Presentation Information
[R6-P-05]Compositions of melt inclusions in zircon for the Habu granitoid pluton in Iwakuni City, Yamaguchi Prefecture, Sanyo Belt
*Shiori Kumagai1, Satoshi Saito1 (1. Ehime University. Sci.)
Keywords:
melt inclusion,granite,zircon
はじめに 西南日本内帯には低変成度から高変成度の高温低圧型変成岩や花崗岩類が大規模に露出しており、これらは地殻深部プロセスを読み解くために重要な地質体と考えられている(例えば、赤崎ほか, 2013;中島, 2018)。本研究対象である土生岩体を含む岩国〜柳井地域では、花崗岩類の露頭が断続的に分布し、北部から南部にかけて定置深度が増加すると考えられている。本研究では、岩国〜柳井地域北部に位置する土生岩体のジルコン中メルト包有物の解析をおこない、その主要元素組成と含水量を求めた。さらにメルト包有物組成に地質温度圧力計を適用することで、ジルコン結晶化時の温度圧力条件を検討した。
地質概説 土生岩体は後期白亜紀に活動した花崗岩類が産出する山陽帯に属している。 岩体の主岩相は中粒~細粒の黒雲母花崗岩、周縁相は中粒の角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩からなる(大和田ほか, 1995)。
実験試料 本研究では土生岩体の周縁相を対象とした。実験試料は主成分鉱物として石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母、角閃石、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石を含む。鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石の縁部に包有されるか、斜長石など主成分鉱物の粒間に認められた。SEM-EDSによるジルコン観察から、ジルコンが石英、アルカリ長石、斜長石からなる多相包有物を含むことを確認した。
実験条件 Taniwaki et al. (2023)およびKawashima et al. (2024)の手法に従い、試料から分離したジルコンをNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン−シリンダー型高温高圧発生装置で均質化実験を行った。実験条件は約250 MPa、900℃、4.5時間である。
結果 実験後のEDS分析結果から、メルト包有物は花崗岩質な組成を持っている。なお、メルト包有物のSiO2含有量は76.0~78.1 wt%であり、これらはジルコンを分離した試料の全岩SiO2含有量(63.5 wt%)より有意に高い。また、メルト包有物のアルミナ飽和度は1.06〜1.21であり、パーアルミナスな組成を持つ。また、下司ほか (2017)およびKawashima et al. (2024)に従い、余剰酸素から含水量を推定したところ、6.8~10.6 wt%の含水量が見積もられた。
考察 メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO₂含有量の高いところに位置し、鏡下観察からジルコンは主要鉱物の縁部や粒間に認められた。これらのことから、ジルコンはマグマ中の鉱物粒間の分化した含水花崗岩質メルトを包有したものと考えられる。ジルコンの固結圧力を制約するために、アルミナ飽和度の影響を考慮したYang et al. (2022)の手法を適用したところ、433~176 MPaの圧力が見積もられた。見積もられた含水量と圧力は、含水量-圧力図上において、ハプロ花崗岩質メルトの含水飽和曲線上に沿ってプロットされる。このことから、ジルコンは結晶成長時に周囲の水に飽和したメルトを包有したものと考えられる。また、近年Weber and Blundy (2024)により提案された、機械学習の手法に基づくメルト地質温度圧力計(MagMaTaB地質温度圧力計)を用いたところ、549~248 MPaの圧力、692~851℃の温度が見積もられた。これらの温度と圧力は、温度―圧力図上において、水に飽和した花崗岩質メルトのソリダス(Johannes and Holtz, 1996)より高温領域にプロットされており、ジルコンが含水花崗岩質メルトから結晶化したことと整合的である。このように、メルト包有物を解析することにより、ジルコン結晶化時の温度、圧力、メルト含水量を制約することができるものと考えられる。
