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[R7-P-05]Evaluation of estimation methods for physicochemical information of equilibrium melt by multivariate analysis of high-T and high-P experimental data of clinopyroxene

*Ryosuke Kawai1, Ikuo Okada2, Shunsuke Munechika, Tomoyuki Shibata1 (1. ASE. Hiroshima Univ., 2. HIGC)
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Keywords:

clinopyroxene,high-temperature and high-pressure experimental data,machine learning,sakurajima volcano,equilibrium melt

安山岩マグマの多くは,異なるマグマの混合を経て生成されていると考えられている(eg. Sakuyama, 1981)。マグマ混合を経験している場合,端成分マグマの成因やそれらの相互の関係を,全岩化学組成から定量的に制約することは,困難である。一方で,斑晶鉱物には,晶出時のマグマの物理化学条件が組織的・化学的に記録されている。斑晶鉱物の化学組成からマグマの温度・圧力を推定する手法として,これまで両輝石温度計(eg. Lindsley, 1983; Putirka, 2008),角閃石単相温度計(eg. Putirka, 2016),角閃石単相圧力計(eg. Ridolfi & Renzulli, 2012)などの地質温度・圧力計が用いられてきた。しかしながら,両輝石温度計ではそれらが平衡共存していることが条件となる。また,安山岩は角閃石を含むとは限らない。そのため,安山岩・デイサイトが卓越する沈み込み帯におけるマグマ活動を理解するには,前述の手法を用いた研究には限界がある。近年は,火山岩中に角閃石よりも広く含まれる単斜輝石の化学的性質に注目し,単斜輝石の高温高圧実験データを機械学習で多変量解析することで,平衡メルトの温度・圧力,さらには主成分元素組成を推定する手法が提唱されている(eg. Petrelli et al., 2020; Higgins et al., 2021; Jorgenson et al., 2022; Chicchi et al., 2023; Ágreda-López et al., 2024)。これらの推定法を天然の安山岩等に適用することができれば,単斜輝石の主成分元素組成を用いて,平衡メルトの物理化学情報を推定することが可能となる。 
 本研究では,琉球弧第四紀火山の桜島火山の火山岩および姶良カルデラに産する玄武岩を含む全12試料中の単斜輝石(透輝石と普通輝石)に,前述の機械学習を用いる推定法を適用した。桜島火山は現在も活発な火山活動が続いており,多くの地球物理化学的研究が行われている。したがって,各推定法による結果が,先行研究で報告されているマグマの物理化学情報と調和的どうか比較することで,推定法が桜島火山の単斜輝石を用いた温度・圧力や平衡メルトの主成分元素組成を推定するツールとして機能するかどうかを評価することが本研究の目的である。
 199個の単斜輝石の主成分化学組成をEPMAで測定し,そのデータをもとに平衡メルトの温度・圧力を推定したところ,1つの単斜輝石であっても,手法ごとに推定温度・圧力が異なり,推定結果の不確実性や誤差範囲も大きい結果となった。また,温度上昇に伴い圧力が線形的に変化せず,先行研究(eg. Araya et al., 2019; Kuritani et al., 2025)で報告されている温度-圧力範囲と一致しない結果となった。それに対し,Higgins et al. (2021) の推定法を用いた平衡メルトの主成分元素組成の推定結果については,Na2Oを除いて,天然試料が一般的に示す化学組成の変化と類似した傾向となり,有用な推定ツールとなる可能性を示した。 
 各推定法で用いるアルゴリズムでは,1つの単斜輝石に対して,単斜輝石の高温高圧実験データと天然試料の化学組成のみの比較を行い,天然試料と近い化学組成をもつ平衡メルトの実験時の温度,圧力,および主成分元素組成が,実験データ中から候補として出力される仕組みである。よって,単斜輝石の主成分元素のうち,圧力依存性がある元素濃度(eg. Na, Al)の少なさや,EPMAでの測定精度の低さが,化学組成のみを比較するアルゴリズムの性質上,推定結果に大きく影響する。このことが,本研究で推定した温度-圧力の低い相関性や平衡メルト中の不自然なNa2Oの傾向をもたらしているのかもしれない。また,高温高圧実験データには,単斜輝石中のマイナー元素を報告していない場合が多いため,天然の単斜輝石の化学組成との比較を行うことは適切ではないと考えられる。
 これらのことから,本研究で検証した推定法は,温度,圧力推定に関しては信頼たる推定は困難であるが,Na2Oを除く平衡メルト中の主成分元素組成の推定は可能であると考えられる。