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[R4-01]Low-dose atomic-resolution imaging of vaterite using OBF-STEM

*Taiga Okumura1, Hayato Miura2, Kogure Toshihiro1, Takahashi Gen3 (1. Waseda Univ., 2. JEOL, 3. Tohoku Univ.)
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Keywords:

vaterite,OBF-STEM,crystal structure,calcium carbonate,stacking fault

無水の炭酸カルシウム(CaCO3)結晶には、calcite,aragonite,vateriteの3つの多形が存在する。このうち準安定相であるvateriteは、地球表層環境ではほとんど産出しないが、魚類の耳石など一部のバイオミネラルにおいて選択的に形成されることが知られている。vateriteの結晶構造は1世紀にわたって議論されてきたが、積層欠陥が高密度で存在するため、単結晶X線構造解析による構造決定が困難であった。
我々は先行研究において、環状明視野(annular bright-field, ABF)走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscope, STEM)法を用い、金魚(Carassius auratus)の耳石の一つである星状石を構成するvaterite中のCa原子および炭酸基(CO32)を直接観察した(Okumura et al., 2024)。その結果、vateriteは六方副格子をなすCa面と、その間に挟まる炭酸シートの互層となっており、隣接する炭酸シートが+60°,−60°,180°のいずれかの角度で回転していることがわかった(図a)。また、この3つの回転には一定の制約があることも確認された。この構造モデルに基づくX線回折パターンのシミュレーションは、概ね実測を再現したが、一部のピーク強度に再現性の低い部分が存在した。この原因は、実際の原子位置がモデルからわずかに変位しているためと考えられ、全原子位置の精密な決定が求められる。しかし、図aのABF像では炭酸基中のC(炭素)は明瞭に観察できる一方、O(酸素)の一部は可視化が困難であり、炭酸基の詳細な位置の把握には限界があった。さらに、電子線損傷の影響により、通常のSTEM観察では多数の高分解能像を取得して統計的に解析することが困難であった。
そこで本研究では、分割型検出器を用いることで極めて低い電子線量下でも高S/N比の観察を可能とする最適明視野(optimum bright-field, OBF)STEM法を適用した。試料には先行研究と同様に金魚の星状石を用い、集束イオンビームで薄膜試料を作製し、精密イオン研磨装置で仕上げ研磨を行った。得られた像に対して非剛体位置合わせを行うことで、さらなるS/N比の向上を図った。こうして得られたOBF像(図b)では、従来のABF像では確認できなかったOの位置まで明瞭に観察することに成功した。その結果、炭酸基の三角形平面は積層方向に対してわずかに傾斜していた。また、Ca面内でCaが等間隔で並んでいないため、理想的な六方格子の頂点からはずれた位置にCaが存在していることがわかった。こうした微小な原子位置の変位は、先行研究(Mugnaioli et al., 2012)においてプリセッション電子回折で推定された構造を直接観察できた可能性が考えられる。今後は、これらの情報を基に原子位置をさらに精密化し、vateriteの結晶構造を完全に解明することを目指す。

Okumura et al. (2024) Chem. Eur. J. 30, e202401557.
Mugnaioli et al. (2012) Angew. Chem. Int. Ed. 51, 7041–7045.