Presentation Information
[R3-05]Optimization of thermodynamic parameters for Mg2SiO4 wadsleyite and SiO2 stishovite and their application to thermodynamic calculation of stability field of MgSiO3 akimotoite
*Hiroshi Kojitani1, Masamichi Noda2, Toru Inoue3, Masaki Akaogi4 (1. Gakushuin Univ., 2. Delaware State Univ., 3. Hiroshima Univ., 4. Univ. of Tokyo)
Keywords:
Mg2SiO4 wadsleyite,SiO2 sthishovite,MgSiO3 akimotoite,thermodynamic calculation,phase equilibrium boundary
MgSiO3アキモトアイト(Ak)の熱力学パラメータを評価したKojitani et al. (2022)において、熱測定に使用されたMgSiO3 Ak試料は、従来の高圧実験や熱力学計算により示されてきたMgSiO3 Akの安定領域から外れた圧力温度条件下で高圧合成された。このため、特にAkとその低圧相であるMg2SiO4 ワズレアイト(Wd)+SiO2 スティショバイト(St)との間の相平衡境界線の再検討が必要となっていた。本研究では、熱力学的手法によりその相平衡境界線の検討を行った。WdとStについて、実験誤差の大きかった落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)の再測定を行い、同一の基準を採用することによる内部調和した標準生成エンタルピーを精度よく決定した。また、状態方程式と定圧熱容量(CP)が自己調和するように熱力学パラメータを最適化した。さらに、得られた熱力学パラメータを適用して、[Mg2SiO4 Wd+SiO2 St]-MgSiO3 Ak相平衡境界線の熱力学計算を行った。
自己調和した熱力学パラメータの最適化は、P-V-Tデータへの3次の高温バーチ-マーナガン状態方程式の最小二乗フィットとグリューナイゼンの関係式 α = γthCV/(KT0V0)との繰り返し計算により行った。ここで、α、γth、CV、KT0、V0は、それぞれ熱膨張率、熱的グリューナイゼン定数、定積熱容量、およびゼロ圧力での等温体積弾性率と体積である。CVは、低温CPの実測値を再現するような振動の状態密度モデルを用いた格子振動モデル計算により求めた。
MgOとSiO2石英の標準生成エンタルピー(ΔfH°298)を基準とし、再測定したΔHd-s(Wd)とΔHd-s(St)を用いることにより、WdとStの標準生成エンタルピーは、ΔfH°298 (Wd) = −2147.2 ± 1.8, ΔfH°298 (St) = −874.9 ± 0.5 kJ/molと決定された。実験誤差から生じるそれらのΔfH°298値の不確実性は従来の半分程度となり、熱力学計算で求められる相境界線の誤差の低減に大きく貢献している。Wdの熱力学パラメータについては、V0(298 K) = 40.52 cm3/mol、 KT0(298 K) = 169 GPa、γth = 1.23を固定することにより、Katsura et al. (2009) のP−V−Tデータへの最小二乗フィットを行った。KT’ = 4.61(5)および(∂KT0/∂T)P = −0.0289(4) GPa/Kが求められ、同時にグリューナイゼン関係式よりαが、CP(T) = CV(T) +α(T)2KT0(T)V0(T)T式よりCPが得られた。同様にして、Stの熱力学パラメータの最適化は、V0(298 K) = 14.02 cm3/molのみを固定し、様々なγthにおいてNishihara et al. (2005)とWang et al. (2012)のP−V−Tデータへの最小二乗フィットにより行われた。最小二乗フィットの残差二乗和は、γth = 1.35のとき最小となった。そこで、γth = 1.35として得られたKT0 = 305(1) GPa、KT’ = 4.25(7)、(∂KT0/∂T)P = −0.0274(5) GPa/Kおよびそれらから計算されるαとCPを最適化された値として採用した。得られたWdとStの熱力学パラメータおよびKojitani et al. (2022)によるAkの熱力学パラメータを用いることにより、Mg2SiO4 Wd + SiO2 St = 2MgSiO3 Ak相転移反応の相平衡境界線の熱力学計算が行われた。ΔfH°298 (Wd)およびΔfH°298 (St)を誤差範囲内で変化させることにより検討した相平衡境界線は、約20GPa付近とされていた従来の相境界線よりも、2~3 GPaだけ低圧側に位置することが判明した。本研究の熱力学的手法により新たに決定されたMgSiO3系におけるAkの安定領域は、Kojitani et al. (2022)のAkの合成圧力温度条件と調和的である。
引用文献
Kojitani et al. (2022) Phys. Earth Planet. Inter., 333, 106937.
