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[S2-P-03]Listvenite from Omi River, Itoigawa City, Niigata Prefecture, Japan

*Kazuma Enokida1, Yohei Shirose1 (1. Ehime Univ. Sci.)
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Keywords:

listvenite,carbonation,serpentinite,Omi River,albite-carbonatite

【はじめに】
 リスウェナイトは,蛇紋岩などの超苦鉄〜苦鉄質岩とCO2に富む流体の交代作用によって形成される岩石で,主にマグネサイトなどの炭酸塩鉱物,石英,含Cr白雲母,黄鉄鉱などで構成される(Halls and Zhao, 1995 ; Menzel et al., 2024)。日本においては四国の中央構造線沿いや長崎県雪浦で産出が報告されており,その原岩はアンチゴライトを主とする蛇紋岩や泥質片岩と考えられている(Mori et al., 2007 ; 皆川ほか, 2008 ; 白勢ほか, 2022 ; Takagaki & Shirose, 2025)。
 今回,新潟県糸魚川市青海川においても蛇紋岩に伴うリスウェナイトの産出を確認した。本研究ではこのリスウェナイトの形成過程を明らかにすることを目的とする。また,本リスウェナイトの原岩の蛇紋石の種類が他地域と異なる可能性があり,その違いが形成にどのように影響するのか合わせて検討していく。
【産状・試料】
 新潟県青海川地域は飛騨外縁帯に属しており,結晶片岩,蛇紋岩,石灰岩などが狭い範囲に分布する。また,結晶片岩やひすい輝石岩等の種々の岩石が蛇紋岩メランジュのブロックとして散在する(辻森ほか, 2000)。
 青海川中流には滑石-炭酸塩岩からリスウェナイトへ漸移的に変化する岩体が見られ,曹長石-炭酸塩岩がこの漸移部のリスウェナイト側に隣接する。またblock-in-matrix 構造の蛇紋岩が剪断帯を挟んで分布する。漸移部と曹長石-炭酸塩岩は5 mほど,蛇紋岩は10数 m規模の露頭である。
【実験手法】
 組織観察および化学分析にはJEOL 製SEM JSM-6510LV,鉱物の同定にはRIGAKU 製XRD Ultima IVを用いた。
【結果】
 ブロック部の蛇紋岩は主にリザーダイト,クリノクリソタイルと少量の緑泥石,磁鉄鉱,硫化鉱物,方解石からなり,鏡下ではメッシュ組織が著しい(Fig.a)。また蛇紋石脈や方解石脈が見られ,細粒なペントランド鉱などの硫化鉱物が組織全体に点在する。
 マトリクス部は主に緑泥石と少量の方解石からなるタイプと,主にクリソタイル類と少量の磁鉄鉱,緑泥石,方解石からなるタイプに分けられる。
 滑石-炭酸塩岩は主に滑石,マグネサイト,ドロマイト,石英と少量の緑泥石,磁鉄鉱からなる。鏡下では滑石からなるメッシュ組織(Fig.b)と粒状のマグネサイトが発達する組織が見られた。マグネサイトはFeに富むリムを持つ。また,ブロック部の蛇紋岩と滑石-炭酸塩岩は共通して緑泥石と磁鉄鉱が隣接する組織をもつ。
 リスウェナイトは主にマグネサイト,ドロマイト,石英と少量の含Cr白雲母,モンモリロナイト,クロム鉄鉱,磁鉄鉱,方解石,黄鉄鉱などの硫化鉱物からなる。主に細粒な炭酸塩鉱物と石英からなる灰色部に,含Cr白雲母,クロム鉄鉱,石英からなる緑色部がまだらに入る見た目を持つ。岩体内で組織内の緑色部が占める割合が大きく異なる。鏡下では滑石-炭酸塩岩とリスウェナイトはどちらも炭酸塩鉱物と石英の脈が発達している。
 曹長石-炭酸塩岩は主に曹長石,マグネサイト,ドロマイト,石英と少量の緑泥石,白雲母,黄鉄鉱からなる。鏡下では0.1 mmほどの粗粒な板状の曹長石の粒間や内部に炭酸塩鉱物が分布し,組織全体を炭酸塩鉱物脈が切っている。
 【考察】
 滑石-炭酸塩岩の原岩は,メッシュ組織の類似から蛇紋岩と考えられる。Menzel et al. (2024)で示されるような以下の反応式によって,蛇紋岩とCO2に富む流体が反応して形成されたと考えられる。
2 Mg3Si2O5(OH)4 [蛇紋石] + 3 CO2,aq = 3 MgCO3 [マグネサイト] + Mg3Si4O10(OH)2 [滑石] + 3 H2O
 また,リスウェナイトは滑石-炭酸塩岩から,あるいは蛇紋岩から直接形成された。漸移部はCO2流体との反応度合いを反映していると考えられる。CO2流体は剪断帯などに流入して供給されたか,あるいは地下深部にて共在していた泥質片岩など周囲の岩体から供給されたと考えられる。曹長石-炭酸塩岩はその組織から曹長石に富む岩石が炭酸塩化して形成されたと考えられる。炭酸塩鉱物はリスウェナイトと同様にマグネサイトとドロマイトであり,リスウェナイトを形成した炭酸塩化の影響を被った可能性がある。愛媛県浦山川(Takagaki & Shirose, 2025)ではアンチゴライトに由来する短冊状のマグネサイトからなるリスウェナイトが見られるが,青海川では滑石-炭酸塩岩が蛇紋岩のメッシュ組織を受け継ぐ特徴的な組織を有する。リスウェナイトの緑色部は浦山川と青海川で特徴が異なっており,前者では細粒な石英の集合中に5~25 μmの含Cr白雲母や含Crモンモリロナイトが見られる均質な組織だが,後者は100 μmの板状の白雲母がクロム鉄鉱周囲に見られる不均質な組織をもつ。