Presentation Information
[R7-P-06]Ubiquity and Diversity of Solid-Phase Organic Matter–Bearing Inclusions in Tahitian Mantle Xenoliths
*Itaru Mitsukawa1, Akira Miyake1, Yohei Igami1, Tetsu Kogiso1, Norikatsu Akizawa2, Hiroshi Sakuma3 (1. Kyoto Univ., 2. Hiroshima Univ. , 3. NIMS)
Keywords:
mantle xenolith,Solid-Phase Organic Matter,carbon monoxide,inclusions,Raman sperctroscopy
マントル捕獲岩の分析からマントル内部の酸化還元状態が推定されており、地球のマントルは深部ほど還元的であることが示されている[1]。こうした還元的環境下では、生物の関与なしに複雑な有機物が生成される可能性が指摘されており、エネルギー資源の形成過程や炭素循環の解明の観点から注目されている[2]。こうしたマントル内部における有機物合成を理解するためには、天然のマントル物質中に含まれる包有物内の有機物を検出することが有効である。しかし、マントル捕獲岩中の流体包有物の多くは、主に上部マントル浅部の酸化的環境下で形成された純粋なCO₂である[3]。そのため、マントル起源の有機物が包有物としてどの程度保存されているかについては、未だ十分に解明されていない。
近年、我々は南太平洋に位置するフランス領ポリネシアタヒチ島で採取されたマントル捕獲岩中から、多環芳香族化合物(PAH)を主体とする固相有機物を含有する包有物を発見した[4]。このハルツバージャイト中のある単斜輝石粒子中には、白金族鉱物(Cu-Ir-Pt-Rh硫化鉱物)、Fe-Ni-Cu硫化物、ケイ酸塩ガラスと共存しつつPAHを主体とする固相有機物+CO+CO2が分布しており、海洋下マントルの還元的な流体を保存している。一方、固相有機物を含む還元的な成分を含む包有物が、岩石中の他の鉱物中にも普遍的に分布しているかは不明であった。
本研究では、固相有機物がタヒチ島産マントル捕獲岩中にどの程度普遍的に分布するかを解明するために、顕微ラマン分光装置(Oxford Instruments社製WITec alpha 300RA)を用いて、岩石薄片全体の鉱物中の包有物に対する分析を実施した。既に固相有機物を含む包有物を発見済みの単斜輝石[4]中の他の包有物18個、および、同一薄片中のカンラン石、直方輝石中の包有物93個について分析を実施した。
単斜輝石中にはケイ酸塩ガラスとC-O-H相が共存する包有物(Type A)とC-O-H相のみで構成される包有物(Type B)の2種類が見られた。Type Aに対する顕微ラマン分光分析の結果、C-O-H相の部分から隕石中の不溶性有機物(IOM)や変成岩中の炭質物のスペクトルにみられるGバンド(~1590 cm-1)やDバンド(~1350 cm-1)がみられた。得られたスペクトルはピークがブロードであり、スペクトルのバックグラウンド上昇が見られるなど、構造的な秩序性に乏しい固相有機物と類似したスペクトル形状を示した。一方、Type Bについては、そのような固相有機物ピークは検出されず、CO2 + CO + O2のピークが検出された。
カンラン石、直方輝石中の包有物については、CO2を主成分としつつも、一部については、CO2に加えて固相有機物やCO、H2Sのピークが検出された。得られた固相有機物のスペクトルについては、単斜輝石中のものと同様にGバンドやDバンドが検出されたが、ピーク幅が比較的狭いことから、単斜輝石中のものよりも構造的な秩序度が比較的高いと考えられる。D/Gバンド比やピーク形状、BGの上昇の仕方には多様性が見られ、固相有機物の構造的な差異を反映しているものと思われる。また、流体のピークのみが検出された包有物について、波数分解能の高い回折格子(1800 gr/mm)を用いてCO2やCOのピークを取得し、Pseudo-Voigt関数を用いたピークフィッティングを実施した。ピーク面積の比から各包有物のCO/CO2比の比較を行った結果、単斜輝石中のType Bの包有物が特に高いCO/CO2比を示した。かんらん石や直方輝石中の包有物のCO/CO2比は、最も高いものでも単斜輝石中の包有物の1/2から1/3程度であった。
