Presentation Information
[R5-16]Search for the signatures of water from oxygen isotopic systematics of nominally anhydrous minerals
*Takayuki Ushikubo1 (1. JAMSTEC)
Keywords:
SIMS,Oxygen isotope ratio,Zircon,Chondrule
二次イオン質量分析計(SIMS)は、数umから数十umの領域の軽元素同位体比分析をSub-‰の高精度で行う性能を有する[1,2]。この性能を上手に使うと、地質試料や地球外物質試料の小さな領域や特定の鉱物にだけ保存された情報を引き出すことが出来る。本発表では、SIMSの分析で得られた無水鉱物(Nominally Anhydrous Minerals)の酸素同位体比情報から、水の存在やそれら鉱物と反応した水の同位体比を議論した例を紹介したい。
Jack Hillsジルコン:岩石として残る最も古い地球試料は約40億年前の片麻岩[3]だが、オーストラリア西部のJack Hillsの珪岩からは約33~44億年前に形成した砕屑性のジルコン結晶が見つかる[4,5]。ジルコンの酸素同位体比は全岩の酸素同位体比に比べて0.2~1.0‰程度低い値を持ち、マントル起源の始原的マグマから晶出したジルコンの酸素同位体比はマントル物質の酸素同位体比を反映してd18OVSMOW=5.3±0.6‰ (2s)の範囲に分布する[6]。一方で低温での水質変成を受けた物質(堆積物など)を取り込んだ花崗岩などは高い全岩の酸素同位体比を持ち、そこから晶出するジルコンも高い酸素同位体比(d18OVSMOW>5.9‰)を持つ[7]。Jack Hillsの砕屑性ジルコンでは、約43億年前の年代を示すジルコンからd18OVSMOW=6~7‰という高い酸素同位体比を持つものが見つかる[5]。これは、ジルコンの母岩が低温での水質変成生成物を取り込んで形成した証拠であり、少なくとも約43億年前にはすでに海洋が存在し、低温での水質変成生成物が地球表層で大量に生産されていたことを示唆している。
コンドルール:コンドルールはSub-mmサイズの球状の珪酸塩粒子で、原始惑星系円盤で珪酸塩ダストが短時間に高温に加熱されて熔融して出来たと考えられている。遍く始原的隕石(コンドライト)に見られるだけでなく、彗星試料からも見つかっている[8,9]。コンドルールは形成時に周囲のガスと効率的に反応して、形成環境の酸化還元状態や酸素同位体比情報を獲得していると考えられる[10]。コンドルールには還元的な環境で出来たタイプI(MgOに富む珪酸塩鉱物+金属鉄)と、割合は少ないが酸化的な環境で出来たタイプII(鉄がFeOとして珪酸塩鉱物に存在)がある。水素ガス主体の原始惑星系円盤環境ではタイプIIを形成する酸化的な環境は容易には作れず、H2O氷を主体とする酸化剤成分の濃集が起きたと考えられる。炭素質コンドライトでは、タイプIとタイプIIのコンドルールで酸素同位体比が異なり、D17O値(≡d17OVSMOW−0.52×d18OVSMOW)はタイプIで約−5‰、タイプIIでは約−2‰という特徴的な値を示す。さらに、CRコンドライトや彗星試料のタイプIIコンドルールではD17O≥+1‰を持つものも見つかっている[9,11]。タイプIIコンドルールの酸素同位体比はH2Oを主体とする酸化剤成分の値を反映していると考えられ[11]、彗星試料等で見つかったタイプIIコンドルールのD17O値の変化は、原始惑星系円盤の領域毎のH2O氷の酸素同位体比の違いを反映している可能性がある。
[1] Kita, N. T. et al. (2009) Chem. Geol., 264, 43. [2] 牛久保 (2016) ぶんせき, 2016(10), 390. [3] Reimink, J. R. (2016) Nat. Geosci., 7, 529. [4] Wilde, S. A. et al. (2001) Nature, 409, 175. [5] Valley, J. W. et al. (2014) Nat. Geosci., 7, 219. [6] Grimes, C. B. (2011) Contrib. Mineral. Petr., 161, 13. [7] Lackey, J. S. et al. (2005) Earth Planet. Sc. Lett., 235, 315. [8] Nakamura, T. et al. (2008) Science, 321, 1664. [9] Nakashima, D. et al. (2012) Earth Planet. Sc. Lett., 357-358, 355. [10] Ushikubo, T. et al. (2012) Geochim. Cosmochim. Ac., 90, 242. [11] Tenner, T. J. et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Ac., 148, 228.
