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[R3-04]Temperature dependence of the Fe3+/ΣFe ratio in wadsleyite by electron energy loss spectroscopy (EELS)

*Kazutaka YAMAGUCHI1, Takaaki Kawazoe1, Toru Inoue1, Naotaka Tomioka2 (1. Hiroshima Univ. Advanced Science., 2. JAMSTEC, Kochi institute)
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Keywords:

Wadsleyite,Ferric iron,Oxygen fugacity,Electron energy loss spectroscopy

1. はじめに 
 地球のマントル遷移層上部の約60%は、ウォズリアイトで構成されている。マントル遷移層には海洋プレートの沈み込みにより3価の鉄イオンが供給されている。また、下部マントル由来のダイヤモンド包有物と海洋島玄武岩に含まれるメルト包有物には3価の鉄イオンが20~80%含まれているものもあることが分かっている(e.g., McCammon et al., 1997; Moussallam et al., 2019)。3価の鉄イオンは、ウォズリアイトの弾性的性質を低下させ(Buchen et al., 2017)、含水化メカニズム(Kawazoe et al., 2016)を変化させることが分かっている。また、酸素分圧がウォズリアイトのソリダス温度を低下させ(山口, 2023 修士論文)、粒成長速度を速めること(Nishihara et al., 2006)も明らかになっている。マントル遷移層の平均温度は約1600℃(Katsura, 2022)とされているが、大きな温度不均質が存在する。沈み込むスラブとホットプルームの近傍での温度は大きく異なっており、その差はマントル遷移層下部では約1100℃に及ぶ(Bao et al., 2022; Kubo et al., 2009)。このため、3価の鉄イオンがウォズリアイトの物性に及ぼす影響を制約するためには、ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の温度依存性の解明が必要不可欠である。そこで本研究では、川井型マルチアンビル装置と電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いてウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の温度依存性を明らかにするための高温高圧実験と回収試料の分析を行った。 
2. 実験・分析方法 
 出発物質にはサンカルロス産カンラン石の粉末を用いた。出発物質は酸素分圧バッファーとともにAuカプセルに封入した。高温高圧実験は、広島大学設置の川井型マルチアンビル装置MAPLE600を用いて行った。実験は13.7~14.6 GPa、1300~1600℃の温度圧力条件で行った。これらの温度圧力条件を1分から30分保持し急冷した。酸素分圧はRe-ReO2バッファーとMo-MoO2バッファーを用いて制御した。回収試料は、鏡面研磨後、反射顕微鏡および広島大学設置の電子プローブマイクロアナライザーを用いて観察し、化学組成を分析した。回収試料の相同定には、愛媛大学設置の微小領域X線回折装置、広島大学設置の顕微ラマン分光装置と高知コア研究所設置のTEMを用いた。ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の測定には、TEMの電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いた。 
3. 結果および考察 
 本測定の前には、電子線による試料へのダメージの影響を評価するために試料の電子線ダメージの測定時間依存性の評価を行った。時間依存性の評価は、10秒×1回の測定を積算する方法で行った。この結果、少なくともビーム照射時間が100秒までは電子線によるダメージは受けていないことが分かった。本測定は60~90秒で行ったため、本研究で報告するFe3+/ΣFe比はビームダメージの影響を受けていないと評価できる。1300~1500℃において、ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比は温度上昇とともに増加した。Re-ReO2バッファー試料における各温度でのFe3+/ΣFe比は、1300、1400、1500、1600℃でそれぞれ0.15±0.03、0.26±0.06、0.29±0.04、0.20±0.03であった。1600℃のFe3+/ΣFe比は温度とともにFe3+が増加する傾向と矛盾しているが、これは部分熔融でメルトが形成されウォズリアイトとのFe3+の分配が起きている可能性を示していると思われる。急冷メルトのFe3+/ΣFe比は、1500℃で0.45±0.17であった。1600℃の急冷メルトのFe3+/ΣFe比は今後測定する予定である。Mo-MoO2バッファー試料における各温度でのFe3+/ΣFe比は、1300、1400℃でそれぞれ0.06±0.03、0.12±0.05であった。これらの結果により、温度はウォズリアイトのFe3+/ΣFe比に大きな影響を与えることが明らかとなった。 Kuwahara and Nakada(2023)は、現在の上部マントルと下部マントルの酸化還元状態の違いの原因は、マグマオーシャンの結晶化ではなく、その後の下部マントルのFeの電荷不均化反応(3Fe2+→2Fe3+ +Fe)や後期微惑星集積による上部マントルのFe3+の還元反応だと説明している。しかし本研究の1500℃の結果は、ウォズリアイトとメルトでFe3+の分配が起こり、メルトにFe3+が濃集することを示している。このため、今後はマグマオーシャンにおけるウォズリアイトの結晶化を考慮した新たな酸化還元モデルを提唱する予定である。