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[R7-P-04]Reinvestigation on the formation process of alteration minerals in Tateishi tuff, Hayama group, Kanagawa prefecture, Japan.

*Kaoru Asanuma1, Toyoho Ishimura2, Norimasa Shimobayashi1 (1. Kyoto Univ. Sci., 2. Kyoto Univ. Human and Environmental Studies)
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Keywords:

alteration,zeolite,sheet silicate,accretionary prism,Hayama-Mineoka Belt

凝灰岩に含まれる火山ガラスは、流体と反応して沸石や層状珪酸塩といった変質鉱物を形成することが知られている(Hay&Sheppard, 2001など)。そのため、凝灰岩中の変質鉱物はかつて存在した流体活動を理解するための有効な手がかりである。
本研究では、神奈川県三浦半島に分布する立石凝灰岩(江藤ほか, 1998)中の沸石や層状珪酸塩を対象とし、その形成環境の推定を目的としている。立石凝灰岩やそれと類似する凝灰岩は関東地方南部に広く分布し(蛯子・柴田, 2012)、それらは付加体を構成する岩石である可能性が指摘されている(高橋, 2008など)。さらに、これら関東地方南部の付加体は、年代の若いものが後世の擾乱をほぼ受けることなく陸地化しているため、沈み込み帯最前部の状況がよく保存されていると期待されている(山本ほか, 2017)。そのため、立石凝灰岩中の変質鉱物の形成環境を明らかにすることは、形成中の付加体内部でどのような流体が存在していたかということの解明に資するものであると考えられる。
一般的に、沸石や粘土鉱物などの変質鉱物は、続成変質作用や熱水変質作用で形成されることが知られている。そしてグリーンタフ地域での研究から、鉱物種と形成温度に対応関係があることが知られており(佐々木ほか, 1982など)、特に沸石については地質温度計としての利用が提案されている(飯島, 1986)。そのため、立石凝灰岩に含まれる沸石などの形成環境に関する先行研究でも、その地質温度計の示す温度を利用して議論がなされてきた(江藤ほか, 1998、柴田・蟹江, 2016)。しかし、これらの先行研究では、立石凝灰岩において沸石による地質温度計を適用する妥当性については議論がなされず、かつ、変質鉱物の形成環境にも一致する見解は得られていない。そのためそれらの問題点を解決する必要があり、以下のように分析を実施した。
サンプルは、三浦半島西部の立石海岸周辺と、東部の野比海岸で採取したものを使用した。岩質は細粒~粗粒の凝灰岩あるいは凝灰角礫岩で、どちらのものにも沸石脈が豊富に含まれている。
本研究は、次の二通りのアプローチで実施した。一つ目は、変質鉱物の種類や分布といった定性的な情報に基づく、変質状況の記載である。偏光顕微鏡による組織観察、SEM-EDSによる組成分析、定方位XRDによる層状珪酸塩の同定を実施した。二つ目は、鉱物の酸素同位体比を利用した、定量的な形成温度の推定である。こちらは、沸石脈中の方解石の酸素同位体比を、Ishimura et al. (2004, 2008)によって開発された、微量炭酸塩安定同位体比質量分析システム(MICAL3c)によって測定した。
偏光顕微鏡観察・SEM-EDS分析の結果、沸石脈を構成する鉱物は立石海岸周辺では、方沸石・輝沸石・Si/Al=4程度の輝沸石-斜プチロル沸石の中間的なものであった。野比海岸では、方沸石・輝沸石・モルデン沸石であった。母岩には、どちらの地域のサンプルにも未変質の火山ガラスと思われるものが含まれていた。また元々火山ガラスであったと思われるものが斜プチロル沸石・モルデン沸石に置換されたものも存在した。母岩に含まれる層状珪酸塩の種類は、立石海岸周辺のものはほぼスメクタイトのみであるのに対し、野比海岸のものはスメクタイトの他に緑泥石・雲母類も存在した。
次に、立石海岸の方沸石・輝沸石が共存する沸石脈に含まれる方解石の酸素同位体比を測定した結果は、δ18O=-2.37‰(VPDB)であった。方解石を晶出した流体の酸素同位体比としてあり得る値を-7~+10‰(VSMOW)と仮定し、この結果をKim&O'neil(1997)の式に代入すると、-6~84℃という形成温度が得られた。
先述の沸石による地質温度計によると、最も低温では火山ガラスが残存するが、約50℃を超えると斜プチロル沸石・モルデン沸石が形成し、約80℃を超えると、方沸石・輝沸石が形成するとされる。同様に層状珪酸塩についても、温度上昇とともに、スメクタイト→混合層鉱物→緑泥石・雲母類と変化するとされる(白水, 1988)。立石凝灰岩では、母岩には火山ガラスや斜プチロル沸石・モルデン沸石が見られるのに対し、沸石脈にはより高温で形成するとされる方沸石・輝沸石が存在した。また、沸石脈中の方解石の酸素同位体比による温度は、地質温度計による温度とは一致しなかった。また、層状珪酸塩の種類も地域によって大きな差があった。そのため立石凝灰岩は、通常の海成凝灰岩とは異なった変質を受けている可能性が示唆され、沸石による地質温度計の適用は不適切と言える。そのため今後は、形成温度推定の確実性を高めることや、変質鉱物の岩石内での分布や組成変化のトレンドを追うことによって、実際の変質過程の解明を目指したい。