Presentation Information
[R3-P-01]Examination of measurement atmosphere in drop solution calorimetry using lead borate solvent for iron bearing samples
*Tsubasa Otao1, Itaru Ohira2, Hiroshi koujitani2 (1. Gakushuin Univ. Sci., 2. Gakushuin Univ.)
Keywords:
drop solution calorimetry,oxygen fugacity,Oxidation-reduction of iron,lead borate solvent
大気中でFe2+を含む化合物の溶解熱量測定を行うと、一部のFe2+がFe3+になってしまうため正確な熱量値を得ることが難しい。この問題を解決する手段として、不活性ガスであるArを流すことにより、Fe2+含有試料の鉄の価数を変化させない測定雰囲気にする方法がある( 例えばAkaogi et al. , 1989 )。しかし、この方法では溶媒(2PbO・B2O3) 中の酸素が鉄の価数を変化させる可能性がある。そこで、O2ガスを流すことにより、溶解後の鉄の状態を完全にFe3+にする方法がLilova et al.(2012)により試みられた。ところが、高温かつ高い酸素分圧下では、Pt容器と溶媒中のPbが反応して副反応物が生成するという別の問題が生じたため、正確な熱量値を決定することがかなり難しいと指摘されていた。そこで本研究では、Lilova et al.(2012)と同じホウ酸鉛溶媒とPt容器。そしてO2とArの混合ガスを用いた鉄化合物の熱量測定の最終溶解状態として、全ての鉄がFe3+の状態かつ副反応物を生成しない酸素分圧を探索することを目的とした。α-Fe2O3を実験試料とし、Calvet型高温熱量計を用いて落下溶解熱測定を行った。エンタルピーの校正は、標準物質にα-Al2O3を用いて行った。O2とArの混合気体を溶媒内に通して泡を発生させるバブリング法により、溶媒を攪拌させると同時に測定雰囲気を調製した。O2とArの流量比を変えることで、測定雰囲気の酸素分圧を調整した。落下溶解熱測定の酸素分圧( O2/(O2+Ar) )は0, 0.2, 0.6, 1の4種類とした。O2/(O2+Ar) が0, 0.2, 0.6の場合はバブリングのためのガス流量を5ml/minのみ、O2/(O2+Ar) が1の場合は2, 5, 6 ml/minの3種類とした。約3 mg の粉末試料をφ1.3 mmのペレットに成形後、705℃に保たれた熱量計内に落下させて、室温から705℃までの熱含量と溶媒(2PbO・B2O3)中の溶解熱の和である落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)を測定した。落下溶解熱測定とは別に、6,7時間熱量計内でバブリングさせた後に回収してガラス状となった溶媒を顕微鏡で観察することにより、副反応物の生成の有無を確認した。副反応の確認のための混合ガス流量はそれぞれ5 ml/min( O2/(Ar+O2) =0.3, 0.7, 0.85, 1.0 )、7 ml( O2/(Ar+O2) = 0.85 )、8 ml( O2/(Ar+O2) = 0.94 )であった。酸素分圧および流量のいずれの条件でも、副生成物である黒色のPb2PtO4は確認されなかった。α-Fe2O3の酸素分圧を変化させて行った落下溶解エンタルピーΔHd-sを図1に示した。全ての落下溶解エンタルピーがおおむね誤差範囲内で一致した。これらの結果は、α-Fe2O3の落下溶解熱量測定を高い酸素分圧で行ったとしても、副反応は生じなかったことを示している。Lilova et al.(2012)は、O2/(Ar+O2) = 1で5 ml/minでバブリングを行い、90 ml/minという大量の酸素を溶媒上に流していた。測定雰囲気を調整する酸素が過剰なため副反応が進行したと考えられる。一方、本研究による酸素流量の少ない場合では副反応が進行しないことが分かった。そのため、高い酸素分圧かつ副反応が生じなかった流量でFe2+含有試料の落下溶解熱測定を行い、溶解状態のFe2+が完全にFe3+になるか探索する必要がある。