Presentation Information
[R8-01]Carboniferous slab melting inferred from garnet-bearing amphibolite and trondhjemite in Wakasa, Tottori Prefecture, Japan
*Mizuki TAKAHASHI1, Shunsuke Endo1, Atsushi Kamei1, Simon Richard Wallis2 (1. Shimane University, 2. The University of Tokyo)
Keywords:
Slab melting,Carboniferous,Garnet-bearing amphibolite,Trondhjemite
ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や海洋地殻の高温沈み込み(沈み込み開始直後や若いスラブの沈み込み)において発生しうる重要なプロセスである.世界のいくつかの沈み込み型変成帯において,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せは,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すものとして報告されている(例えば,Lázaro et al., 2011).鳥取県東部の若桜地域の蛇紋岩中からも,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩の組合せが報告されており,ザクロ石角閃岩の部分融解によりトロニエム岩が形成された可能性が示された(髙橋・遠藤, 2023).本発表では,ザクロ石角閃岩の形成温度・圧力推定,両岩石の全岩主要・微量化学組成,トロニエム岩のジルコンU-Pb年代をもとに両岩石の成因について検討した.
若桜地域では,約300Maの変成年代をもつ高P/T型変成岩の蓮華変成岩(志谷層)と,その構造的上位を占める大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類が分布する(Nishimura and Shibata, 1989).志谷層の泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し,一部に青色片岩相の苦鉄質片岩を伴う(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩の組織を残す塊状蛇紋岩から面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.片状蛇紋岩により志谷層と隔てられた泥質片岩(灰曹長石黒雲母帯相当)中に,ザクロ石角閃岩およびトロニエム岩が複数枚のレイヤーとして産する.
ザクロ石角閃岩は,優黒質部とそれを切る少量の優白質部からなる.優黒質部は主に自形のザクロ石(~15 vol%),褐色角閃石(>60 vol%),チタナイトにより構成される.優黒質部のザクロ石斑状変晶は昇温期の累帯構造を保持し,多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石,ジルコンを包有する.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成される.優白質部のザクロ石は自形の輪郭を残して斜長石+石英に置換された「ゴースト」となっている.トロニエム岩はマイロナイト化しており,粗粒の斜長石,白雲母,ゾイサイトと細粒化した石英を主とし,構成鉱物はザクロ石角閃岩を切る優白質部と同様である.
ザクロ石角閃岩中のザクロ石の包有物に対して,石英ラマン圧力計とZrルチル温度計を適用し,温度・圧力条件を推定した.石英包有物が保持する残留応力の最も高い集団は0.36-0.39 GPaを示した.Kouketsu et al. (2014) を用いて変成圧力に換算し,Zrルチル温度計の最高温度と組合わせると,ザクロ石角閃岩のピーク条件は670℃,1.4 GPaと推定される.
また,N-MORBで規格化した不適合微量元素のスパイダーグラムでは,ザクロ石角閃岩は移動性の高い元素(アルカリ元素,Ba, Th, U, Pb, Sr)の富化を除き平坦なパターンを示し,MORB起源と考えられる.トロニエム岩は全体的に右下がりのパターンを示した.新生代アダカイトの平均値と比べると,若桜のトロニエム岩の希土類元素濃度は1桁程度低い.一方,沈み込み帯型変成帯から報告のある,比較的低温(~700 ℃,1.5 GPa)で形成されたMORB起源のザクロ石角閃岩に伴われるトロニエム岩(Lázaro et al., 2011)の不適合微量元素濃度およびパターンとはほぼ完全に一致する.
ザクロ石角閃岩のピーク条件は,通常の沈み込んだ海洋地殻が脱水融解するには温度が低い.しかし,玄武岩系のH2O飽和ソリダス付近の条件ではあるため,スラブマントルの蛇紋岩の脱水流体など,外部からのH2O流入により融解した可能性や,あるいはより深部で発生したメルトが沈み込み境界に沿って上昇した可能性が考えられる.
