Presentation Information
[S2-06]In-situ feldspar-fluid reactions revealed from direct drilling of superhot granitic body, and extension of feldspar thermometry to low temperature regions
*Masaoki UNO1, Masataka HOSHIDA2, Noriyoshi TSUCHIYA3,2 (1. Univ. Tokyo, EPS, 2. Tohoku Univ., GSES, 3. Hachinohe Col.)
Keywords:
Feldspar-fluid reactions,Supercritical geothermal,Feldspar thermometry,Bayesian optimization,Kakkonda geothermal field
地殻内の流体活動は,エネルギー・物質輸送・地震誘発の重要な担い手である[e.g., 1].特に長石と流体との反応は,地表に露出した花崗岩や水熱合成実験から地殻内で広範である可能性が示されている[2,3]が,これらの深部地殻の岩石―流体反応を直接観察できることは稀であり,「現在進行中」の高温の岩石―流体反応が地殻内のどこでどの程度普遍的なのかはよくわかっていない.近年,我々のグループでは,500℃を超える超高温坑井から採取された葛根田花崗岩のサンプルから,現在の坑井温度で反応している長石―流体反応を見出した.本研究では,葛根田花崗岩から地殻内での長石―流体反応を評価するとともに,水熱合成実験とベイズ最適化によって400–600℃でも適用可能な長石温度計を開発し,地殻内での長石―流体反応の温度および空間的な広がりを明らかにした.
調査対象は東北日本の仙岩地域に位置する葛根田地熱地域である.本地域ではWD-1坑で第四系の葛根田花崗岩を深度2985–3725 mで採取しており,深度3500 mで坑井温度500℃以上を記録している[4].葛根田花崗岩中の斜長石はNaに乏しいコアがシャープな境界で切られて<10 µmの空隙を含むNaに富むリムに置換されている.アルカリ長石は比較的均質な組成を示すが,数十µmほどの細粒な粒子の集合体になっている.これらの斜長石のNaに富むリムとそれに接するカリ長石のリムを463ペア測定した.
斜長石のリムのXab[=Na/(Na+Ca+K)]は深さ2895 mで0.73–0.92であるのに対して,3725 mでは0.49–0.70へと系統的に減少する.同様にアルカリ長石中のXor[=K/(Na+Ca+K)]は0.88–0.93から0.81–0.86へと減少する.2長石温度計[e.g., 5]は深度2895 mで375–468℃から3725 mで532–608℃へと系統的に増加し,坑井温度(2895 mで378℃; 3725 mで579℃)と非常に近い温度を示す.これらの結果から,葛根田花崗岩中の長石は現在の坑井温度に従ってその場で流体と反応していることが示唆される.
さらにこれらの長石温度の妥当性を検証するために400, 500, 600℃, 200 MPaでサニディンとNaCl–CaCl2流体を反応させた結果,高温ほどNaに乏しくKに富む斜長石とKに乏しいカリ長石のペアが生成し,その組成幅は葛根田花崗岩の長石組成と調和的であった.既存の数少ない3成分系の長石合成実験(900–650℃)[6,7]と本研究の水熱実験結果(600–400℃)をあわせ,温度およびソルバス組成を同時に最適化するベイズ最適化を行ったところ,400–900℃の幅広い温度で適用可能な長石温度計を校正することができた.この新たな長石温度計を上記の葛根田花崗岩の長石リム部に適用したところ,各深度での長石温度の最低値が坑井温度と一致することが明らかになった.これは冷却過程を示す長石リム部の組成累帯構造や,葛根田地熱地域の冷却史と調和的である.
葛根田花崗岩の含水ソルバスが約760℃であること,接触変成帯では緑泥石温度計が260–370℃を,黒雲母温度計は630–760℃を示すこと[8]を考慮すると,葛根田花崗岩は760℃で固結し,周囲の接触変成帯を約630–760℃まで熱し,岩体境界は徐々に約380℃まで冷却した.黒雲母はピーク変成条件を記録しているのに対して,緑泥石は現在の坑井温度を反映している.それに対して,長石のリム部はマグマの固結から現在の坑井温度までを継続的に記録している.
このような長石の溶解沈殿による変質は,従来花崗岩中の「サブソリダス反応」として広く認識されているものである.本研究でみられた長石のその場変質は,葛根田花崗岩内外に広く分布する約10 Ωm程度の低比抵抗帯に相当する.以上より長石の変質は深部の地熱流体に駆動される現在進行中のプロセスであり,島弧下で普遍的に生じていると考えられる.
