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[R7-08]Serpentinization processes in ultramafic rocks and their relationship to jadeite-quartz rocks: A record of fluid-rock interactions in the Yorii area, Kanto Mountains, Japan

*Tomoki Segawa1, Tomoki Taguchi2 (1. Waseda Univ. CSE, 2. Waseda Univ. EDU)
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Keywords:

Fluid-rock interaction,Serpentinization,Jadeitite,Clinopyroxenite,Kanto Mountains

ヒスイ輝石岩を含む蛇紋岩主体の複合岩体は、過去の沈み込み帯における岩石-流体相互作用を理解する上で重要な地質ユニットである。関東山地寄居地域の緑色岩メランジュには、ヒスイ輝石-石英岩が超苦鉄質岩類と共に産出する(Hirajima, 1983 岩石鉱物鉱床学会誌)。瀬川・田口(2024 日本地質学会第131年学術大会)は、このヒスイ輝石-石英岩の周縁部に、ヒスイ輝石-オンファス輝石の共生を含む反応縁を報告した。さらに最近、ヒスイ輝石-石英岩付近にて含水ザクロ石を伴う超苦鉄質岩を見出し、その形成プロセスに多段階の蛇紋岩化作用が関与したことを示した(瀬川・田口 2025 JpGU)。本発表では新規に採取した超苦鉄質岩類の岩石学的特徴を報告するとともに、その蛇紋岩化プロセスとヒスイ輝石-石英岩周縁部に発達する反応縁との関係性について検討する。
 超苦鉄質岩類は、ヒスイ輝石-石英岩本体から南東方向に約30 mにわたり連続した小岩体として露出する。超苦鉄質岩類は基質がほぼ単斜輝石からなる薄緑白色の単斜輝石岩が主であるが、本研究にて蛇紋石と不透明鉱物を多量に含む濃灰緑色の超苦鉄質岩類(以下、含単斜輝石蛇紋岩)も認められた。これら岩石の鉱物組み合わせは類似しており、透輝石、蛇紋石(アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル)、ハイドロアンドラダイト、クリノクロア、スピネル系鉱物、針ニッケル鉱である。はじめに単斜輝石岩の岩石学的特徴について述べる。基質は主に粗粒かつ自形的な透輝石からなり、一部アンチゴライトがプール状に濃集している部分もある。透輝石の周縁部や劈開に沿ってリザーダイト±アンドラダイトからなる分解組織も一部認められる。また、粗粒なハイドロアンドラダイト脈の存在も特徴的である。基質透輝石の組成傾向(XMg (= Mg/(Mg + Fe2+)) = 0.90–0.93; Al2O3 = 0.81–2.63 wt%)は火成起源を示唆する。スピネル系鉱物(約100–400 μm)の結晶中心部はCr-磁鉄鉱、そして縁辺部はFe-クロム鉄鉱の組成を示す。このスピネル系鉱物の周縁部にはリザーダイトやクリノクロア、Crに富むアンドラダイトが存在する。続いて、含単斜輝石蛇紋岩の岩石学的特徴を述べる。基質は主にアンチゴライトと粗粒透輝石からなり、両鉱物と共存するスピネル系鉱物が多く認められる。スピネル系鉱物からは、磁鉄鉱を特徴づけるラマンスペクトルが得られた。これら磁鉄鉱は主に透輝石の劈開を充填するように分布し、透輝石-磁鉄鉱の一部粒間には蛇紋石と共にアンドラダイトも確認される。この組織は上述した単斜輝石岩の分解組織(リザーダイト±アンドラダイト)と類似するが、アンドラダイトの量は非常に少ない。また、基質に脈状アンドラダイトは確認されない一方で、磁鉄鉱主体の脈がアンチゴライトや透輝石と共存する。
 アンチゴライトとリザーダイトの産状から、超苦鉄質岩類は少なくとも2段階の蛇紋岩化作用を被ったと解釈できる。基質にカンラン石は認められないが、これは高温環境下かつ高シリカ活動度でのアンチゴライト蛇紋岩化作用が起きた結果と考えられる。先行研究(Fukuyama et al., 2017 JMPS)で示唆されたように、このアンチゴライト蛇紋岩化作用で放出された流体が本地域のヒスイ輝石-石英岩形成に関与した可能性が高い。その後、低温環境下での低シリカ活動度の流体流入により、透輝石のリザーダイト蛇紋石化と、磁鉄鉱の消費によるハイドロアンドラダイトの形成が進行したと解釈できる(Frost and Beard, 2007 J. Petrol)。蛇紋石-単斜輝石岩には上記反応の初期段階がよく保存されており、基質の磁鉄鉱脈や透輝石劈開中の磁鉄鉱がハイドロアンドラダイト形成に関与したのだろう。リザーダイト蛇紋岩化作用に際し、Caに富む流体がヒスイ輝石-石英岩の縁辺部へ流入し、ヒスイ輝石-オンファス輝石共生を含む反応縁が発達したと考えられる。すなわち、多段階の蛇紋岩化作用とそれに関連する流体組成の変化が、本岩体で起きた交代作用プロセスを制御していた可能性が示唆される。これは本岩体に分布する一連の構成岩石が、沈み込み帯における岩石-流体相互作用の発達史をよく保存していることを意味する。