マントル捕獲岩中の包有物は古くから研究されてきたが、固相有機物やCO、H2Sを検出した例は数例にとどまっている[5]。したがって、それらの成分を普遍的に含むタヒチ島産のマントル捕獲岩は、一般的なマントル捕獲岩よりも還元的なC-O-H成分を保存しているといえる。その中でも固相有機物が分布する単斜輝石中の包有物は特に高いCO/CO2比を示しており、薄片中で最も還元的であることから、今回分析した包有物の中で最も深部由来の流体を保存している可能性が高い。単斜輝石中にみられる固相有機物が最も構造的に無秩序であったのは、形成した際の圧力や還元的な流体組成が反映された結果であると推測される。
[1] Frost and McCammon, 2008, [2] Wang et al., 2023, [3] Andersen and Neumann, 2002, [4] Mitsukawa et al., 2025 (under review), [5] Bergman and Dubessy, 1987
近年、我々は南太平洋に位置するフランス領ポリネシアタヒチ島で採取されたマントル捕獲岩中から、多環芳香族化合物(PAH)を主体とする固相有機物を含有する包有物を発見した[4]。このハルツバージャイト中のある単斜輝石粒子中には、白金族鉱物(Cu-Ir-Pt-Rh硫化鉱物)、Fe-Ni-Cu硫化物、ケイ酸塩ガラスと共存しつつPAHを主体とする固相有機物+CO+CO2が分布しており、海洋下マントルの還元的な流体を保存している。一方、固相有機物を含む還元的な成分を含む包有物が、岩石中の他の鉱物中にも普遍的に分布しているかは不明であった。
本研究では、固相有機物がタヒチ島産マントル捕獲岩中にどの程度普遍的に分布するかを解明するために、顕微ラマン分光装置(Oxford Instruments社製WITec alpha 300RA)を用いて、岩石薄片全体の鉱物中の包有物に対する分析を実施した。既に固相有機物を含む包有物を発見済みの単斜輝石[4]中の他の包有物18個、および、同一薄片中のカンラン石、直方輝石中の包有物93個について分析を実施した。
単斜輝石中にはケイ酸塩ガラスとC-O-H相が共存する包有物(Type A)とC-O-H相のみで構成される包有物(Type B)の2種類が見られた。Type Aに対する顕微ラマン分光分析の結果、C-O-H相の部分から隕石中の不溶性有機物(IOM)や変成岩中の炭質物のスペクトルにみられるGバンド(~1590 cm-1)やDバンド(~1350 cm-1)がみられた。得られたスペクトルはピークがブロードであり、スペクトルのバックグラウンド上昇が見られるなど、構造的な秩序性に乏しい固相有機物と類似したスペクトル形状を示した。一方、Type Bについては、そのような固相有機物ピークは検出されず、CO2 + CO + O2のピークが検出された。
カンラン石、直方輝石中の包有物については、CO2を主成分としつつも、一部については、CO2に加えて固相有機物やCO、H2Sのピークが検出された。得られた固相有機物のスペクトルについては、単斜輝石中のものと同様にGバンドやDバンドが検出されたが、ピーク幅が比較的狭いことから、単斜輝石中のものよりも構造的な秩序度が比較的高いと考えられる。D/Gバンド比やピーク形状、BGの上昇の仕方には多様性が見られ、固相有機物の構造的な差異を反映しているものと思われる。また、流体のピークのみが検出された包有物について、波数分解能の高い回折格子(1800 gr/mm)を用いてCO2やCOのピークを取得し、Pseudo-Voigt関数を用いたピークフィッティングを実施した。ピーク面積の比から各包有物のCO/CO2比の比較を行った結果、単斜輝石中のType Bの包有物が特に高いCO/CO2比を示した。かんらん石や直方輝石中の包有物のCO/CO2比は、最も高いものでも単斜輝石中の包有物の1/2から1/3程度であった。
マントル捕獲岩中の包有物は古くから研究されてきたが、固相有機物やCO、H2Sを検出した例は数例にとどまっている[5]。したがって、それらの成分を普遍的に含むタヒチ島産のマントル捕獲岩は、一般的なマントル捕獲岩よりも還元的なC-O-H成分を保存しているといえる。その中でも固相有機物が分布する単斜輝石中の包有物は特に高いCO/CO2比を示しており、薄片中で最も還元的であることから、今回分析した包有物の中で最も深部由来の流体を保存している可能性が高い。単斜輝石中にみられる固相有機物が最も構造的に無秩序であったのは、形成した際の圧力や還元的な流体組成が反映された結果であると推測される。
[1] Frost and McCammon, 2008, [2] Wang et al., 2023, [3] Andersen and Neumann, 2002, [4] Mitsukawa et al., 2025 (under review), [5] Bergman and Dubessy, 1987