トロニエム岩中のジルコンから,コンコーダントな238U-206Pb年代(n = 29)の加重平均として340 ± 2 Ma (MSWD = 1.8)が得られた.統計的に除外された約400 Maの1点を除いてすべて低いTh/U比(0.00–0.05)を示したが,これらのジルコンは顕著なオシラトリー累帯をもつ.トロニエム岩は,約340 Maの蓮華変成作用の期間中にスラブ融解により形成されたと考えられる.
文献:Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Kouketsu et al. (2014) Am. Min. 99, 433-442; Lázaro et al. (2011) Lithos 126, 341-354; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; 髙橋・遠藤 (2023), 日本地質学会講演要旨, T2-O-06
若桜地域では,約300Maの変成年代をもつ高P/T型変成岩の蓮華変成岩(志谷層)と,その構造的上位を占める大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類が分布する(Nishimura and Shibata, 1989).志谷層の泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し,一部に青色片岩相の苦鉄質片岩を伴う(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩の組織を残す塊状蛇紋岩から面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.片状蛇紋岩により志谷層と隔てられた泥質片岩(灰曹長石黒雲母帯相当)中に,ザクロ石角閃岩およびトロニエム岩が複数枚のレイヤーとして産する.
ザクロ石角閃岩は,優黒質部とそれを切る少量の優白質部からなる.優黒質部は主に自形のザクロ石(~15 vol%),褐色角閃石(>60 vol%),チタナイトにより構成される.優黒質部のザクロ石斑状変晶は昇温期の累帯構造を保持し,多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石,ジルコンを包有する.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成される.優白質部のザクロ石は自形の輪郭を残して斜長石+石英に置換された「ゴースト」となっている.トロニエム岩はマイロナイト化しており,粗粒の斜長石,白雲母,ゾイサイトと細粒化した石英を主とし,構成鉱物はザクロ石角閃岩を切る優白質部と同様である.
ザクロ石角閃岩中のザクロ石の包有物に対して,石英ラマン圧力計とZrルチル温度計を適用し,温度・圧力条件を推定した.石英包有物が保持する残留応力の最も高い集団は0.36-0.39 GPaを示した.Kouketsu et al. (2014) を用いて変成圧力に換算し,Zrルチル温度計の最高温度と組合わせると,ザクロ石角閃岩のピーク条件は670℃,1.4 GPaと推定される.
また,N-MORBで規格化した不適合微量元素のスパイダーグラムでは,ザクロ石角閃岩は移動性の高い元素(アルカリ元素,Ba, Th, U, Pb, Sr)の富化を除き平坦なパターンを示し,MORB起源と考えられる.トロニエム岩は全体的に右下がりのパターンを示した.新生代アダカイトの平均値と比べると,若桜のトロニエム岩の希土類元素濃度は1桁程度低い.一方,沈み込み帯型変成帯から報告のある,比較的低温(~700 ℃,1.5 GPa)で形成されたMORB起源のザクロ石角閃岩に伴われるトロニエム岩(Lázaro et al., 2011)の不適合微量元素濃度およびパターンとはほぼ完全に一致する.
ザクロ石角閃岩のピーク条件は,通常の沈み込んだ海洋地殻が脱水融解するには温度が低い.しかし,玄武岩系のH2O飽和ソリダス付近の条件ではあるため,スラブマントルの蛇紋岩の脱水流体など,外部からのH2O流入により融解した可能性や,あるいはより深部で発生したメルトが沈み込み境界に沿って上昇した可能性が考えられる.
トロニエム岩中のジルコンから,コンコーダントな238U-206Pb年代(n = 29)の加重平均として340 ± 2 Ma (MSWD = 1.8)が得られた.統計的に除外された約400 Maの1点を除いてすべて低いTh/U比(0.00–0.05)を示したが,これらのジルコンは顕著なオシラトリー累帯をもつ.トロニエム岩は,約340 Maの蓮華変成作用の期間中にスラブ融解により形成されたと考えられる.
文献:Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Kouketsu et al. (2014) Am. Min. 99, 433-442; Lázaro et al. (2011) Lithos 126, 341-354; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; 髙橋・遠藤 (2023), 日本地質学会講演要旨, T2-O-06
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