Presentation Information
[R2-P-04]Origin and formation environment of spherulitic diamond 'Ballas' investigated by primary inclusion analysis
*Koga Kanai1, Hiroaki Ohfuji1 (1. Tohoku Univ. Sci.)
Keywords:
Diamond,Ballas,Inclusions
【緒言】
バラス(Ballas)は真珠のような球晶状形態を示す多結晶ダイヤモンドで、通常の八面体形などの単結晶ダイヤモンドと一緒にキンバレー岩パイプより産出する。バラスは断面において中心部から同心円状に広がる年輪構造を示し(Devries & Robertson, 1985)、中心から放射状に伸長した繊維状~柱状の結晶より構成される。最近のEBSD分析とカソードルミネッセンスによる観察によって、バラスの中心から外側へ向かって羽状に広がる成長ドメインにおいて、個々の結晶が分岐と回転を伴い成長した様子が報告されている(Shiryaev et al., 2023)。また、単結晶の外周部分を繊維状結晶が被覆したキューボイドダイヤモンドとの結晶組織の類似性から、バラスは単結晶を起点とした被覆成長ダイヤモンドのバラエティとして解釈でき、その形成には過飽和度などの周囲環境の急激な変化が関係しているとされている(Pavlshin et al., 2021)。
しかし、バラスが地球深部のどのような環境・過程を経て形成されるのかの詳細は未だ不明である。そこで、本研究ではこれまで着目されてこなかったバラス内部に含まれる包有物に焦点を当て、その詳細な組織観察と化学分析を通してバラスの起源を探ることを目的とする。
【研究試料および手法】
本研究で使用したバラスは、株式会社シンテックより購入したアフリカ産の試料で、それ以上の産地詳細については不明である。赤外光のナノパルスレーザーを用いてバラス試料の大円を通る断面で切断し、機械研磨を施した。まず、偏光顕微鏡とデジタルマイクロスコープ(Leica, DVM-6)を用いて内部構造や包有物の分布について観察した後、Os蒸着を施し、FE-SEM(JEOL, JSM-7000F, JSM7001F)による組織観察を行った。内部組織の観察には,カソードルミネッセンス(CL:Gatan MiniCL)像を用い、包有物の観察、分析には二次・反射電子像とEDSを用いた。
【結果と考察】
バラス試料の大円面断面のCL像観察の結果、バラスは主に数個の単結晶の接合よりなる「中心部」とそれを界面として外側に放射状に伸長成長した柱状結晶よりなる「外縁部」の2層に大分されることが分かった 。バラス中にはしばしば包有物が含まれているが、包有物の特徴は中心部と外縁部で明確な違いが認められた。中心部に含まれる包有物は三角形や四角形などの幾何学的な負晶形態(2~5μm)を示すのに対し、外縁部では、柱状結晶の伸長方向に沿って細長く連結したかなり大きな(長さ10~90μm,幅5~15μm)空隙の形で含まれていた。
バラス中心部に含まれる包有物は概してSi, K,Al,Mgに富んでおり、元素マッピングデータから抽出したスペクトルに戻づく半定量分析を行ってみると、Siモル濃度を1とした場合、Kは0.25~2.5、Alは 0.1~0.3、Mgは0.25~1.5とかなり幅を持った組成を示した。また、一つの包有物の内部でKやAlはほぼ含まずSi,Mgのみに富む部分とCaのみに富む部分や、流体が満たしていたと考えられる微小な空隙(1~3 μm)もしばしば観察された。
これらの産状から判断して、バラス中心部に含まれる包有物は揮発性成分とケイ酸塩成分に富んだメルト包有物である可能性が高い。現在、これらの包有物部分からFIBを用いた薄膜加工とそのTEM観察を進めている。
一方、バラス外縁部に観察された比較的大きな細長い空隙部は揮発性成分を主体とした流体が包有されていた痕跡と解釈される。結晶の伸長成長に沿って分布していることから、結晶成長時に取り込まれた周囲の流体であるとみなされる。その壁面にはしばしばSi, Alに富むカリフラワー状の組織を示す析出物が付着しており、Si/Al比は概ね1.25~1.5程度であった。また、まれにK, Fe, Mg, Caを含む微細な析出物も観察された。ただし、大半が空隙であることから、かなり揮発性成分に富んだ流体(C-H-O流体)が取り込まれたものと推測される。
以上を踏まえると、バラスの内部に普遍的に観察される二層構造は、異なる環境における異なる成長ステージに由来しているといえる。バラスの核形成は揮発成分に富み炭素に飽和したケイ酸塩メルト中で生じた可能性が高く,その後の被覆成長(外縁部の形成)はH2OやCH4に富んだC-H-O流体環境中で起こったと推測される。実際、顕微ラマン分光で外縁部の流体包有物からCH4に由来すると考えらえるピークを検出した。現在、TEMを用いたより詳細な包有物の観察・分析を進めており、発表ではその詳細を紹介する。