Katsura et al. (2009) Geophys. Res. Lett., 36, L11307.
Nishihara et al. (2005) Phys. Chem. Miner., 361, 660−670.
Wang et al. (2012) J. Geophys. Res., 117, B06209.
自己調和した熱力学パラメータの最適化は、P-V-Tデータへの3次の高温バーチ-マーナガン状態方程式の最小二乗フィットとグリューナイゼンの関係式 α = γthCV/(KT0V0)との繰り返し計算により行った。ここで、α、γth、CV、KT0、V0は、それぞれ熱膨張率、熱的グリューナイゼン定数、定積熱容量、およびゼロ圧力での等温体積弾性率と体積である。CVは、低温CPの実測値を再現するような振動の状態密度モデルを用いた格子振動モデル計算により求めた。
MgOとSiO2石英の標準生成エンタルピー(ΔfH°298)を基準とし、再測定したΔHd-s(Wd)とΔHd-s(St)を用いることにより、WdとStの標準生成エンタルピーは、ΔfH°298 (Wd) = −2147.2 ± 1.8, ΔfH°298 (St) = −874.9 ± 0.5 kJ/molと決定された。実験誤差から生じるそれらのΔfH°298値の不確実性は従来の半分程度となり、熱力学計算で求められる相境界線の誤差の低減に大きく貢献している。Wdの熱力学パラメータについては、V0(298 K) = 40.52 cm3/mol、 KT0(298 K) = 169 GPa、γth = 1.23を固定することにより、Katsura et al. (2009) のP−V−Tデータへの最小二乗フィットを行った。KT’ = 4.61(5)および(∂KT0/∂T)P = −0.0289(4) GPa/Kが求められ、同時にグリューナイゼン関係式よりαが、CP(T) = CV(T) +α(T)2KT0(T)V0(T)T式よりCPが得られた。同様にして、Stの熱力学パラメータの最適化は、V0(298 K) = 14.02 cm3/molのみを固定し、様々なγthにおいてNishihara et al. (2005)とWang et al. (2012)のP−V−Tデータへの最小二乗フィットにより行われた。最小二乗フィットの残差二乗和は、γth = 1.35のとき最小となった。そこで、γth = 1.35として得られたKT0 = 305(1) GPa、KT’ = 4.25(7)、(∂KT0/∂T)P = −0.0274(5) GPa/Kおよびそれらから計算されるαとCPを最適化された値として採用した。得られたWdとStの熱力学パラメータおよびKojitani et al. (2022)によるAkの熱力学パラメータを用いることにより、Mg2SiO4 Wd + SiO2 St = 2MgSiO3 Ak相転移反応の相平衡境界線の熱力学計算が行われた。ΔfH°298 (Wd)およびΔfH°298 (St)を誤差範囲内で変化させることにより検討した相平衡境界線は、約20GPa付近とされていた従来の相境界線よりも、2~3 GPaだけ低圧側に位置することが判明した。本研究の熱力学的手法により新たに決定されたMgSiO3系におけるAkの安定領域は、Kojitani et al. (2022)のAkの合成圧力温度条件と調和的である。
引用文献
Kojitani et al. (2022) Phys. Earth Planet. Inter., 333, 106937.
Katsura et al. (2009) Geophys. Res. Lett., 36, L11307.
Nishihara et al. (2005) Phys. Chem. Miner., 361, 660−670.
Wang et al. (2012) J. Geophys. Res., 117, B06209.