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[S3-10]Signatures of mantle melts/fluids within olivine xenocrysts from Oshima-Ōshima picritic basalts

*Ryo Tsukawaki1, Terumi Ejima2, Atusi Ninomiya3, Yuto Sato4, Hirochika Sumino5, Shoji Arai6 (1. Shinshu Univ. Sci., 2. Shinshu Univ. Sci. , 3. Sumiko Res. Exp. & Dev. Co., 4. JAMSTEC Kochi, 5. RCAST, Univ. of Tokyo, 6. Kanazawa Univ.)
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Keywords:

Mantle,Picritic basalt,Olivine,melt/fluid,Oshima-Ōshima

マントル内でメルトと流体が分離する以前の超臨界状態の流体(メルト/流体)は,マグマ成因や元素および揮発性成分の分配・輸送メカニズムを規定する鍵となる(e.g., Kawamoto et al., 2012).しかし,マントルにおけるメルト/流体に関する研究の多くは実験的手法によるものであり,天然試料を用いてその組成や挙動について検証されている例は極めて少なく(e.g., Taniuchi et al., 2021),その実体には未解明な点が多く残されている.著者らのこれまでの研究では,渡島大島ピクライト玄武岩中の一部のかんらん石がマントル捕獲結晶であること,およびその内部にメルト/流体の痕跡が保存されていることを示した(塚脇ほか,2024,鉱物科学会).これらの痕跡から,上部マントルでメルト/流体が単なる鉱物粒間だけでなく,かんらん石の結晶内部も移動経路としていたことを示した(塚脇ほか,2024,鉱物科学会).一方で,これらのメルト/流体の痕跡について,その起源および組成については明らかになっていない.以上を踏まえ,本研究ではピクライト玄武岩中のマントル捕獲結晶であるかんらん石に保存されているメルト/流体の痕跡から,その起源および組成の解明を目的とする.ピクライト玄武岩に含まれるマントル捕獲結晶のかんらん石中のメルト/流体の痕跡を対象に,電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(信州大)による観察および組成分析を行った.また,³He/⁴He比測定(東京大)を行い,マントル起源の同位体的特徴を検証した.さらに,フーリエ変換型赤外分光分析計(FTIR,JAMSTEC高知コア研究所)によるメルト/流体中に含まれる揮発性成分の検出を行なった.渡島大島ピクライト玄武岩中に含まれるかんらん石斑晶のコアは黒色~褐色を呈する(このコアを以降は“Dark core”とよぶ).この“Dark core”にはキンクバンドや波動消光が見られ,応力を受ける環境下に存在していたことを示す.また,“Dark core”のかんらん石のFo値およびNiO含有量は上部マントル由来のかんらん石の値(Olivine Mantle Array, 高橋, 1986)と同様の値(Fo90-92, 0.47-0.31 wt%)であり,“Dark core”がマントル捕獲結晶のかんらん石であることを示す.さらに,“Dark core”には,直径数µmの球形の“多相包有物”が多数含まれており,そのために黒色を呈する.これらの“多相包有物”は自形のクロムスピネル,ガラスおよび空隙(マントルで流体であった相)から構成され,ガラス相からはNa,ClおよびF等,かんらん石には不適合な元素が検出された.また,流体相から得られた³He/⁴He比は8.29 ± 0.05 RAであり,中央海嶺玄武岩の起源となるマントルの値の範囲(7–9 RA,Graham, 2002)と一致する.さらに, FTIR分析の結果,“Dark core”からH2OおよびCO2が検出された.以上の結果より,メルト/流体は流体相としてH2OおよびCO2を含有していることが明らかになった.また,このメルト/流体にはNaなどのかんらん石構造に入りにくい陽イオンに加え,ClおよびF等のハロゲン元素を含んでいたことが示された.EBSD法による結晶方位解析により,“多相包有物”はかんらん石の(100)または(010)面上に分布していることが明らかになった.これらの結晶面は,マントルにおけるすべり面とも関連しており(Jung and Karato, 2001),メルト/流体がかんらん石結晶内部を移動・貯蔵する際の結晶学的制約を反映している可能性がある.以上の結果より,渡島大島下の上部マントルでは,Na,ClおよびFを含むメルト/流体(CO2–H2O)がかんらん石結晶内部を移動・滞留することができたと考察する.

References:
Graham, 2002, Rev. Mineral. Geochem., 41, 247-318, Jung and Karato, 2001, Science, 293, 1460-1463, Kawamoto et al. 2012, Proc. Natl. Acad. Sci., 109, 18695-18700, 高橋, 1986, 火山, 30, 17-40, Taniuchi et al., 2021, J. Petrol., 62, egab099, 塚脇ほか,2024,鉱物科学会講演要旨