Presentation Information
[S1-06]Degassing of a basaltic enclave inferred from spatial distribution of volatiles
*Shumpei Yoshimura1 (1. Hokkaido University)
Keywords:
Enclave,degassing
はじめに
火山噴火の直前,浅部の珪長質マグマに深部起源の玄武岩質マグマが注入されることがよくある.このとき,深部起源のマグマから放出された揮発性成分が浅部マグマに供給されることで,浅部マグマの性質が変化し,噴火の仕方に影響が生じる可能性がある(例えばEdmonds & Woods, 2018).しかし,玄武岩質マグマ中でどのようにガスが発生し,珪長質マグマに放出されるのかは,十分には明らかにされていない.本研究では,この過程を解明することを目的とし,新島アッチ山溶岩という,玄武岩質エンクレイブを含む流紋岩質溶岩流を対象として岩石組織の観察および揮発性成分の分析を行った.
結果
玄武岩質エンクレイブには,斑晶はほとんど含まれなかった(<1%,斜長石).エンクレイブの石基は,結晶(針状や樹枝状)と粒間ガラスから構成され,空洞(気泡)も多く含まれていた.結晶度は90%を超えており,結晶同士がぶつかり骨格を作っていた.粒間ガラスの化学組成は流紋岩質であり,エンクレイブの表面付近では,ホスト流紋岩のガラス組成と一致する箇所もあったが,内部では大きく異なっていた.粒間ガラスは揮発性成分に富んでおり,H2O = 1~2 wt%, Cl = 1400 ppm程度であった.一方,ホストの流紋岩は,斑晶(黒雲母,斜長石,石英,鉄チタン酸化鉱物)と,ほとんど気泡を含まないガラス質の石基から構成されていた.ホストの石基には,幅0.1 mmの脈状の構造がいたるところで形成されていた.この脈はエンクレイブの近傍で多く,エンクレイブの表面につながっており,あたかもエンクレイブから触手が伸びているような状態であった.脈の内部には,細粒の結晶,不定形のガラスがあり,隙間が多かった.脈には斑晶も含まれていた.脈の壁面には細かな凹凸が形成されていた.ホスト流紋岩の石基ガラスは,一般に揮発性成分に枯渇していたが(H2O=0.3 wt%, Cl = 800 ppm),脈やエンクレイブの近くでは高濃度となっていた(H2O=1.5 wt%, Cl = 1400 ppm).
考察
エンクレイブが著しく結晶化し,空洞や気泡も多かったことから,エンクレイブがホスト流紋岩質マグマに取り込まれた際,冷却結晶化によりガスが発生したと考えられる(二次沸騰).ホスト流紋岩の石基ガラスの揮発性成分濃度は,脈とエンクレイブの近くで高まっていたこと,また,この濃度はエンクレイブ内の粒間ガラスの揮発性成分濃度と同程度であったことから,エンクレイブ内で発生したガスはホストの流紋岩質マグマに対して過剰圧を持っており,脈状構造を通り道として,ホストマグマに勢いよく流出したと考えられる.脈の壁面の凹凸は,腐蝕反応生成物(たとえばYoshimura, 2018)の表面に似ている.このことから,エンクレイブ内で発生したガスは高い反応性を持ち(塩素成分に富む),メルトを化学的に破壊していた可能性がある.すなわち,ガス自体がメルトを掘削し,自らの通り道を切り開いていた可能性が考えられる.以上のことから,エンクレイブの脱ガスでは,エンクレイブの結晶化と二次沸騰のダイナミクス,腐蝕反応のカイネティクスにより支配されていると考えられる.
火山噴火の直前,浅部の珪長質マグマに深部起源の玄武岩質マグマが注入されることがよくある.このとき,深部起源のマグマから放出された揮発性成分が浅部マグマに供給されることで,浅部マグマの性質が変化し,噴火の仕方に影響が生じる可能性がある(例えばEdmonds & Woods, 2018).しかし,玄武岩質マグマ中でどのようにガスが発生し,珪長質マグマに放出されるのかは,十分には明らかにされていない.本研究では,この過程を解明することを目的とし,新島アッチ山溶岩という,玄武岩質エンクレイブを含む流紋岩質溶岩流を対象として岩石組織の観察および揮発性成分の分析を行った.
結果
玄武岩質エンクレイブには,斑晶はほとんど含まれなかった(<1%,斜長石).エンクレイブの石基は,結晶(針状や樹枝状)と粒間ガラスから構成され,空洞(気泡)も多く含まれていた.結晶度は90%を超えており,結晶同士がぶつかり骨格を作っていた.粒間ガラスの化学組成は流紋岩質であり,エンクレイブの表面付近では,ホスト流紋岩のガラス組成と一致する箇所もあったが,内部では大きく異なっていた.粒間ガラスは揮発性成分に富んでおり,H2O = 1~2 wt%, Cl = 1400 ppm程度であった.一方,ホストの流紋岩は,斑晶(黒雲母,斜長石,石英,鉄チタン酸化鉱物)と,ほとんど気泡を含まないガラス質の石基から構成されていた.ホストの石基には,幅0.1 mmの脈状の構造がいたるところで形成されていた.この脈はエンクレイブの近傍で多く,エンクレイブの表面につながっており,あたかもエンクレイブから触手が伸びているような状態であった.脈の内部には,細粒の結晶,不定形のガラスがあり,隙間が多かった.脈には斑晶も含まれていた.脈の壁面には細かな凹凸が形成されていた.ホスト流紋岩の石基ガラスは,一般に揮発性成分に枯渇していたが(H2O=0.3 wt%, Cl = 800 ppm),脈やエンクレイブの近くでは高濃度となっていた(H2O=1.5 wt%, Cl = 1400 ppm).
考察
エンクレイブが著しく結晶化し,空洞や気泡も多かったことから,エンクレイブがホスト流紋岩質マグマに取り込まれた際,冷却結晶化によりガスが発生したと考えられる(二次沸騰).ホスト流紋岩の石基ガラスの揮発性成分濃度は,脈とエンクレイブの近くで高まっていたこと,また,この濃度はエンクレイブ内の粒間ガラスの揮発性成分濃度と同程度であったことから,エンクレイブ内で発生したガスはホストの流紋岩質マグマに対して過剰圧を持っており,脈状構造を通り道として,ホストマグマに勢いよく流出したと考えられる.脈の壁面の凹凸は,腐蝕反応生成物(たとえばYoshimura, 2018)の表面に似ている.このことから,エンクレイブ内で発生したガスは高い反応性を持ち(塩素成分に富む),メルトを化学的に破壊していた可能性がある.すなわち,ガス自体がメルトを掘削し,自らの通り道を切り開いていた可能性が考えられる.以上のことから,エンクレイブの脱ガスでは,エンクレイブの結晶化と二次沸騰のダイナミクス,腐蝕反応のカイネティクスにより支配されていると考えられる.