バラス(Ballas)は真珠のような球晶状形態を示す多結晶ダイヤモンドで、通常の八面体形などの単結晶ダイヤモンドと一緒にキンバレー岩パイプより産出する。バラスは断面において中心部から同心円状に広がる年輪構造を示し(Devries & Robertson, 1985)、中心から放射状に伸長した繊維状~柱状の結晶より構成される。最近のEBSD分析とカソードルミネッセンスによる観察によって、バラスの中心から外側へ向かって羽状に広がる成長ドメインにおいて、個々の結晶が分岐と回転を伴い成長した様子が報告されている(Shiryaev et al., 2023)。また、単結晶の外周部分を繊維状結晶が被覆したキューボイドダイヤモンドとの結晶組織の類似性から、バラスは単結晶を起点とした被覆成長ダイヤモンドのバラエティとして解釈でき、その形成には過飽和度などの周囲環境の急激な変化が関係しているとされている(Pavlshin et al., 2021)。
しかし、バラスが地球深部のどのような環境・過程を経て形成されるのかの詳細は未だ不明である。そこで、本研究ではこれまで着目されてこなかったバラス内部に含まれる包有物に焦点を当て、その詳細な組織観察と化学分析を通してバラスの起源を探ることを目的とする。
【研究試料および手法】
本研究で使用したバラスは、株式会社シンテックより購入したアフリカ産の試料で、それ以上の産地詳細については不明である。赤外光のナノパルスレーザーを用いてバラス試料の大円を通る断面で切断し、機械研磨を施した。まず、偏光顕微鏡とデジタルマイクロスコープ(Leica, DVM-6)を用いて内部構造や包有物の分布について観察した後、Os蒸着を施し、FE-SEM(JEOL, JSM-7000F, JSM7001F)による組織観察を行った。内部組織の観察には,カソードルミネッセンス(CL:Gatan MiniCL)像を用い、包有物の観察、分析には二次・反射電子像とEDSを用いた。
【結果と考察】
バラス試料の大円面断面のCL像観察の結果、バラスは主に数個の単結晶の接合よりなる「中心部」とそれを界面として外側に放射状に伸長成長した柱状結晶よりなる「外縁部」の2層に大分されることが分かった 。バラス中にはしばしば包有物が含まれているが、包有物の特徴は中心部と外縁部で明確な違いが認められた。中心部に含まれる包有物は三角形や四角形などの幾何学的な負晶形態(2~5μm)を示すのに対し、外縁部では、柱状結晶の伸長方向に沿って細長く連結したかなり大きな(長さ10~90μm,幅5~15μm)空隙の形で含まれていた。
バラス中心部に含まれる包有物は概してSi, K,Al,Mgに富んでおり、元素マッピングデータから抽出したスペクトルに戻づく半定量分析を行ってみると、Siモル濃度を1とした場合、Kは0.25~2.5、Alは 0.1~0.3、Mgは0.25~1.5とかなり幅を持った組成を示した。また、一つの包有物の内部でKやAlはほぼ含まずSi,Mgのみに富む部分とCaのみに富む部分や、流体が満たしていたと考えられる微小な空隙(1~3 μm)もしばしば観察された。
これらの産状から判断して、バラス中心部に含まれる包有物は揮発性成分とケイ酸塩成分に富んだメルト包有物である可能性が高い。現在、これらの包有物部分からFIBを用いた薄膜加工とそのTEM観察を進めている。
一方、バラス外縁部に観察された比較的大きな細長い空隙部は揮発性成分を主体とした流体が包有されていた痕跡と解釈される。結晶の伸長成長に沿って分布していることから、結晶成長時に取り込まれた周囲の流体であるとみなされる。その壁面にはしばしばSi, Alに富むカリフラワー状の組織を示す析出物が付着しており、Si/Al比は概ね1.25~1.5程度であった。また、まれにK, Fe, Mg, Caを含む微細な析出物も観察された。ただし、大半が空隙であることから、かなり揮発性成分に富んだ流体(C-H-O流体)が取り込まれたものと推測される。
以上を踏まえると、バラスの内部に普遍的に観察される二層構造は、異なる環境における異なる成長ステージに由来しているといえる。バラスの核形成は揮発成分に富み炭素に飽和したケイ酸塩メルト中で生じた可能性が高く,その後の被覆成長(外縁部の形成)はH2OやCH4に富んだC-H-O流体環境中で起こったと推測される。実際、顕微ラマン分光で外縁部の流体包有物からCH4に由来すると考えらえるピークを検出した。現在、TEMを用いたより詳細な包有物の観察・分析を進めており、発表ではその詳細を紹介する。