Jack Hillsジルコン:岩石として残る最も古い地球試料は約40億年前の片麻岩[3]だが、オーストラリア西部のJack Hillsの珪岩からは約33~44億年前に形成した砕屑性のジルコン結晶が見つかる[4,5]。ジルコンの酸素同位体比は全岩の酸素同位体比に比べて0.2~1.0‰程度低い値を持ち、マントル起源の始原的マグマから晶出したジルコンの酸素同位体比はマントル物質の酸素同位体比を反映してd18OVSMOW=5.3±0.6‰ (2s)の範囲に分布する[6]。一方で低温での水質変成を受けた物質(堆積物など)を取り込んだ花崗岩などは高い全岩の酸素同位体比を持ち、そこから晶出するジルコンも高い酸素同位体比(d18OVSMOW>5.9‰)を持つ[7]。Jack Hillsの砕屑性ジルコンでは、約43億年前の年代を示すジルコンからd18OVSMOW=6~7‰という高い酸素同位体比を持つものが見つかる[5]。これは、ジルコンの母岩が低温での水質変成生成物を取り込んで形成した証拠であり、少なくとも約43億年前にはすでに海洋が存在し、低温での水質変成生成物が地球表層で大量に生産されていたことを示唆している。
コンドルール:コンドルールはSub-mmサイズの球状の珪酸塩粒子で、原始惑星系円盤で珪酸塩ダストが短時間に高温に加熱されて熔融して出来たと考えられている。遍く始原的隕石(コンドライト)に見られるだけでなく、彗星試料からも見つかっている[8,9]。コンドルールは形成時に周囲のガスと効率的に反応して、形成環境の酸化還元状態や酸素同位体比情報を獲得していると考えられる[10]。コンドルールには還元的な環境で出来たタイプI(MgOに富む珪酸塩鉱物+金属鉄)と、割合は少ないが酸化的な環境で出来たタイプII(鉄がFeOとして珪酸塩鉱物に存在)がある。水素ガス主体の原始惑星系円盤環境ではタイプIIを形成する酸化的な環境は容易には作れず、H2O氷を主体とする酸化剤成分の濃集が起きたと考えられる。炭素質コンドライトでは、タイプIとタイプIIのコンドルールで酸素同位体比が異なり、D17O値(≡d17OVSMOW−0.52×d18OVSMOW)はタイプIで約−5‰、タイプIIでは約−2‰という特徴的な値を示す。さらに、CRコンドライトや彗星試料のタイプIIコンドルールではD17O≥+1‰を持つものも見つかっている[9,11]。タイプIIコンドルールの酸素同位体比はH2Oを主体とする酸化剤成分の値を反映していると考えられ[11]、彗星試料等で見つかったタイプIIコンドルールのD17O値の変化は、原始惑星系円盤の領域毎のH2O氷の酸素同位体比の違いを反映している可能性がある。
[1] Kita, N. T. et al. (2009) Chem. Geol., 264, 43. [2] 牛久保 (2016) ぶんせき, 2016(10), 390. [3] Reimink, J. R. (2016) Nat. Geosci., 7, 529. [4] Wilde, S. A. et al. (2001) Nature, 409, 175. [5] Valley, J. W. et al. (2014) Nat. Geosci., 7, 219. [6] Grimes, C. B. (2011) Contrib. Mineral. Petr., 161, 13. [7] Lackey, J. S. et al. (2005) Earth Planet. Sc. Lett., 235, 315. [8] Nakamura, T. et al. (2008) Science, 321, 1664. [9] Nakashima, D. et al. (2012) Earth Planet. Sc. Lett., 357-358, 355. [10] Ushikubo, T. et al. (2012) Geochim. Cosmochim. Ac., 90, 242. [11] Tenner, T. J. et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Ac., 148, 228.