1: Weiss et al., 2012 Science, 338, 1613–1616.
2: Plümper et al., 2017 Nat. Geosci., 10, 685–690.
3: Nurdiana et al., 2021 Lithos, 388–389, 106096.
4: Doi et al., 1998 Geothermics, 27, 663–690.
5: Benisek et al., 2014 Am. Mineral., 99, 76–83.
6: Seck, 1971 Neues Jahrbuch Mineralogie Abhandlungen, 115, 315−345.
7: Elkins & Grove, 1990 Am. Mineral., 75, 544–559.
8: Uno et al., 2023 Geothermics, 115, 102806.
調査対象は東北日本の仙岩地域に位置する葛根田地熱地域である.本地域ではWD-1坑で第四系の葛根田花崗岩を深度2985–3725 mで採取しており,深度3500 mで坑井温度500℃以上を記録している[4].葛根田花崗岩中の斜長石はNaに乏しいコアがシャープな境界で切られて<10 µmの空隙を含むNaに富むリムに置換されている.アルカリ長石は比較的均質な組成を示すが,数十µmほどの細粒な粒子の集合体になっている.これらの斜長石のNaに富むリムとそれに接するカリ長石のリムを463ペア測定した.
斜長石のリムのXab[=Na/(Na+Ca+K)]は深さ2895 mで0.73–0.92であるのに対して,3725 mでは0.49–0.70へと系統的に減少する.同様にアルカリ長石中のXor[=K/(Na+Ca+K)]は0.88–0.93から0.81–0.86へと減少する.2長石温度計[e.g., 5]は深度2895 mで375–468℃から3725 mで532–608℃へと系統的に増加し,坑井温度(2895 mで378℃; 3725 mで579℃)と非常に近い温度を示す.これらの結果から,葛根田花崗岩中の長石は現在の坑井温度に従ってその場で流体と反応していることが示唆される.
さらにこれらの長石温度の妥当性を検証するために400, 500, 600℃, 200 MPaでサニディンとNaCl–CaCl2流体を反応させた結果,高温ほどNaに乏しくKに富む斜長石とKに乏しいカリ長石のペアが生成し,その組成幅は葛根田花崗岩の長石組成と調和的であった.既存の数少ない3成分系の長石合成実験(900–650℃)[6,7]と本研究の水熱実験結果(600–400℃)をあわせ,温度およびソルバス組成を同時に最適化するベイズ最適化を行ったところ,400–900℃の幅広い温度で適用可能な長石温度計を校正することができた.この新たな長石温度計を上記の葛根田花崗岩の長石リム部に適用したところ,各深度での長石温度の最低値が坑井温度と一致することが明らかになった.これは冷却過程を示す長石リム部の組成累帯構造や,葛根田地熱地域の冷却史と調和的である.
葛根田花崗岩の含水ソルバスが約760℃であること,接触変成帯では緑泥石温度計が260–370℃を,黒雲母温度計は630–760℃を示すこと[8]を考慮すると,葛根田花崗岩は760℃で固結し,周囲の接触変成帯を約630–760℃まで熱し,岩体境界は徐々に約380℃まで冷却した.黒雲母はピーク変成条件を記録しているのに対して,緑泥石は現在の坑井温度を反映している.それに対して,長石のリム部はマグマの固結から現在の坑井温度までを継続的に記録している.
このような長石の溶解沈殿による変質は,従来花崗岩中の「サブソリダス反応」として広く認識されているものである.本研究でみられた長石のその場変質は,葛根田花崗岩内外に広く分布する約10 Ωm程度の低比抵抗帯に相当する.以上より長石の変質は深部の地熱流体に駆動される現在進行中のプロセスであり,島弧下で普遍的に生じていると考えられる.
1: Weiss et al., 2012 Science, 338, 1613–1616.
2: Plümper et al., 2017 Nat. Geosci., 10, 685–690.
3: Nurdiana et al., 2021 Lithos, 388–389, 106096.
4: Doi et al., 1998 Geothermics, 27, 663–690.
5: Benisek et al., 2014 Am. Mineral., 99, 76–83.
6: Seck, 1971 Neues Jahrbuch Mineralogie Abhandlungen, 115, 315−345.
7: Elkins & Grove, 1990 Am. Mineral., 75, 544–559.
8: Uno et al., 2023 Geothermics, 115, 102806.