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[R8-P-06]Discovery of microstructural deformation and “pseudoinclusion” in zircon from eclogite of Sanbagawa Belt: A new approach to geochronological interpretation based on photomicrography and EBSD analysis

*Keita Takahashi1, Takafumi Hirata2, Mutsuki Aoya4, Mayuko Fukuyama3, Tairiku Kawashima2, Simon Wallis1 (1. The Univ. of Tokyo, EPS, 2. The Univ. of Tokyo. GcRC, 3. Akita Univ., 4. Tokushima University)
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Keywords:

zircon,eclogite,Sanbagawa belt,EBSD,U–Pb dating

変成岩中の鉱物の放射年代測定は, 原岩形成年代や変成年代を直接推定することができ, 造山運動の時間スケールや高圧変成岩上昇速度の解明などに貢献している。特にジルコンU–Pb年代測定は, 閉鎖温度の高さや物理的・化学的安定性などから, 様々な岩石を対象に広く行われている。一方, 多段階の火成・変成作用を経験した岩石の場合, 得られた年代値と地質イベントの関係を慎重に決める必要がある。ジルコン年代値の解釈は主にカソードルミネッセンス(CL)像組織・微量元素組成・包有物の鉱物組合わせから推定されているが, ジルコン内外の変形組織に着目した研究は少ない。一方, 変形によって生じる微細な流体パスを通じて, 鉛損失による年代値の若返りや疑似包有物(ホスト鉱物の成長後に二次的に形成した微細鉱物)の形成が知られており1, 年代値の解釈は変形組織を考慮して慎重に行う必要がある。本研究では, 電子線後方散乱回折(EBSD)法や写真測量を用いてジルコン内外の変形微細組織を詳細に解析することで, 変形史の復元や年代値の地質学的解釈を試みる。
 試料は, 愛媛県別子地域の瀬場谷に露出する三波川変成帯の含ジルコン変斑れい岩(エクロジャイト質)を用いた。薄片下のジルコンは丸みを帯びた不定形で, 一部は破断されて複数の粒子に分かれていた。内部には多量の微細鉱物や亀裂が観察された。ジルコン内外の微細組織を解析するため, 薄片中のジルコン及び岩石から分離したジルコンを対象に, 以下の分析を行った: ①反射電子像(BSE像)+SEM-EDS(化学組成分布, 包有物の鉱物相特定), ②CL像(ジルコンの成長組織), ③EBSD法(結晶方位分布), ④光学顕微鏡観察・写真測量(微細鉱物やクラックの三次元分布・方位測定)。EBSD解析では, 歪み分布の指標となるGRODマップと方位差不連続境界を表すKAMマップを作製した。光学顕微鏡観察では, 全焦点法を用いて微細組織の3次元モデルを作成した。観察の結果, ジルコン中の微細組織はType-1: 脆性的な亀裂(光学顕微鏡で認識可能), Type-2: 塑性的な方位差不連続面(EBSDでのみ認識可能), Type-3: 液体包有物・微小poreの配列面(方位差不連続性なし), Type-4: CL像でのみ見られる低輝度のクラック様組織(CL-dark band) の4つに分類された。Type-1~3の面(線)状組織は粒子内で一定の方向に発達する場合が多く, 同一の応力場で複数の破壊が短時間で起こったことが示唆される。Type-1・2の組織はコア-リム境界を横切っており, リムの成長よりも後の変形に相当する。一方, 一部のType-3の組織はコア-リム境界によって切られており, リムの成長よりも前の変形段階であると考えられる。CL-dark bandは微小クラックに関連した流体経路の痕跡と解釈され1,2, Type-2~4に共通して見られる。ジルコン中の微細鉱物は, オンファス輝石・緑簾石・白雲母・角閃石・ザクロ石などが認められた。これらの微細鉱物はジルコン周囲の変斑れい岩と同じ鉱物組合わせと同一であり, Type-1~4の微細組織に沿って分布しており, ジルコンが成長した時に取り込んだ包有物ではなく, 成長後の変形に伴い外部流体が侵入し元々存在していた包有物を変質, または新しい微細鉱物の固体侵入や再結晶によって形成された疑似包有物と考えられる1
 これらの変形組織を考慮した上で, 放射年代値を解釈する。ジルコンU–Pb局所年代測定はレーザーアブレーションICP質量分析法を用いて行い, コア部の238U年代として179~199 Maのコンコーダントな年代を得た。コア部はオンファス輝石やザクロ石などの高圧指標鉱物を含んでいるが, 変形組織の観察によると, これらは変形時に形成された疑似包有物であると考えられる。よって得られた放射年代値は変成年代ではなく, 苦鉄質メルトから晶出した原岩形成年代であると解釈できる。これは, ジルコンのコア部から測定した右肩上がりのREEパターン(ザクロ石非共存)や高いTh/U比といった微量元素データからも支持される。
 本研究では, 複雑なCL像組織を持つジルコンを解釈する上で, EBSDによる歪分布解析や光学顕微鏡による写真測量が強力なツールとなることを示した。これらの変形組織の詳細な観察の結果, エクロジャイト中のジルコンには, 変形に伴ってホスト鉱物成長後に微細鉱物が二次的に形成する場合があることが明らかになった。
[1] Schertl et al. (2019) Jour. Earth Sci, [2] Corfu et al. (2003) Rev. Mineral. Geochem.