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[S1-04]Crystallization kinetics of andesitic magmas during the cyclic Vulcanian eruptions at Sakurajima Volcano
Aulia Syafitri1,2, *Michihiko NAKAMURA1, Naoki Araya1,3, Mayumi Mujin1,4, Daisuke Miki5, Masato Iguchi5 (1. Tohoku Univ. Sci., 2. PVMBG, 3. AIST, GSJ, 4. Hokkaido Univ. Sci., 5. Kyoto Univ. DPRI.)
Keywords:
plagioclase,growth rate,nanolite,magma viscosity,Vulcanian eruption
含水マグマでは上昇・減圧に伴って結晶化が進行し、その際の粘性上昇は火山噴火様式の多様性を生む原因となる。地球物理観測によって地殻浅部へのマグマの貫入や上昇が捉えられたとき、マグマの結晶化速度が既知であれば、その後のマグマの粘性増加を時々刻々推定でき、火山活動のリアルタイム推移予測に資する。これまで、メルトの結晶化実験は数多く行われてきたが、自形の斜長石マイクロライト・ナノライトを主とする天然の石基組織の再現には必ずしも成功していない。メルトの減圧や冷却によって生じる過冷却は、既存の結晶の成長と、ナノライトの核形成・成長により消費される。石基の主たる鉱物相である斜長石は、一般に、溶融-結晶化実験では核生成しにくい傾向があり、その結果として既存の斜長石マイクロライトの成長に分配される実効的な過冷却度が大きくなって、骸晶や樹脂状結晶を生じやすい。このような場合、斜長石の成長速度はメルト中の拡散律速よりも桁で速くなることが知られている(e.g., Hammer and Rutherford 2002 J. Geophys. Res.; Larsen 2005 Am. Min.; Suzuki et al., 2007, Bull. Vol.)。本研究では、火道浅部条件での安山岩質マグマの結晶化速度とその律速過程を調べるため、桜島火山南岳のブルカノ式噴火噴出物の岩石学的な研究を行った。桜島の通常のブルカノ式噴火サイクルでは、先だって火口付近まで上昇したマグマが固結し生成した溶岩が、まず破砕されて石質岩片として噴出したのち、比較的規模が大きな場合には発泡度の高い軽石が引き続き噴出する(立尾・井口 2009 火山)。しかし、1976年5月11日12時28分に小規模なブルカノ式噴火が発生したのち、5月13日7時38分には主に軽石片のみが噴出し、17日13時42分には緻密な本質石質岩片が噴出した。そこで13日の噴出物の石基結晶は11日-13日噴火の間に核形成・成長し、17日の噴出物の石基結晶は13日-17日噴火の間に核形成・成長したと仮定して、斜長石の成長速度と核生成頻度を求めた。斜長石-メルト間分配に基づく含水量計では、5月11日と13日の爆発およびその後のマグマ上昇による減圧は、それぞれ4~31 MPaと24~29 MPaと推定された。観察された斜長石の斑晶の多くには、1回前の爆発によると考えられる破断面が見られ、破断面にはしばしば、爆発後の減圧によると考えられる再成長縁が形成されていたため、破砕後に成長した斜長石の幅を見積もることができる。5月13日と17日の噴出物に含まれる最大の再成長縁の幅は、それぞれ2.6 µmと1.7 µmであり、期間平均成長率は5月11日-13日と5月13日-17日においてそれぞれ0.4–1.7×10–11と1.7–4.7×10–12 m s–1と推定された。この速度は、拡散速度の温度・組成依存性を考慮すると、結晶化実験でこれまでに得られている値よりも数桁小さく、含水花崗岩質メルトにおけるAlとSiの自己拡散律速の場合の成長速度の中間に相当する。また5月11日-13日および5月13日-17日に核形成した可能性のある、再成長縁の幅(各2.6 µmと1.7 µm)以下(測定下限0.5 µm以上)のサイズのナノライトと微細粒のマイクロライトの数密度は、それぞれ1.4×10⁷と2.3×10⁸ mm⁻⁴であった。これらの結晶成長と核形成により、5月11日噴火から17日噴火にかけて、石基の結晶度は50.6 vol.%増加したと考えられる。これは、今回得られた斜長石結晶の成長速度および数密度から計算される値と調和的である。一連の噴火による結晶度の上昇と粒間液の分化作用による全石基の粘性上昇を計算すると、ブルカノ式噴火による応力破砕(急減圧による脆性破砕)閾値に達していたことがわかった。桜島火山においてはほぼ一定の化学組成を持つマグマが繰り返し活動しているため、本研究結果を用いると、マグマが火道浅部まで上昇した後の経過時間に応じた粘性上昇、および応力破砕閾値を超えるタイミングを半経験的に予測することが可能となる。今後さらに、天然のマグマにおける結晶核形成頻度の速度則を明らかにすれば、異なる火山においても、浅部火道でのマグマの結晶度と粘性の増加率を推定できるようになる可能性がある。