Presentation Information
[R5-06]Martian Mantle Structure Constraints Derived from the Redox States and Geochemical Characteristics of Poikilitic Shergottites
*Sojiro YAMAZAKI1, Takashi MIKOUCHI1,2, Akira YAMAGUCHI3, Atsushi TAKENOUCHI4 (1. Univ. of Tokyo, 2. Univ. Museum, Univ. of Tokyo, 3. Natl. Polar Res. Inst., 4. Univ. Museum, Kyoto Univ.)
Keywords:
Martian meteorite,XANES analysis,Redox state
はじめに:シャーゴッタイトは軽希土類元素の含有量やSr-Nd同位体比に基づき、Enriched型、Depleted型、Intermediate型の3つのタイプに分類される。これらの地球化学的分類は、マグマの酸化還元状態とも関係していると考えられており、これらの起源については現在も議論が続いている。主な説として、①不均質なマントル(e.g., Symes+ 2008)、②地殻同化(e.g., Herd+ 2002)、③マグマ混合説(e.g., Borg+ 2025)が挙げられる。ポイキリティック・シャーゴッタイト(以下:P-She)に含まれる輝石のオイコクリストは深部マグマ溜まりで早期に結晶化したと考えられており、カンラン石やクロム鉄鉱のチャダクリストを包有している。したがって、このポイキリティック組織(P-組織)内の鉱物は親マグマの情報を保存していると考えられる。また、P-組織の外側に存在する斜長石は、斜長石が結晶化後期に晶出するためマグマ結晶化時の情報を保持している。そこで、本研究ではP-sheにおける初期および後期の鉱物結晶化段階において、酸化還元状態と地球化学的特徴の関係を分析・比較することで、火星マントルの構造やその不均質性に対する制約を与えることを目的とした。
試料及び分析手法:本研究では、5個のEnriched P-She (RBT 04261, NWA 4468, NWA 7755, NWA 13227, NWA 14127)と6個のIntermediate P-She (NWA 10961, NWA 12241, NWA 13250, NWA 13366, NWA 13369, ALH 77005)、さらに現在見つかっている唯一のDepleted-like P-SheであるAsuka 12325の薄片試料について、EPMA (JEOL JXA-8900L, JXA-8200)を用いて元素マップの取得及び鉱物組成の分析を行なった。P-she親マグマの初期の酸化還元状態については、P-組織内のCrに最も富むクロム鉄鉱と、Mgに最も富むカンラン石の組成を用いて酸素分圧を推定した(Ballhaus+1991)。温度及び圧力条件については、輝石温度計から1200 ℃、輝石のAl/Ti比(Nekvasil+2004)から1 GPaとした。斜長石はP-sheのマグマ結晶化過程の後期に晶出するため、マスケリナイト中のFe3+/ΣFe比は結晶化後期の酸化還元状態を記録している。そこで、マスケリナイト中のFe3+/ΣFe比を、放射光Fe-μXANES分析(KEK PF BL-4A)によって見積もった。
結果と考察:P-She試料の分析の結果、輝石オイコクリストの主要元素組成については試料間に大きな差は見られず、Caに乏しいコアの部分がEn69±8Wo12±7、Caに富むリムの部分はEn51±5Wo35±5程度であった。最もMgに富むカンラン石については、Enriched P-sheがFo70、Intermediate P-sheがFo70-80、Depleted P-sheがFo73程度であった。推定された初期および後期の酸化還元状態の間には正の相関が見られた(図1)。もともと還元的でDepletedな親マグマが、酸化的でEnrichedな地殻の同化作用によってEnriched P-sheが形成されたとすると、Enriched P-sheの初期親マグマはDepleted P-sheの初期親マグマと同程度の酸化還元状態のはずである。しかし、実際にはEnriched P-sheの親マグマは初期から酸化的であることが明らかとなった(図1)。