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[S1-05]Dissolution experiments of HCl-H2O fluids in a rhyolitic melt

*Daisuke Fujiwara1, Shumpei Yoshimura1 (1. Hokkaido Univ. Sci)
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Keywords:

Hydrogen chloride,Dissolution,Rhyolite

はじめに
 火口や火山体の表面から放出されているガスは,火山活動を監視する上で重要な観測対象である.近年,Christopher et al. (2010) は,Soufrière Hills火山において,噴火中および直前に噴気のHCl濃度が高まることを見出した.そして,これは上昇するマグマが激しく脱ガスしていることを示すものと考えた.一方,多くの火山岩では,石基ガラス中に塩素が高濃度で残っており,塩素の脱ガスはあまり顕著ではないように見える(Lowernstern et al.,2012).これらの観察事実を定量的に理解するには,メルト中の塩素溶解度を基に脱ガスをモデル化することが必要であるが,既存の溶解度データには次のような問題がある.すなわち,塩素の溶解度とされたデータのほとんどは,メルトと塩水(NaCl水溶液など)の平衡実験で測定されたものであり,HClを対象としたわけではない(Webster,1999など).塩水とHClでは,化学的性質が大きく異なるため,塩水を用いた実験データでは,HClの溶解・脱ガスを正しく理解できる保証はない.そこで本研究では, HClをメルトに溶解させる実験を行い,メルトのCl溶解度を測定した.

実験手法
 今回は,温度と全圧を固定し,平衡共存させる流体のHCl濃度を変化させる実験を行った.黒曜石(流紋岩質ガラス)を厚さ0.1 ㎜程度の板に加工し,これを様々な濃度(1.7,15.1,26.2,35.4 wt%)に調整した塩酸とともに肉厚の石英管に封入し,900 °Cで120~192時間,保持した.その際,石英管内の流体の圧力が約10 MPaになるよう,理想気体の状態方程式を基に塩酸の封入量を決定した.実験後,ガラスの化学組成(およびCl濃度)とH2O濃度を,それぞれFE-EPMAと顕微FT-IRを用いて分析した.

結果
 実験産物は無色透明のガラスであった.ガラス中のClとH2Oの濃度は概ね均質であり,拡散途中を示すような濃度勾配は見られなかった.流体のHCl濃度を増加させた結果,ガラスのCl濃度も増加した.例えば,流体のHCl濃度を1.7 wt%から35.4 wt%に増加させると(約20倍),ガラスのCl濃度は440 ppmから1950 ppmに増加した(約4倍).このとき,H2O濃度は0.85 wt%から0.76 wt%に減少した(約0.9倍).また,実験産物のガラス組成については,Na2OとK2Oの濃度は流体のHCl濃度に依らず,それぞれ13 %,6 %程度,出発ガラスよりも減少していた.CaOの濃度は,流体のHCl濃度が35.4 wt%のときのみ,27 %ほど減少していた.一方,Al2O3については,濃度変化はなかった.

考察
 流体のHCl濃度を約20倍に増加させたにもかかわらず,ガラスのCl濃度は4倍しか増加しなかった.このことは,メルトのCl濃度は流体のHCl濃度に鈍感であることを示している.また,このときH2O濃度は0.9倍しか変化しなかった.これは,流体のHCl濃度が大きく変化しても,H2Oの活量がほとんど変化しないことを示している.実験産物では,アルカリとCaの濃度低下が見られた.これは,これらの成分がガラスから溶脱したことを示しており,Guy and Schott (1989) の実験と調和的である.