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[S3-08]The post-antigorite reaction experiments in a peridotite matrix and dehydration embrittlement

*Musashi Ezaki1, Tomoaki Kubo1, Rikuto Honda1, Yuta Goto1, Noriyoshi Tsujino2, Yuji Higo2 (1. Kyushu Univ. Sci., 2. JASRI)
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Keywords:

Antigorite,Dehydration embrittlement,Deformation experiments

深さ60km以深で発生する深発地震のメカニズムの一つとして、含水鉱物の脱水反応が岩石断層運動を誘発する「脱水脆性化説」が注目されている。しかし、これまでの多くの実験研究は圧力5GPa以下の条件で行われており、トンガスラブのような深さ約300kmまで分布する地震現象を説明するには不十分であった。本研究では、カンラン岩カプセルを用いて、地球内部に近い状態でのアンチゴライト脱水反応を実験的に再現し、その過程で生じる脱水生成フルイドとマントル鉱物との化学的、物理的相互作用10GPaまでの変形場で明らかにすることを目的としている。実験は九州大学設置のD111型高圧発生装置(QDES2)およびSPring-8のBL04B1設置の高圧装置SPEED Mk.IIにD111型ガイドブロックを組み込んで、急冷法および放射光 X 線その場観察法によって行った。出発物質には長崎県川原木場産のアンチゴライト多結晶を円柱状に加工し、それを北海道幌満産のカンラン岩カプセルに封入した。実験は低温スラブ条件である8-10GPa、~400℃-700℃において変形を伴わない反応実験と、歪み速度4-の変形場での反応実験を比較しながら行っている。後者ではAEの測定を行い、また X 線その場観察法では、60keVの単色 X 線で 2 次元 X 線回折(2D-XRD)およびラジオグラフィー測定を行い、反応や変形の進行をモニターした。回収試料はXRD、FE-SEM、EDSを用いて分析を行い、反応生成物の同定や化学組成分析、変形および反応組織を検討した。10GPa、500℃における急冷法反応実験においてアンチゴライトはDHMS相である、Phase E(Mg2.3Si1.3H2.4O6)、Phase A(Mg₇Si₂H₆O₁₄)およびEnstatite(MgSiO₃)からなるサブミクロン相に分解した。また、アンチゴライトに接するカンラン岩カプセルのOlivineは脱水生成フルイドと反応し、内側にPhase AとEnstatite的な組成の2相、外側にPhase Eとみられる相からなる 2 層構造の反応帯が形成されていた。一方で、かんらん岩カプセル中のOpxやCpxはフルイドと反応せず、アンチゴライトとの境界部にも反応帯は形成されない。Olivineとの反応帯全体の幅は1時間 3時間で82(2)μm→115(5)μmに成長しているが、そのうちPhase E反応帯の幅はともに約15μmでほとんど変化していないことが特徴である。また、反応帯の外のOlivineにも脈状にPhase Eと思われる相が散在しており、脱水したフルイドは粒界に限らずOlivine中を浸透し、反応初期段階でまず準安定なPhase E が生成、その後Phase A + Enstatiteに置き換わっていく可能性が示唆された。X線その場観察法からはアンチゴライトがPhase Eおよび10Åphase(Mg3Si4H6O14)に分解した後にPhase Aの出現が確認される一連の分解反応が明らかになった。変形反応実験では、アンチゴライトの脱水分解に関連して断続的なAEが観測され、回収試料のカンラン岩カプセル中には局所的な断層組織が形成されていた。これら断層周辺には流体の流入跡も確認され、アンチゴライトの脱水反応による流体生成がカンラン岩の脆性化を誘発したと考えられる。また、変形反応実験では、急冷反応実験で見られたようなアンチゴライトとカンラン岩境界の明確な反応帯は形成されず、代わりにDHMSと思われる脈状組織が、よりアンチゴライトから遠いオリビン内部にも形成されていた。差応力場では、カンラン岩部へのフルイドの移動がよりスムーズに起こることで、アンチゴライトの脱水反応とカンラン岩部の脆性化を誘起している可能性がある。これらのプロセスは、深さ300km付近で起こる稍深発地震のメカニズムとして有望であり、今後より詳細を検討していく必要がある。