Presentation Information
[R6-07]Petrological characteristics of a gabbro dyke, discovered from Yuya area, Nagato City, Yamaguchi Prefecture
*Toshiaki SHIMURA1, Chihiro AMAKI1, Reina KAIHARA1, Natsumi SADAMATSU1, Mari TAKIMOTO1, Aoi YOSHIOKA1, Ryosuke SAITO1 (1. Yamaguchi University)
Keywords:
Gabbro,Koyama gabbro complex,Yuya-wan Group,Miocene
はじめに 山口県の日本海側,萩市須佐の高山周辺地域には,高山斑れい岩や,山島火山岩などの15 Ma頃に活動した苦鉄質火成岩が分布している(今岡ほか, 1997; Imaoka & Itaya, 2004など).この高山地域から南西に約65 km離れた山口県長門市油谷地域の海岸において,今まで報告の無かった新たな斑れい岩脈を発見した.この岩体は山口大学理学部地球圏システム科学科の,2016年度と2022年度の進級論文の野外調査において初めて発見され,記載された.対外的な第一報は志村ほか(2024)で報告したが,今回,この岩脈の産状と岩石学的特徴について詳しく報告する.
地質概説 長門市油谷地域には,中新統油谷湾層群の堆積層が広く分布している(葦津・岡田,1989).本報告地域に分布する油谷湾層群は伊上層とよばれ,中新統アキタニアン階(23.04~20.45 Ma)とされている(尾崎ほか, 2006).また,油谷湾層群には,約10~8 Ma頃の大津玄武岩が貫入あるいは上位を覆っている(尾崎, 1999; 西村ほか, 2012).
本報告の斑れい岩露頭は通常は海面下にあり,大潮の干潮時にしか観察できないほか,海浜堆積物で完全に埋まっていることもある.斑れい岩脈の貫入境界は走向N14°Wで傾斜はほぼ垂直,幅約12 mの板状をなし,伊上層の砂岩に貫入している.斑れい岩の露頭規模は東西約12 m×南北約6 mである.近傍に他の火成岩体は無い.斑れい岩脈両側の砂岩は接触変成作用を受け,特に西側の砂岩は幅約1.5 mが硬質化し,差別浸食により北へ約50 m程まで狭長な岬地形を形成している.国土地理院(1976)の空中写真には,この方向のリニアメントが露頭以北の海底にも150 m程度まで連続して写っている.したがってこの岩脈の総延長は150 m以上あると思われる.なお,接触変成作用を受けた砂岩中の炭質物のビトリナイト反射率は坂口ほか(2024)により報告され,被熱プロセスが検討されている.
岩石記載 斑れい岩の岩相は細粒~中粒塊状で貫入境界に平行な弱い流理をもつ.貫入境界に平行および直交する2方向の節理が発達している.主成分鉱物はカンラン石(変質しイディングス石化)・普通輝石(XMg = 0.63–0.72)・直方輝石(XMg = 0.66–0.69)・斜長石(An = 57–67%)で,モード組成の分類ではガブロノーライトである.副成分鉱物として磁鉄鉱・イルメナイトを含む.
全岩化学組成 この斑れい岩の全岩化学組成を,山口大学においてXRF・強熱減量法・過マンガン酸カリウム滴定法により測定した.その組成はSiO2 = 51~53%でソレアイト系列に属し,TAS図ではGabbroの領域に,SiO2–K2O図ではlow-Kとmedium-Kの境界付近にプロットされる.ノルム組成の分類では石英ソレアイトに分類される.苦鉄質岩の各種判別図では,N-MORB+VABの領域やIATの領域にプロットされる.
帰属に関する考察 この斑れい岩の全岩化学組成を,高山斑れい岩・山島火山岩(Oji & Oji, 1965; Yamazaki, 1967),および大津玄武岩(尾崎ほか, 2006)の組成と比較した.大津玄武岩はhigh-Kに分類されるなど,本報告の斑れい岩の組成とは全く異なっている.一方,高山斑れい岩・山島火山岩の組成とはほぼ一致している.斑れい岩露頭すぐ近くの,伊上層中のデイサイト質凝灰岩から,22.8 ± 1.4 MaのFT年代が得られている(尾崎, 1999).この地域の伊上層は緩傾斜なので,斑れい岩の貫入年代は22.8 Maよりも有意に新しいはずである.この斑れい岩の絶対年代は未知であるが,地質学的層序と化学組成からみて,15 Ma頃の高山周辺地域の火成活動に対比されると考えられる.
