Presentation Information
[R7-05]Origin of magnetite aggregates in the Happo-O’ne metaperidotite, central Japan
*Seinosuke Yamada1, Terumi Ejima2, Shoji Arai3 (1. Shinshu Univ. Sci., 2. Shinshu Univ. Sci. , 3. Kanazawa Univ.)
Keywords:
Magnetite aggregates,Happo-O'ne,Serpentinization,Pull-apart crack,Mantle wedge fluids
磁鉄鉱は,高温のマグマからの晶出やかんらん石の蛇紋石化など,異なる成因により様々な環境で形成されることが知られる。その化学組成は,関与した流体の組成や温度,圧力,酸化還元状態などを反映し(e.g., Nadoll et al., 2014),母岩の形成条件の推定や地質過程の解明に非常に有用である。蛇紋岩中の,またはかんらん岩の蛇紋岩化に伴う磁鉄鉱は様々な産状のものが知られている(e.g., Gahlan et al., 2006)が,我々は八方尾根岩体の変成かんらん岩中にそれらのいずれとも一致しない特異な産状の磁鉄鉱集合体を発見した。その産状を報告し,成因を論ずる。さらに,その地質学的重要性に言及したい。鉱物の組織観察および組成分析,元素濃度分布分析には,電界放出型電子線マイクロアナライザー(信州大学設置)を用いた。
長野県白馬村を中心に分布する八方尾根かんらん岩体は,前弧マントルウェッジ起源とされ,飛騨外縁帯に属するかんらん岩(蛇紋岩)体のうち最大のものである(中水ほか, 1989; Khedr and Arai, 2009)。この岩体は,マントルウェッジにおける低温高圧型の広域変成作用とその後の花崗岩の貫入による接触変成作用という,2度の変成作用を被っている(中水ほか, 1989; Nozaka, 2005)。
磁鉄鉱集合体は,八方尾根岩体中でも特に蛇紋岩化の卓越した岩石中に産する。この部分は岩体の変形構造に調和的に,ごく局所的(厚さ40 m)に分布する。蛇紋岩は,蛇紋石(アンチゴライト),かんらん石,透閃石,直閃石,滑石,緑泥石および磁鉄鉱,微細なその他の不透明鉱物から構成されている。磁鉄鉱の産状には,自形な単結晶(平均粒径15 µm)と集合体の2種類がある。磁鉄鉱集合体は多くが1 cm以上であり,ときおり10 cm以上のものも存在する。磁鉄鉱集合体の多くは脈状からレンズ状であり,顕著なプルアパート構造をもつ。集合体をなす磁鉄鉱の代表的な化学組成は,(Fe2+0.905Mg0.074Ni0.012Mn0.005Co0.004)Σ1.000(Fe3+1.996Cr0.004)Σ2.000O4である。ただし,一部の磁鉄鉱集合体は全体としてNiに富んでおり,磁鉄鉱のNiO量は最大で15.5 wt.%に達する。このNiに富む磁鉄鉱はNi硫化鉱物のヒーズルウッダイトと共生する。ヒーズルウッダイトの周辺には,磁鉄鉱以外にもNiに富む鉱物が多数産し,希少なFe-Ni酸化鉱物であるトレボライトの存在も確認された。さらに,元素濃度分布分析の結果,磁鉄鉱集合体を産する蛇紋岩中に,NaやCl,Cを含む微細な鉱物集合体(未同定)が存在することが明らかになった。
磁鉄鉱集合体が蛇紋岩化の卓越した岩石中に産し,このような岩石が局所的に分布するという事実は,磁鉄鉱集合体を形成した流体が蛇紋岩化に関わるものであり,しかも岩体中を選択的に通過したことを示唆する。また,磁鉄鉱集合体のもつプルアパート構造は強い応力によって生じるものである(e.g., Arai and Miura, 2016)。このことは,マントルウェッジかんらん岩が,上昇時等で変形を受ける以前に磁鉄鉱集合体が形成していたことを意味する。したがって,磁鉄鉱集合体の形成場は前弧マントルウェッジであり,大量の流体が供給されるような環境であったと考察される。磁鉄鉱集合体の周辺にNaやCl,Cを含む鉱物の集合体が存在することは,NaClやCO2を含むマントルウェッジ流体が通過していたことと調和的である。
以上より,前弧マントルウェッジを構成するかんらん岩(現在の八方尾根かんらん岩体)にClに富む流体が局所的かつ大量に供給され,錯体を形成することによってFeの移動が促進されたために,磁鉄鉱が大きな集合体に成長できたと結論される。
引用文献
Arai and Miura (2016), Lithos, 264, 277–295.
