面は一層ずつ積み重なっていく(層成長)。結晶表面に不純物が吸着すると,吸着不純物はあたかもピン留めするかのごとくステップの前進を阻害する(ピン留め効果)。結晶表面において吸着と脱離を繰り返す不純物によるピン留め効果を考慮することで,ステップ前進速度の過飽和度依存性が過飽和度の増加時と減少時とで異なる挙動を示すこと(結晶成長ヒステリシス)が理論的に示されている[2]。我々が提案したOCZ形成モデル[1]は,結晶成長ヒステリシスの平均場理論[2]に基づき,過飽和度のわずかな変化に対して成長速度の不連続的な変化(カタストロフィック遷移)が起きることを仮定していた。しかし,実際にカタストロフィック遷移が生じるかどうかは自明ではなかった。本研究では,平均場理論で予想されているカタストロフィック遷移を理論的に実証することを目的として,溶液中での結晶成長を想定したステップ動力学の数値計算を実施した。

数値計算には,結晶表面においてランダムに吸着・脱離を繰り返す不純物によるピン留め効果を考慮したステップ動力学のフェーズフィールド法を用いた[3,4]。同時に,結晶周辺の溶液濃度場の時間変化を拡散方程式に基づいて解くことで,結晶成長速度の自発的な周期変動およびOCZの再現を試みた。

初期状態として,不純物が吸着していない清浄な結晶表面を想定し,高過飽和状態から計算を開始した。計算開始とともに結晶表面には不純物が吸着し始めるが,吸着量が増加するよりも早く次のステップが結晶表面を更新するため,結晶表面はほぼ清浄な状態が維持される。同時に,結晶成長に伴って溶液中の溶質分子が消費され,結晶表面近傍の過飽和度が減少する。過飽和度の減少とともにステップ前進が遅くなり,結晶表面が少しずつ吸着不純物で汚染され,ステップ前進速度をさらに低下させる。この正のフィードバックにより,ステップ前進はある時点でほぼ完全に停止した。ステップ前進が停止すると,バルク溶液からの拡散輸送によって結晶表面近傍の過飽和度が回復する。しかし,過飽和度が回復する前に結晶表面が吸着不純物で汚染され,結晶表面は汚れ切った状態(吸着と脱離がつり合った状態)になった。その後,過飽和度が回復してもしばらくのあいだステップ前進は再開せず,過飽和度が一定以上に回復したときにようやく再開した。ステップ前進が再開すると,吸着不純物は新しい結晶層に埋め込まれ,その上にはほぼ清浄な結晶表面が復活した。さらに計算を続けると,上記のサイクルが繰り返された。

さらに,ステップが通過する際にその場に吸着していた不純物は結晶層に埋め込まれたと仮定し,結晶成長層内における不純物の分布を求めた。その結果,結晶内の不純物分布が周期的に変化し,ほぼ等間隔に濃度ピークが現れることがわかった。濃度ピークの位置は,停止していたステップ前進が再開した位置と一致した。つまり,不純物濃度のピークは,停止していた結晶成長が再開したときに,結晶表面に吸着していた不純物を一気に結晶内に取り込んだ結果だと解釈できる。

これらの結果は,平均場近似に基づいたOCZ形成機構[1]が,ステップ動力学を考慮した数値計算によっても再現できたことを示している。

参考文献:[1] H. Torii and H. Miura (2024), Sci. Rep. 14:13337. [2] H. Miura and K. Tsukamoto (2013), Cryst. Growth Des. 13, 3588. [3] H. Miura (2016), Cryst. Growth Des. 16, 2033. [4] H. Miura (2020), Cryst. Growth Des. 20, 245.