引用文献 今岡ほか (1997) 岩鉱, 92, 302–315; Imaoka & Itaya (2004) Geol. Mag. 141, 1–13; 国土地理院(1976)空中写真CCG7612; 西村ほか (2012) 山口県地質図第3版説明書; Oji & Oji (1965) Bull. Fukuoka Gakugei Univ., 15, 71–79; 尾崎 (1999) 地球科学, 53, 391–396; 尾崎ほか (2006) 仙崎地域の地質, 産総研; 坂口ほか(2024)地質学会演旨, T6-P-11; 志村ほか (2024) 第101回西日本東南極研究セミナー, 2024/7/27; Yamazaki (1967) Sci. Rep. Tohoku Univ. Ser. 3, 10, 99–150; 葦津・岡田 (1989) 九大理研報, 16, 1–17.
地質概説 長門市油谷地域には,中新統油谷湾層群の堆積層が広く分布している(葦津・岡田,1989).本報告地域に分布する油谷湾層群は伊上層とよばれ,中新統アキタニアン階(23.04~20.45 Ma)とされている(尾崎ほか, 2006).また,油谷湾層群には,約10~8 Ma頃の大津玄武岩が貫入あるいは上位を覆っている(尾崎, 1999; 西村ほか, 2012).
本報告の斑れい岩露頭は通常は海面下にあり,大潮の干潮時にしか観察できないほか,海浜堆積物で完全に埋まっていることもある.斑れい岩脈の貫入境界は走向N14°Wで傾斜はほぼ垂直,幅約12 mの板状をなし,伊上層の砂岩に貫入している.斑れい岩の露頭規模は東西約12 m×南北約6 mである.近傍に他の火成岩体は無い.斑れい岩脈両側の砂岩は接触変成作用を受け,特に西側の砂岩は幅約1.5 mが硬質化し,差別浸食により北へ約50 m程まで狭長な岬地形を形成している.国土地理院(1976)の空中写真には,この方向のリニアメントが露頭以北の海底にも150 m程度まで連続して写っている.したがってこの岩脈の総延長は150 m以上あると思われる.なお,接触変成作用を受けた砂岩中の炭質物のビトリナイト反射率は坂口ほか(2024)により報告され,被熱プロセスが検討されている.
岩石記載 斑れい岩の岩相は細粒~中粒塊状で貫入境界に平行な弱い流理をもつ.貫入境界に平行および直交する2方向の節理が発達している.主成分鉱物はカンラン石(変質しイディングス石化)・普通輝石(XMg = 0.63–0.72)・直方輝石(XMg = 0.66–0.69)・斜長石(An = 57–67%)で,モード組成の分類ではガブロノーライトである.副成分鉱物として磁鉄鉱・イルメナイトを含む.
全岩化学組成 この斑れい岩の全岩化学組成を,山口大学においてXRF・強熱減量法・過マンガン酸カリウム滴定法により測定した.その組成はSiO2 = 51~53%でソレアイト系列に属し,TAS図ではGabbroの領域に,SiO2–K2O図ではlow-Kとmedium-Kの境界付近にプロットされる.ノルム組成の分類では石英ソレアイトに分類される.苦鉄質岩の各種判別図では,N-MORB+VABの領域やIATの領域にプロットされる.
帰属に関する考察 この斑れい岩の全岩化学組成を,高山斑れい岩・山島火山岩(Oji & Oji, 1965; Yamazaki, 1967),および大津玄武岩(尾崎ほか, 2006)の組成と比較した.大津玄武岩はhigh-Kに分類されるなど,本報告の斑れい岩の組成とは全く異なっている.一方,高山斑れい岩・山島火山岩の組成とはほぼ一致している.斑れい岩露頭すぐ近くの,伊上層中のデイサイト質凝灰岩から,22.8 ± 1.4 MaのFT年代が得られている(尾崎, 1999).この地域の伊上層は緩傾斜なので,斑れい岩の貫入年代は22.8 Maよりも有意に新しいはずである.この斑れい岩の絶対年代は未知であるが,地質学的層序と化学組成からみて,15 Ma頃の高山周辺地域の火成活動に対比されると考えられる.
引用文献 今岡ほか (1997) 岩鉱, 92, 302–315; Imaoka & Itaya (2004) Geol. Mag. 141, 1–13; 国土地理院(1976)空中写真CCG7612; 西村ほか (2012) 山口県地質図第3版説明書; Oji & Oji (1965) Bull. Fukuoka Gakugei Univ., 15, 71–79; 尾崎 (1999) 地球科学, 53, 391–396; 尾崎ほか (2006) 仙崎地域の地質, 産総研; 坂口ほか(2024)地質学会演旨, T6-P-11; 志村ほか (2024) 第101回西日本東南極研究セミナー, 2024/7/27; Yamazaki (1967) Sci. Rep. Tohoku Univ. Ser. 3, 10, 99–150; 葦津・岡田 (1989) 九大理研報, 16, 1–17.