引用文献 大和田ほか(1995) 岩鉱 90, 358–364; 赤崎ほか(2013) 岩石鉱物科学 42, 159–173; Blundy and Cashman (2001) Contrib. Mineral. Petrol. 140, 631–650; 中島 (2018) 地質雑124, 603–625; Yang et al. (2022) Contrib. Mineral. Petrol.117, 78; Taniwaki et al. (2023) Lithos 454–455, 107260; Kawashima et al. (2024) Jour. Mineral. Petrol. Sci. 119, 018; Weber and Blundy (2024) Jour. Petrol. 65, 020; Johannes and Holtz (1996) Petrogenesis and Experimental Petrology of Granitic Rocks. Springer, Berlin, p. 335
地質概説 土生岩体は後期白亜紀に活動した花崗岩類が産出する山陽帯に属している。 岩体の主岩相は中粒~細粒の黒雲母花崗岩、周縁相は中粒の角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩からなる(大和田ほか, 1995)。
実験試料 本研究では土生岩体の周縁相を対象とした。実験試料は主成分鉱物として石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母、角閃石、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石を含む。鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石の縁部に包有されるか、斜長石など主成分鉱物の粒間に認められた。SEM-EDSによるジルコン観察から、ジルコンが石英、アルカリ長石、斜長石からなる多相包有物を含むことを確認した。
実験条件 Taniwaki et al. (2023)およびKawashima et al. (2024)の手法に従い、試料から分離したジルコンをNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン−シリンダー型高温高圧発生装置で均質化実験を行った。実験条件は約250 MPa、900℃、4.5時間である。
結果 実験後のEDS分析結果から、メルト包有物は花崗岩質な組成を持っている。なお、メルト包有物のSiO2含有量は76.0~78.1 wt%であり、これらはジルコンを分離した試料の全岩SiO2含有量(63.5 wt%)より有意に高い。また、メルト包有物のアルミナ飽和度は1.06〜1.21であり、パーアルミナスな組成を持つ。また、下司ほか (2017)およびKawashima et al. (2024)に従い、余剰酸素から含水量を推定したところ、6.8~10.6 wt%の含水量が見積もられた。
考察 メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO₂含有量の高いところに位置し、鏡下観察からジルコンは主要鉱物の縁部や粒間に認められた。これらのことから、ジルコンはマグマ中の鉱物粒間の分化した含水花崗岩質メルトを包有したものと考えられる。ジルコンの固結圧力を制約するために、アルミナ飽和度の影響を考慮したYang et al. (2022)の手法を適用したところ、433~176 MPaの圧力が見積もられた。見積もられた含水量と圧力は、含水量-圧力図上において、ハプロ花崗岩質メルトの含水飽和曲線上に沿ってプロットされる。このことから、ジルコンは結晶成長時に周囲の水に飽和したメルトを包有したものと考えられる。また、近年Weber and Blundy (2024)により提案された、機械学習の手法に基づくメルト地質温度圧力計(MagMaTaB地質温度圧力計)を用いたところ、549~248 MPaの圧力、692~851℃の温度が見積もられた。これらの温度と圧力は、温度―圧力図上において、水に飽和した花崗岩質メルトのソリダス(Johannes and Holtz, 1996)より高温領域にプロットされており、ジルコンが含水花崗岩質メルトから結晶化したことと整合的である。このように、メルト包有物を解析することにより、ジルコン結晶化時の温度、圧力、メルト含水量を制約することができるものと考えられる。
引用文献 大和田ほか(1995) 岩鉱 90, 358–364; 赤崎ほか(2013) 岩石鉱物科学 42, 159–173; Blundy and Cashman (2001) Contrib. Mineral. Petrol. 140, 631–650; 中島 (2018) 地質雑124, 603–625; Yang et al. (2022) Contrib. Mineral. Petrol.117, 78; Taniwaki et al. (2023) Lithos 454–455, 107260; Kawashima et al. (2024) Jour. Mineral. Petrol. Sci. 119, 018; Weber and Blundy (2024) Jour. Petrol. 65, 020; Johannes and Holtz (1996) Petrogenesis and Experimental Petrology of Granitic Rocks. Springer, Berlin, p. 335