このことはP-sheの酸化還元状態は主にマントルソースに由来し、マグマ結晶化の後期に起こったとされる地殻同化によるものではないことを意味する。また、もしP-she親マグマの酸化還元状態が、酸化的なEnrichedソースマグマと還元的なDepletedソースマグマの単純な混合で決まるとすれば、Intermediate P-sheは両者の中間的な酸化還元状態を持つはずである。しかし、図1に示すように、NWA 12241はDepleted型よりもさらに還元的である。この結果は、酸化還元状態や地球化学的な違いが、ソースマグマの単純な混合ではなく、火星マントルの不均質性によることを示唆する。
結論:本研究は、P-sheに記録された酸化還元状態が、結晶化初期から後期にかけて相対的に大きく変化しないこと、そして地球化学的分類と酸化還元状態の関係が単純な混合モデルでは説明できないことを示した。これらの結果は、親マグマの酸化還元状態が火星マントルの鉱物学的・地球化学的不均質性によることを示唆している。
試料及び分析手法:本研究では、5個のEnriched P-She (RBT 04261, NWA 4468, NWA 7755, NWA 13227, NWA 14127)と6個のIntermediate P-She (NWA 10961, NWA 12241, NWA 13250, NWA 13366, NWA 13369, ALH 77005)、さらに現在見つかっている唯一のDepleted-like P-SheであるAsuka 12325の薄片試料について、EPMA (JEOL JXA-8900L, JXA-8200)を用いて元素マップの取得及び鉱物組成の分析を行なった。P-she親マグマの初期の酸化還元状態については、P-組織内のCrに最も富むクロム鉄鉱と、Mgに最も富むカンラン石の組成を用いて酸素分圧を推定した(Ballhaus+1991)。温度及び圧力条件については、輝石温度計から1200 ℃、輝石のAl/Ti比(Nekvasil+2004)から1 GPaとした。斜長石はP-sheのマグマ結晶化過程の後期に晶出するため、マスケリナイト中のFe3+/ΣFe比は結晶化後期の酸化還元状態を記録している。そこで、マスケリナイト中のFe3+/ΣFe比を、放射光Fe-μXANES分析(KEK PF BL-4A)によって見積もった。
結果と考察:P-She試料の分析の結果、輝石オイコクリストの主要元素組成については試料間に大きな差は見られず、Caに乏しいコアの部分がEn69±8Wo12±7、Caに富むリムの部分はEn51±5Wo35±5程度であった。最もMgに富むカンラン石については、Enriched P-sheがFo70、Intermediate P-sheがFo70-80、Depleted P-sheがFo73程度であった。推定された初期および後期の酸化還元状態の間には正の相関が見られた(図1)。もともと還元的でDepletedな親マグマが、酸化的でEnrichedな地殻の同化作用によってEnriched P-sheが形成されたとすると、Enriched P-sheの初期親マグマはDepleted P-sheの初期親マグマと同程度の酸化還元状態のはずである。しかし、実際にはEnriched P-sheの親マグマは初期から酸化的であることが明らかとなった(図1)。このことはP-sheの酸化還元状態は主にマントルソースに由来し、マグマ結晶化の後期に起こったとされる地殻同化によるものではないことを意味する。また、もしP-she親マグマの酸化還元状態が、酸化的なEnrichedソースマグマと還元的なDepletedソースマグマの単純な混合で決まるとすれば、Intermediate P-sheは両者の中間的な酸化還元状態を持つはずである。しかし、図1に示すように、NWA 12241はDepleted型よりもさらに還元的である。この結果は、酸化還元状態や地球化学的な違いが、ソースマグマの単純な混合ではなく、火星マントルの不均質性によることを示唆する。
結論:本研究は、P-sheに記録された酸化還元状態が、結晶化初期から後期にかけて相対的に大きく変化しないこと、そして地球化学的分類と酸化還元状態の関係が単純な混合モデルでは説明できないことを示した。これらの結果は、親マグマの酸化還元状態が火星マントルの鉱物学的・地球化学的不均質性によることを示唆している。