Gahlan et al. (2006) Journal of African Earth Sciences, 46, 318-330.
Khedr and Arai (2009), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 104, 313–318.
Nadoll et al. (2014), Ore Geology Reviews, 61, 1–32.
中水ほか (1989), 地質学論集, 33, 21–35.
Nozaka (2005), Journal of Metamorphic Geology, 23, 711–723.
長野県白馬村を中心に分布する八方尾根かんらん岩体は,前弧マントルウェッジ起源とされ,飛騨外縁帯に属するかんらん岩(蛇紋岩)体のうち最大のものである(中水ほか, 1989; Khedr and Arai, 2009)。この岩体は,マントルウェッジにおける低温高圧型の広域変成作用とその後の花崗岩の貫入による接触変成作用という,2度の変成作用を被っている(中水ほか, 1989; Nozaka, 2005)。
磁鉄鉱集合体は,八方尾根岩体中でも特に蛇紋岩化の卓越した岩石中に産する。この部分は岩体の変形構造に調和的に,ごく局所的(厚さ40 m)に分布する。蛇紋岩は,蛇紋石(アンチゴライト),かんらん石,透閃石,直閃石,滑石,緑泥石および磁鉄鉱,微細なその他の不透明鉱物から構成されている。磁鉄鉱の産状には,自形な単結晶(平均粒径15 µm)と集合体の2種類がある。磁鉄鉱集合体は多くが1 cm以上であり,ときおり10 cm以上のものも存在する。磁鉄鉱集合体の多くは脈状からレンズ状であり,顕著なプルアパート構造をもつ。集合体をなす磁鉄鉱の代表的な化学組成は,(Fe2+0.905Mg0.074Ni0.012Mn0.005Co0.004)Σ1.000(Fe3+1.996Cr0.004)Σ2.000O4である。ただし,一部の磁鉄鉱集合体は全体としてNiに富んでおり,磁鉄鉱のNiO量は最大で15.5 wt.%に達する。このNiに富む磁鉄鉱はNi硫化鉱物のヒーズルウッダイトと共生する。ヒーズルウッダイトの周辺には,磁鉄鉱以外にもNiに富む鉱物が多数産し,希少なFe-Ni酸化鉱物であるトレボライトの存在も確認された。さらに,元素濃度分布分析の結果,磁鉄鉱集合体を産する蛇紋岩中に,NaやCl,Cを含む微細な鉱物集合体(未同定)が存在することが明らかになった。
磁鉄鉱集合体が蛇紋岩化の卓越した岩石中に産し,このような岩石が局所的に分布するという事実は,磁鉄鉱集合体を形成した流体が蛇紋岩化に関わるものであり,しかも岩体中を選択的に通過したことを示唆する。また,磁鉄鉱集合体のもつプルアパート構造は強い応力によって生じるものである(e.g., Arai and Miura, 2016)。このことは,マントルウェッジかんらん岩が,上昇時等で変形を受ける以前に磁鉄鉱集合体が形成していたことを意味する。したがって,磁鉄鉱集合体の形成場は前弧マントルウェッジであり,大量の流体が供給されるような環境であったと考察される。磁鉄鉱集合体の周辺にNaやCl,Cを含む鉱物の集合体が存在することは,NaClやCO2を含むマントルウェッジ流体が通過していたことと調和的である。
以上より,前弧マントルウェッジを構成するかんらん岩(現在の八方尾根かんらん岩体)にClに富む流体が局所的かつ大量に供給され,錯体を形成することによってFeの移動が促進されたために,磁鉄鉱が大きな集合体に成長できたと結論される。
引用文献
Arai and Miura (2016), Lithos, 264, 277–295.
Gahlan et al. (2006) Journal of African Earth Sciences, 46, 318-330.
Khedr and Arai (2009), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 104, 313–318.
Nadoll et al. (2014), Ore Geology Reviews, 61, 1–32.
中水ほか (1989), 地質学論集, 33, 21–35.
Nozaka (2005), Journal of Metamorphic Geology, 23, 711–723.