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[R5-05]Relationship between chemical compositions and high pressure phase transition on ulvöspinel in Martian meteorites
*Atsushi TAKENOUCHI1, Youhei Igami2, Akira Miyake2, Takashi Mikouchi3, Akira Yamaguchi4 (1. The Kyoto Univ. Museum, 2. Kyoto Univ. Sci., 3. The Tokyo Univ. Museum, 4. NIPR)
Keywords:
Ulvöspinel,High pressure phase transition,Martian meteorites
高圧鉱物の研究は衝撃変成の理解や地球深部の状態を探る研究において重要である。隕石ではこれまで様々な鉱物の高圧相が発見されてきたが、本研究では隕石中に広く含まれるクロマイト-ウルボスピネル固溶体の相転移に着目する。クロマイトには約16~18 GPa以上の高圧条件下で2種類の高圧相を持ち、約1300度以上の高温側ではxieite (空間群Cmcm)、それ以下ではchenmingite(空間群Pnma)が安定である(Ma et al. 2019)。いずれも火星隕石中の衝撃溶融領域の近くで発見・記載された典型的な高温高圧鉱物である。我々はこれまで、火星隕石中の溶融脈から離れた低温条件下でも、クロマイト中にchenmingiteのラメラが無数に形成されることを発見し、Tiに富むほど相転移が引き起こされやすい傾向を報告した。一方、ウルボスピネル端成分の相図においては、16 GPa以上の高圧ではtschaunerite(空間群Cmcm)が安定(Ma et al. 2024)だが、chenmingiteに対応するPnma型の高圧相は安定に存在しないことが示唆されている。クロマイト-ウルボスピネル固溶体の高圧相転移は組成と衝撃変成条件に敏感な可能性が高く、高圧相の種類とその形成条件を調べることで有用な衝撃変成条件推定の指標となることが期待される。そのため本研究では火星隕石中の様々な組成のCr-Tiスピネルについて、組成と高圧相の関係を調査している。 本研究では2つの火星隕石(Amgala 001, Swayyah 002)と、国立極地研究所より貸与された火星隕石A 12325を用いた。走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)による観察と組成分析、集束イオンビーム(FIB)による切り出しと透過型電子顕微鏡(TEM)による観察には、それぞれ京都大学大院理学研究科のSEM-EDS(JEOL JSM-7001F)、FIB-SEM(Helios NanoLab G3 CX)及びTEM(JEM-2100F)を用いた。また、元素組成定量分析では国立極地研究所の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、JXA-8200)を用いた。 Amgala 001とSwayyah 002は共に斜長石が完全にガラス化しており、衝撃溶融脈が観察されるなど、同程度の衝撃変成を経験していた。A12325の斜長石は部分的なガラス化にとどまり、2つの隕石に比べて衝撃変成の度合いは低かった。Amgala 001のCr-TiスピネルはTiに乏しいコアと、Ti及びFe3+に富むリムという強い化学ゾーニングを示し、リム部では細かいイルメナイトの離溶ラメラが広く観察された。Swayyah 002のCr-TiスピネルはすべてCrに乏しいウルボスピネルであり、イルメナイトと共存していた。A 12325のクロマイトは粒子毎に異なるTi含有量を示した。最もTiに富むものではChr21.9Ulv55.2Sp7.3Mag14.5の組成比を示し、Crに富むウルボスピネルに分類された。Cr-Tiスピネルの衝撃変成組織について、Amgala 001のTiに乏しいクロマイトのコア部では、衝撃溶融脈との距離にかかわらずラメラ組織が確認され、FIB-TEMによる回折図形はchenmingiteで指数付けされた。Swayyah 002のウルボスピネルはSEM観察でラメラ状の組織が観察されず、高圧相転移の証拠は見つからなかった。A 12325はこれまでの報告通り、Tiに富むクロマイトで広くchenmingiteのラメラが確認され、最もTiに富む領域(Crに富むウルボスピネル)においてもラメラ状の組織が観察された。FIB-TEMによる観察では、ラメラ部はやはりchenmingiteで指数付けできる回折図形が得られ、一部の領域では一部の回折点が消滅則により失われtschaunerite (Cmcm)で指数付される回折図形も得られた。今回の観察では、Tiに乏しいクロマイトにおいても低温条件下でのchenmingiteへの相転移が確認され、幅広い組成範囲でchenmingiteラメラが形成されることが明らかとなった。ウルボスピネル側ではCrに富む領域ではPnmaの高圧相が現れるが、Crに乏しくなると今回の衝撃変成条件下では高圧相転移しないことが明らかになった。Crに富むウルボスピネルで見られたtschauneriteは、従来想定されているよりも低温で形成できる可能性と、FIB-TEM操作中にPnma相から相転移してしまった可能性が考えられる。いずれにせよ、ウルボスピネルの高圧相転移にはクロマイト同様に組成依存性が存在し、端成分に近い組成では低温での相転移が引き起こされない可能性が明らかとなった。