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[R5-P-09]The effect of the crystal faces of calcite on the chirality of amino acids

*Satoki Awano1, Atsushi Kyono2, Ibuki Ikeda3, Yoko Kebukawa3 (1. University of Tsukuba, Degree Programs in Life and Earth Sciences, 2. University of Tsukuba, Faculty of Life and Environmental Sciences, 3. Science of Tokyo.)
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Keywords:

Origin of Life,Astrobiology,Carbonate condolite,Enantiomer,Hydrothermal alteration

小天体や惑星,星間空間といった宇宙環境での有機物の⽣成と進化のメカニズムは,アストロバイオロジーの重要な研究課題である.特に,炭素質コンドライトは,ホルムアルデヒドやアミノ酸,糖類など多様な有機化合物を含み,地球外から供給された⽣命の起源物質として注目されている.太陽系形成初期において,炭素質コンドライトの⺟天体では,氷が26Alなどの短寿命放射性核種の崩壊熱によって融解し,⽔熱変成が⽣じていたと考えられている(Brearley,2006; Fujiya et al.,2013; Zolensky et al.,1989).このような⽔熱環境を模擬する実験では,ホルムアルデヒド(F)とアンモニア(A),⽔(W)を異なる⽐率で混合した溶液(FAW)に,カンラン⽯,蛇紋⽯,モンモリロナイトなどの鉱物を加え,150 ℃で⼀定時間加熱することで,アミノ酸の⽣成が促進され,鉱物が化学反応の触媒として重要な役割を果たしていることが示されている(Elmasry et al.,2021) .さらに,方解石の結晶面がアスパラギン酸などの特定のアミノ酸のキラリティーに選択性を示すことも報告されている(Hazen et al.,2001).このように,FAW および鉱物がアミノ酸の⽣成に重要な役割を果たすことが報告されている一方で,いくつかの重要な問題が未解明のままとなっている.1つ⽬は,FAW のホルムアルデヒドとアンモニア⽐がアミノ酸の多様性や生成量に与える影響,2 つ⽬は,鉱物の鏡像異性体関係にある結晶面が⽣成するアミノ酸のキラリティーに与える影響である.そこで本研究では,炭素質コンドライトでの⽔熱変成環境を模擬するために,ホルムアルデヒドとアンモニア⽐を変えたFAWを150 ℃で72 時間加熱し,⽣成するアミノ酸の種類および生成量への変化を調べた.さらに,実験系に⽅解⽯を添加し,⽣成するアミノ酸の種類や生成量がどのように変化するかについても検討した.また,添加した⽅解⽯の鏡像異性体(L ⾯/R ⾯)がアミノ酸のホモキラリティーに及ぼす影響についても調査した.⽣成物の分析には,⾼速液体クロマトグラフ(HPLC)とガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を⽤いた.
 HPLC分析の結果,FAWの⽐率を変えた場合には,ホルムアルデヒドの割合が⾼いほど,⽣成されるアミノ酸の多様性が増加し,特に,グリシン,γ-アミノ酪酸が多く⽣成された.一方,アンモニアの比率が高い場合は,生成するアミノ酸の多様性は減少する傾向が見られた.また,⽅解⽯を加えた場合は,全体のアミノ酸の生成量が増加し,特に,γ-アミノ酪酸の生成量が著しく増加したことから,鉱物が反応場として作用する可能性が示唆された.さらに,GC-MS分析の結果から,⽅解⽯のL⾯ではL-アラニンが,R ⾯ではD-アラニンが選択的に⽣成・吸着する傾向が確認され,方解石の結晶面の原子配列がアミノ酸のキラリティーに影響を与えることが明らかとなった.本研究では,先行研究よりも広範なD/L比の変動が観測され,鉱物が単なる吸着場にとどまらず,アミノ酸生成過程そのものに影響する可能性を示唆した.これらの知見は,生命の起源の解明に新たな知見を提供するとともに,アストロバイオロジーや地球外生命探査に重要な示唆を与える.