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[S2-P-02]Trace element compositional change of minerals through the contact metamorphism of the Tari-Misaka ultramafic complex, Inner Zone of Southwest Japan

*Makito Narumi1, Yuji Ichiyama1, Akihiro Tamura2, Tomoaki Morishita2 (1. Chiba Univ. Sci., 2. Kanazawa Univ. Sci.)
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Keywords:

deserpentinization,contact metamorphism,metaperidotite,Independent Component Analyses (ICA)

蛇紋岩はH2Oや流体移動元素 (FME)のリザーバーとして,特に沈み込み帯での元素循環において重要な役割を担っていることが指摘されている (例えば,Hattori and Guillot, 2003; Scambelluri et al., 2019).従って,沈み込み帯の元素循環における,蛇紋岩の役割を明らかにするためには,蛇紋岩化や脱蛇紋岩化に伴う元素移動の解明が必要である.脱蛇紋岩化時の元素挙動については,これまでに高圧~超高圧変成帯に産する蛇紋岩の研究から,海洋プレートの沈み込みに伴ったFMEの放出が認められている (例えば,Lafay et al., 2013; Scambelluri et al., 2015).しかし,こうした変成かんらん岩の原岩組成は不明確であるとともに,上昇時の後退作用の影響も無視できない.その一方で,火成岩の貫入により,蛇紋岩体の接触変成作用に伴って形成された変成かんらん岩 (例えば,Arai, 1975)は,脱蛇紋岩化反応の進行に応じた組成変化を連続的に評価することが可能であるため,脱蛇紋岩化時の元素挙動を明らかにするうえで,格好の研究対象となりえる.変成かんらん岩形成時の元素挙動に関しては,Khedr and Arai (2012)などわずかな研究例に限られており,脱蛇紋岩化反応の進行に応じた組成変化については,未だによく理解が進んでいない.そこで本研究では,接触変成作用を被った多里–三坂地域の超マフィック岩体を対象に,変成度に応じた組成変化を,特に変成鉱物に注目して評価することを目的とする.
多里–三坂超マフィック岩体は,主に古生代の前弧域マントルウェッジを起源とする蛇紋岩化した融け残りハルツバージャイトで構成されている (例えば,松本ほか,1995; Nozaka, 2014).白亜紀後期から古第三紀の火成岩類の貫入によって,超マフィック岩体は接触変成作用 (最高で610–750℃; Arai, 1975; Nozaka, 2011)を被っており,低変成度側からIa帯 (非変成帯; クリソタイル/リザーダイト),Ib帯 (かんらん石+アンチゴライト+トレモライト),II帯 (滑石+かんらん石+トレモライト),III帯 (直閃石+かんらん石+トレモライト),IV帯 (直方輝石+かんらん石+トレモライト)に変成分帯が行われている (Arai, 1975; 松本ほか, 1995).本研究では,それぞれの変成分帯から採取された試料について,鉱物及び全岩の主要・微量元素組成を測定し,独立成分分析 (ICA)を用いることによって,組成データの構造を明らかにした.
全岩組成に対してICAを行った結果,特にCs,Rb,Liや軽希土類元素 (LREE)の濃集を特徴とする成分が分離され,Ia帯,Ib帯,II~IV帯に向かうほど高い値を示した.これら元素は花こう岩質の含水メルトや,水性流体に比較的多く含まれることから,貫入してきた花こう岩類から元素が付加されたことを示唆している.変成かんらん石の微量元素組成に関するICAの結果でも,変成度の増加に伴い,これら元素が増加する成分が分離された.変成かんらん石では特徴的に包有物を含んでいる試料が観察されており,かんらん石に関するICAの結果では,包有物に富むかんらん石ほど微量元素に富んでいることも示している.トレモライトは変成鉱物の中でも,特に微量元素に富んでいるため,トレモライトのモード量が全岩微量元素組成に強く影響を与えている.II帯~IV帯に属する変成かんらん岩の微量元素組成は概ね類似しているが,IV帯に比べてII帯とIII帯で全岩微量元素に富む傾向が見られ,II帯とIII帯がIV帯よりもトレモライトを多く含むことによって説明される.
沈み込みに伴う脱蛇紋岩化を経験した変成かんらん岩 (Cima di Gagnone; Scambelluri et al., 2014, 2015)の全岩や変成かんらん石,直方輝石の微量元素組成は,本研究のII帯~IV帯の変成かんらん岩の全岩,鉱物組成と類似している.どちらの変成かんらん岩にも含まれる,変成かんらん石や変成直方輝石といった無水鉱物は,特にB,Pb (最大で始原マントルの103倍程度),Cs,Li(最大で始原マントルの102倍程度)を相当量含んでいる.Cima di Gagnoneの変成かんらん岩については,脱蛇紋岩化前の地殻成分の関与によって説明されている (Scambelluri et al., 2015).このような,形成環境の大きく異なる両者での組成の一致は,十分な地殻成分の寄与を経験した超マフィック系において,微量元素の挙動が,圧力によらず類似していることを暗示している.また,無水鉱物中の高いB,Pb,Cs,Li量は,これら元素が脱蛇紋岩化した変成かんらん岩によってマントル深部まで運搬されていることを示唆している.